賃金・為替調整のマクロ経済効果* 一転換期ブラジル経済の短・中期的分析一 石黒馨(阪南大学) I,はじめに H’モデルの定式化 Ⅲ,諸変数変化の短期的効果 Ⅳ,中期勤学分析一賃金・為替調整一 V,むすび Iはじめに 1970年代のブラジル経済のパフォーマンスは,第一次石油ショックを契機 に,大きく転換した。第1表からわかるように,高度成長期(1968~73年) と比較すると,転換期(1974~80年)のインフレ率は,年平均193筋から 53.9妬へと上昇し,経済成長率は,年平均11.2船から7.1緒へと低下した。ま た,貿易収支も,高度成長期の黒字基調から大幅な赤字基調へと転換し,その結 果,対外債務累積が激増した。本稿の目的は,以上のような転換期ブラジル経済 のパフォーマンスを,(1)石祇ショックに象徴される国際経済環境の変化,(2)それ に対応して行われた国内経済政策の変化(1974~79年の第二次国家開発計画= HPND),(3)ブラジル経済の構造的特徴としてあげられるインデクセーション, (1) という視点から考察することである。 分析は,転換期ブラジル経済について,簡単なマクロ経済モデルを櫛成し, 石油価格の上昇及び第二次国家開発計画に基づく財政支出の増大が,物価水準, 産出量:,貿易収支等に与える短期的効果の検討,そして賃金・為替のインデク セーションを考慮した中期勤学分析というように行われる。モデルの檎成にあ たっては,特にブラジル経済を特徴的に表す為替レートと貨幣賃金率のインデ クセーションを考慮したモデルが構成される。 為替レートのインデクセーションについては,ブラジルでは1968年8月よ りクローリング・ベッグ制が実施されている。それ以後クルゼーロの若干の過 大評価が存在したが,ほぼ購買力平価が成立するように為替レートの調整が行 われてきた(第2表参照)。 またi賃金のインデクセーションについては,高度成長期の後半に所得格差 の拡大についての批判が高まり,1970年代には最低実質賃金の引き上げ傾向 がみられ,犠換期には実質賃金率がほぼ一定に維持されるように,貨幣質金率 の調整が行われてきた(第3表参照)。 以下,第Ⅱ節では,本稿の分析のフレームワークとなるマクロ経済モデルが 定式化される。第、節では,(1)石油価格が上昇した場合,(2)第二次国家開発計 画に基づく財政支出が増大された場合,(3)その他の変数が変化した場合に,経 済諸変数に与える短期的効果が分析され,第Ⅳ節では,その中期的効果が検討 される。最後に,第V節では,結論が要約される。 1 第1表ブラジルのマクロ経済指標 インフレ率(%) 貿易収支(10肪陶 ●●0-●DB 20』8010 □ 111 26 318 232 341 ▲ 244 ▲ 0.3 000 078 ● 122 ▲▲▲ ●● 0087478 ● 9419212 652 690 432 △▲▲ ●□● 5674889 7.1 ▲ 7 11.2 9595467 53.9 108214 ● 1 年平均 ■● 1979 ●●一■ 1978 S 1977 5438822 1976 4968070 3243471 1975 11 19.3 1974 1980 0 年平均 0 1973 ◆■ 1972 ●■ 1971 423575 1970 509.955 1969 221111 1968 国内繕生産(%) △ 2.417 (出所)国内総生産,貿易収支については,ConjunturaEcon6micaFGV・ インフレ率については,…BoletimdoBancoCentraldoBrasil. 2 第2表ブラジルの実質為替相場 実質為替相場 1972 95.8 O 93.7 1973 ●■●●● 95.4 324038 1971 ハロ●上ワ0▽0(℃PD 97.1 11 1970 Q〕〈Uq)q)q〉(U 98.1 456789 777777 1969 111111 100.0 999999 1968 実質為替相褐 (出所)EconomicSurveyofLatinAmerica-1977,1979,UN. (注)各年末の名目為替レート指数を,(ブラジルの総合物価指数)/(アメリ カの卸売物価指数)でデフレート。1968年=100. 第3表ブラジルの実質賃金 実質賃金 実PmFi金 b 9 R 8 9 O D ●●、● ● 1 1679R4 ●● 111 0 8 0 1 9 0●●△P 998521 990910 ● ■ 69⑫3692 9 7 1 0 、〉丙! 63807 99999 0O●●■ふD 〈UP、【I〈bくり戸⑪R) 1 0■■一 9236923 7 1 9 .9 9 7 1 7.8 7 1 9 (出所)賃金指数については, ConjunturaEcon6mica,FGV. 物価指数については, InternationalFinancialStatistics, 1MF、 (注)各月の名目賃金指数を, 各月の総合物価指数でデフレート。 3 Hモデルの定式化 石油価格の上昇及びその後の政策的対応(HPNDに基づく財政支出の増大) が,ブラジル経済に与えた効果を分析するために,以下のようなマクロ経済モ デルを構成する。 * (1)p,=(wa,+元Foa2)〔1+血(6,町)〕;四!>o,広>O (2)6=蒟/xu* (3)XI=C+I+Go+E1-(元P!*/P’)Ⅱm (4)C=(1/P,)〔(1-s)P2X2+walX,+wa3X3〕 * (5)rhX2=元P2E2 (6)I=I(6);I>0 (7)回!=EⅢ(P!(,-7)/7rPh2);、l<0,畷>O (8)Em=Em(6);Em'>0 (9)P=αPj+(1-α)Pz OOY=X+(P2/Pu)襲 ⑪B=(P,/ウT)Ej+P2,殖2-P,*Em-rh*(a2Xl-X3) ⑫M/P=L(i,Y);Lj<0,L2>0 0$た=vi(P一元P、;vl>0 04,ルーvh(,ハノI<-W/Pルヴ);v;>o,v;>0 以下,モデルについて説明しよう。経済は,工業と農業の2つの産業から構 成され,さらに工業は,中間財部門と最終財部門(消費財・資本財の合成財を 生産)とから構成されるとする。最終財の価格P'は,マークアップ方式で決定 され,これは(1)式で示される。wは貨幣賃金率,元は自国通貨建て為替レート を示し,それぞれ短期(貨幣賃金率,為替レート及び資本ストック等が所与の期 間)には所与である。a】は労働投入係数,a2は中間財投入係数,Prは中間財の 外国通貨価格を示し,それぞれ所与である。αはマークアップ率を表し,これ は,稼働率6と外生的パラメーターⅦ(例えば,企業の市場支配力)に依存す る。似i(i=1,2)はi番目の偏微係数を表す(以下同様)。 稼働率6は,(2)式で示されているように,生産設備(所与)を正常に稼働し た場合の産出量X,*に対する現実の産出量:Xnの比率である。 4 最終財市場における生産物の需要が,実質消費需要C,資本蓄積需要I,政 府需要G0,純輸出需要E,-(,TPfIi/P!)Emから成り,生産物の供給Xが有効 需要の原理によって決定されるとすれば,最終財市場の需給均衡条件は,(3)式 のように示される。 工業部門の利潤はすべて貯蓄され,賃金はすべて消費されるが,農業部門の 所得は,一部は貯蓄され,残りは消費されるとし,さらに簡単化のために租税 を捨象すれば,実質消費需要Cは,(4)式のように示される。sは農業部門の貯 蓄性向,P2は農産物の国内価格,迅は農産物の産出獄,asは中間財部門の労働 投入係数,昶は中間財の国内産出量を,それぞれ示す。中間財の国内産出量遮 は,財政支出(IPN、)に依存'1所与とし,その超過需要(a2X-X〉O) は輸入によって充たされるとする。 農業部門は,輸出換金作物(コーヒーや大豆)を生産し,その生産物は所与 の国際価格且*の下ですぺて輸出されると仮定すれば,農業所得巳雅は,(5)式 のように書き換えられる。 資本蓄積需要Iは,稼働率6に依存し,(6)式で示され,最終財に対する政府 需要G・は所与,輸出需要EIは最終財の相対価格と世界経済の状況に依存し, (7)式で示される。Tは輸出補助金,P!*は最終財の国際価格,v2は世界経済の 状況を表すパラメーターである。 消費財の輸入代替が進展し13)簡単化のために最終財の輸入が資本財のみとす れば,(8)式で示されるように,輸入需要Emは稼働率6のみに依存する。 (9)式は物価水準を表し,α,(1-α)は,それぞれ最終財価格,農産物価 格の加重値を示す。no式は,最終財で表した総産出量を示し,⑪式は,貿易収 支を表す。⑫式は貨幣市場の均衡条件で,Mは貨幣供給,Lは貨幣需要を表し, これは,利子率iと総産出量Yの関数として表される。なお,物価水準,総産 出量の決定式において,簡単化のために,中間投入財が捨象されている。 短期均衡モデルは,(5)式を除き,以上の(1)~⑫の11本の方程式と,P1,6, X,C’’’四.Em,P,Y,B,i(orM)の11個の内生変数から成る(4) 次に,賃金・為替調整を考慮した中期(武本ストック=所与)の不均衡動 ● 学モデルI土,短期の体系に,⑬~0$の2式が加わる。元=d7E/dt,w=。”/dt で,ドット(・)は時間に関する微分(以下,dで全・偏微分記号を示す)を,Vi(i= 1,2)は調整関数を,それぞれ示す。⑬式は,為替レートが購買力平価を充たすよう に調整されることを示す。 5 "式は,制度的実質賃金率wメカ:市場で決定される実質賃金率w/Hを上回って いる場合,或いは稼働率6が上昇し失業率が低下した場合に,貨幣賃金率が上 方修正されることを示す。q3式が為替レートのインデクセーションを,⑭式 第1項が貨幣賃金率のインデクセーションを,それぞれを示す。中期均衡は,汀 ● =0,W=Oで示され,中期勤学モデルでは,新たにうで,wが未知数として加 わる。 以上のモデルは,第1図のようなフロー・チャートによって示すことができ る。なお以下では,初期においてPローP、=Pb*=Pキーw=汀=’を仮定する。 号 記 瓜Ⅷ鴎呪い団良風&BDv 最終財部門の雇用量 〃 名目所得 中間財部門の雇用量 〃名目所得 農業部門の名目消費 自国最終財で表した最終財の純輸出 外国通貨で表した〃 〃 農産物ネゼi出 〃中間財輸入 〃貿易収支 自国最終財に対する総需要 P,/元P!* Ⅲ諸変数変化の短期的効果 (1)石油価格が上昇した場合,(2)財政支出が増大した場合,(3)その他の変数が 変化した場合に,短期(為替レート,貨幣賃金率及び資本ストックが所与)に おいて,物価水準,産出量,貿易収支にどのような効果を与えるかを比較静学 の方法で分析しよう。 短期モデルの(1)~(8)式は,⑬~的式に要約され,P,とX,の2つの内生変数 が決定される。 6 ● Vを(w千一W;/Pu,6) W カーv,(P_汀P水) W 汀 + P 汀↓BH F/ P 0 Y 迅 G Xi← * , Bu 6 * Il B pcp△汀 :;TE Bz E2 B3 儘佐 P2 2F :1m 第1図モデルのフロー・チャート 7 ⑬P】=(waⅢ+泥Pb*a②)〔,+鰹(x/瀧vⅢ)〕 00X=(,/PⅢ)〔(1-s)施P:理十Wa,斑十wa,迅(G)〕+'(Xi/X;樵) +G+E】(P,(1-了)/派P閃蝿)-(元Pf/P!)Em(斑/>、*) 比較静学を行う前に,短期均衡の安定性を検討しよう。そのために,次のよ うな動学的調整過程を想定する。ただし,調整速度は1と仮定する。 鰯に(鷺t鯰』騨鰄j… ⑰式の調整は,生産コスト,マークアップ率が上昇すれば最終財価格P,カミ上 昇し,最終財市場に超過需要があれば産出量斑が増大するということを表す。 この体系を,均衡点P9.羽の近傍でテーラー展開し,線型近似して-次の項 のみをとれば,次式を得る。 剛|:}い;兆二割 ただしF) =l-a1-(I'/Xj*)+(Eml/X,*) =-〔。E,/dq〕q/Ⅱ! =P,(1-丁)/元P,* ⑬式右辺の係数行列をAとすれば,特性方程式は, “MM-lj郷;蕊ト となり,これを展開して整理すると, ⑪12+Ao1+Au=0 8 000 =〔(1-s)E2+a,X,+asX3+Em(yj-1)〕 くンン 212Ⅱ ○例,。煙・・樫●y q =-(a,+a2)(Jun/X,*) AC=1M22>O AC=β22-β12β21>O を得る。短期均衡が局所的に安定であるための必要十分条件は, 、DAC>0,Ao>O である。βijの符号から,この条件が充たされ,短期均衡が安定的であること がわかる。第2図は,以上のような場合についての位相図を表す。曲線P、=0, 曲線X=Oの傾きは,それぞれ次のように示される。 。{::〉鰍二:)三二iン麺二: P, 0 。・=[ PF  ̄ ̄ ̄。‐ 0 0 XI や洲…掴 |#三蝿;雛溌苧;… 9 ㈲式左辺の行列の行列式を」とすれば, 四」=β22-β12β21=A,>O となり,」は正であることがわかる。 (1)石油価格上昇の短期効果 石油価格が上昇した場合に,最終財の価格水準P0,産出量Xに与える効果 は,閏式より次のように示される(第3図参照)。 ㈲dP1/dPi=β15β22/‘>O O0dX/dPif=-β15β21/」〈0 P, ll O wH/ l=0 DL、△ 110I ● ̄■● ̄ / ’ ● ]Q=so 0 XlXF X, 第3図石油価格上昇(or企業の市場支配力の上昇)の短期効果 ㈱~㈱式より,最終財の価格水準Plは上昇し,その産出量Xhは低下するこ とがわかる。これは,次のように考えられる。石油価格P6帳が上昇すると,生産 コストが上昇し,企業は最終財価格P,を上昇させる。最終財価格P,の上昇は, 労働者の実質賃金率及び実質農業所得を低下させ,実質消費需要cを低下させ るので,総需要D,産出量遍を減少させる。また,最終財価格P,の上昇は,自 国財の相対価格を上昇させ,輸出需要の価格弾力性が1以上であれば,(y1-1 >o),輸出需要を減少させ,産出量Xを減少させる。ブラジルの場合,輸出需 要の価格弾力性は十分に大きいと考えられ31 10 次に,石油価格の上昇が,物価水準P,総産出量Y,貿易収支Bに与える効 果を象るために,(9)~⑪式をP5'<で微分すると,次式を得る。 ⑰。P/dPj-adPN/dP・*>0 句。Y/d〆=。Xリ。〆一迅dPI妙。Pb*〈O ⑲。B/dPf--Ei(y1-1)dPN/dPj-Emy2yo-a圏X,〔1-(]`/・‘ X)+y2〕<o 、..y,=〔。X/dP『〕〆/X,<O y,=〔dEm/d6〕6/Em>O ⑰~⑲式より,石油価格の上昇は,最終財価格PIを上昇させ,物価水準Pを 上昇させる。最終財ではかった総産出量Yは,最終財産出量Xの減少及び最終 財ではかった農産物産出量の減少によって,減少する。貿易収支Bに与える効 果は,(1)自国最終財の相対価格の上昇による最終財の輸出減少効果,(2)最終財 産出量の減少による中間財,資本財の輸入減少効果,(3)石油価格の上昇による 中間財コスト上昇効果等の相対的大きさに依存し,一般的には不確定となる。 石油価格節の上昇によって中間財輸入額が増大するか否かは,石油価格節の 上昇に対する最終財産出獄Xの弾力性T2の値に依存している。ブラジルの場合, このy2の値が十分に小さく,石油価格の上昇によって中間財の輸入額が増大し たと考えられる。また,このy2の値が十分に小さければ,最終財産出量xIの減 少に伴う資本財の輸入減少効果も十分に小さくなる。したがって,石油価格の 上昇は,最終財の輸出額を減少させ,また中間財の輸入額を増大させることに よって,ブラジルの貿易収支を悪化させたと考えられる。そして,このような 状況は,輸出補助金政策にもかかわらず,石油ショック以降の世界経済の状況 の悪化や先進諸国の保護貿易主義(v2の低下によって示される)によって,い っそう促進された。 (2)財政支出増大(HPND)の短期効果 次に,第二次国家開発計画に基づく財政支出増大の効果を検討しよう。財政 支出(G=Go+GI;G,=中間財への支出)の増大が,最終財の価格水準Pu, その産出量Xに与える効果は,(zO式より次のように示される(第4図参照)。 GqdP,/dG=-β12β27/』>O ODdX/dG=β27/」>0 11 P8 ● ヨロー[ p△p△ 00dl  ̄■DC 0 0 XfXl XJ 第4図財政支出増大の短期効果 図~GD式より,最終財の価格水準Puは上昇し,その産出量遍も増大するこ とがわかる。これは,次のような理由に基づく。財政支出Gが増大すれば,そ の直接的効果及び,中間財部門の労働雇用獄Nbの増大による実質所得の上昇←実 質消費需要Cの増大という間接的効果によって,有効需要、が増大し,最終財 の産出量Xが増大する。この産出量Xiの増大は,稼働率6を上昇させ,企業が マークアップ率Juを上昇させるので.最終財の価格水準Puは上昇する。 次に,財政支出の増大が,物価水準P,総産出職Y,貿易収支Bに与える効 果をみるために,(9)~qD式をGで微分すると,次式を得る。 G2dP/dG=adPnIlj/dG>O G3IdY/dG=d蒟妙。G-選dPIサ/dG〉O 卿。B/dG-E,(y,-1)。P〃dG-(a2+Em`/X,*)d兇/dC&く0 02~剛式より,財政支出Gの増大は,最終財価格Puを上昇させ,物価水準P を上昇させる。最終財ではかった総産出盤Yに与える効果は,最終財の産出趾 増大効果と,その価格上昇効果の相対的大きさに依存し,不確定である。ブラ ジル経済の寡占的榊造が十分に強いとすれば,稼働率6の上昇による最終財の 価格上昇効果は十分に小さく,したがって,最終財ではかった総産出量Yは増 大するであろう。貿易収支Bに与える効果は,(1)自国最終財相対価格の上昇に よる最終財の輸出減少効果,(2)最終財の産出避斑の増大ををつうじた中間財, 12 資本財の輸入増大効果,(3)中間財の輸入代替効果等の相対的大きさに依存し, 一般的には不確定であるが,UPNDに基づく中間財の輸入代替効果は十分に小 さく,したがって,財政支出Gの増大は貿易収支を悪化させたと考えられる。 (3)その他の諸変数変化の短期効果 ここでは,その他の変数が変化した場合の短期的効果について,その結果の みを示す。 まず,貨幣賃金率wが上昇した場合に,最終財の価格水準P,,その産出量 X,物価水準P,総産出量Y,貿易収支Bに与える効果は,次のように示され る(第5図参照)。 G5ldPI/dw=(β13β22-β12β23)/」>O (30.通/dw=(β23-β13β21)/』~O 8ndp/dw=αdP1ツdw〉o ㈱。Y/d坪=dXhヴ。w一正。B,。w~O 鯛。B/dw=-E1(y1-1)dPlソ/dw-(a翻杷、f/Xザ)d蒟凋w~0 P、 6イー0 、 0 D△、△ 11CI ▲ ̄ ̄● =0 CO 0 XIoXl Xi 第5図貨幣賃金率上昇(or為替レート切り下げ)の短期効果 鯛~柵式より,貨幣賃金率wが上昇した場合,最終財の価格水準P1,物価水 準Pは上昇するが,最終財の産出量遍,総産出量Y,貿易収支Bに与える効果 は,一般的には不確定となることがわかる(第5図は麺が増大する場合を示す)。 13 次に,為替レート元を切り下げた場合(元の値の上昇,。evaluation)の効 果は,次のように示される(第5図参照)。 QOdP,/d元=(β14β22-β12β24)/」>O QDdX/d元=(β24-β14β21)/」~O ⑫。P/d汀=αdPlG)/d冗十(1-α)Pダ>O Q3dY/d応=。]器!/d癒掻良一〕QdPll抄。元~O Qイ)。B/d症=画,(y1-1)(閏P!/d応)-(a璽十E㎡/Xf)。】fl/d冗~o * QO~㈱式より,為替レート元が切り下げられた場合,最終財の価格水準P1, 物価水準Pは上昇するが,最終財の産出量X,総産出最Y,貿易収支Bに与え る効果は,一般的には不確定であることがわかムリ 最後に,企業の市場支配力の上昇(これはviの上昇によって示される。反対 に,v,の低下は,政府等の企業に対する政治・経済的コントロールの増大によ る企業の市場支配力の低下と考えられる)の効果は,次のように示される(第 3図参照)。 ㈹dPn/dvi=β16β22/」>O ㈹。X/dv,=-β16β21/」<O undP/dvi=αdP,(ソ/dvi〉O Q81dY/dv1=dJd7)/dv1-選dPI(ツ/dv,<O ㈱。B/dvi--Ei(y1-1)dPlソ/Uv1-("十画巾/X*)dXt)av1~O Q9~Q9式より,企業の市場支配力の上昇は,最終財価格P,及び物価水準P を上昇させ,最終財の産出量X及び総産出趾Yを減少させるが,貿易収支Bに 与える効果は,一般的には不確定であることがわかる。 以上の結果は,第4表のように要約される。+は正の相関を,-は負の相関 を,?は不確定をそれぞれ示す。ただし,(1)ylは十分に大きく,y2は十分に 小さい,(2)仏'及びx;は十分に小さい,と仮定されている。また,()は,以下 で仮定される特殊な場合を示す。 14 第4表諸変数変化の短期効果 PO X PlY 00 B 00 PJ* + G 十 十 + Ⅵ' + (+) + ? ? 汀 + (+) 十 ? ? VO + + 十 十 ? Ⅳ中期動学分析 賃金・為替調整 短期均衡モデルの体系においては,為替レート元や貨幣賃金率wを所与とし て.石油価格が上昇した場合やその後の政策的対応等の効果が分析された。し かし,短期において決定された価格水準が,購買力平価や制度的実質賃金率を 充たすという保証はなく,もし購買力平価が充たされなければ,為替レート汀 の調整が行われ,また,制度的実質賃金率が充たされない場合,或いは稼働率 の変化に伴ない失業率が変化した場合には,貨幣賃金率wの調整が行われ,体 系を勤学化させることになる。本稿の勤学体系は,⑬~⑭式によって示される。 ⑬it=VI(P一元〆)=。(,r,w;PハG) ⑭満=Vh(w*-W/Pjo6)=9(汀,w;PbキG) これを均衡点(局,恥)の近傍でテーラー展開し,線型近似して-次の項のみを とり,行列表示すると,次式を得る。 Wlilrl:胴 。,=V化(dPl/d元-1)<O L=VIadP1/dw>0 15 い=V1dP,/d元-W;(1/Xソ蔦)。X/d汀>O 催=vA(。P,/dw-1)+v:(1/Xi喉)dxI/dw<o 剛式を利用して,体系の安定性を検討しよう。剛式右辺の係数行列をDとす れば,特性方程式は, `川Ⅲ-.'一'1二:而皇'-, となり,これを展開して整理すると, 鰯K2+、01+、,=0 ,。=-(仇+催)>0 ,,=。,蜂-.29,<O を得る!)したがって,均衡点Czb,w、)は,局所的に鞍点(saddlepoint) であることがわかる。その位相図は,第6図によって示される。e・は中期均衡 点(汁=OルーO),ssはsaddlepointpathを示す。剛式より,曲線元= o,曲線i=oの傾きは,次のように示される。 汀 ● 、 L」 1Tb 0 ▽「 田、 第6図位相図 16 げ一屯 岡d7T/dw(元=O)=-.2/公>O 側d7Z/dw(ルーO)=-90世/iph>O 両者の傾きを比較すると, 閏d7r/dw(元=0)-.7面/dw(w=O) =(仇催一血9,,)/○Jい =Dh/仇鮖>O となり,曲線汀=Oの傾きの方が,曲線W=Oの傾きより大きいことがわかる。 石油価格P。*が上昇した場合に元,wに与える効果をみるために,⑬~伽 式をPifで偏微分すると,次式を得る.00 閏djt/dPo*=VladH/d節>O 脚d肉/dPb*=Vh1dP1/dPb*+V;(l/Xf)。X/dPjr>O 石油価格Prの上昇は,最終財価格P1を上昇させ.物価水準Pを上昇させる ので,元に正の効果を与える。同様に,最終財価格P,の上昇は実質賃金率を低 下させるので,wに正の効果を与える。it,Wが変化しないためには, 鶴{:二$(量鳶)二: より, 鶴{鯛(:=:}二冨鯛>:二: であるので.それぞれ,汀の上昇,wの上昇によって,節上昇の効果を相殺 しなければならない。したがって,石油価格Pfが上昇した場合第7図に示 17 汀 7Zb 兀1 Ⅵ'1 煎' 蘭’0 第7図石油価格上昇(or財政支出増大)の中期効果 されているように,曲線元=oは上方に,曲線w=oは下方に,それぞれシフ トする。この第7図を用いて,石油価格〆が上昇した場合の中期勤学調整を 考察しよう。 経済が,初期に中期均衡点e・にあったとしよう。石油価格Prの上昇により, 短期に物価水単Pが上昇し,曲線元=0,曲線'ルーoが,それぞれ上方,右方 ’〃 にシフトすると,saddlepointpothssがssに下方シフトし,e・点Iとおいて 元>0,w>Oとなるので.為替レート元,貨幣賃金率wの調整が開始される。 石油価格Pb*の上昇による価格水準Puの上昇は.為替レートを下落(元の上昇) させ貨幣賃金率wを上昇させる。為替レートの下落(元の上昇)は貨幣賃金率 wを上昇させ.貨幣賃金率wの上昇は為替レートを下落(元の上昇)させるの で,為替レートと貨幣賃金率wのスパイラルが生じ,汀,wは持続的に上昇し ていく。そして,このような為替レートの持続的な下落(元の上昇),貨幣賃 金率”の持続的な上昇は,物価水準Pを持続的に上昇させることになる。しか し,総産出戯Yや貿易収支Bに与える効果は,一般的には不確定である。 次に,第二次国家開発計画に基づく財政支出増大後の中期勤学調整を考察し よう.財政支出Gを増大した場合に,汀,wに与える効果を承るために,⑬~ 00式をGで偏微分すると次式を得る。 6,.lb/dG=ViIadP0/dG>0 18 61.w/do=V3dPn/dG+V: 石油価格Pfの上昇の場合と同様, (l/X状)。X/dG>O ● ● 財政支出Gの増大は,元, wに正の効果 を与える。そして. 鰯':二:鰯)二: より, “|鯛;二:)=昌彦馴三I であるので,石油価格節の上昇後,財政支出Gの増大によって,曲線元=0 をさらに上方にシフトさせ.曲線竹=Oをさらに下方にシフトさせる。その結 果.財政支出Gの増大によって,為替レート元と貨幣賃金率wのスパイラルが 追認されることとなり,元,w及び物価水準Pは引き続き,傾向的に上昇する ことになる。 Vむすび 本稿では,転換期ブラジル経済について.賃金・為替調整を考慮した簡単な マクロ経済モデルを櫛成し,石油価格の上昇及びその後の第二次国家開発計画 に基づく財政支出増大の効果について,理論的に考察した。その結果,転換期 ブラジル経済のパフォーマンスについて,次のように考えることができる。 第1に,石油価格の上昇によって,生産コストが上昇し,企業が最終財価格 水準を引き上げ,物価水準が上昇した.最終財価格水準の上昇は,労働者,農 業部門の実質所得を減少させ,実質消費需要を減少させるとともに,自国最終 財の相対価格の上昇により,海外需要を減少させた。また,石油ショックによ る世界経済の状況の悪化や先進諸国の保護貿易主義によって,海外需要の減少 はいっそう促進された。したがって,以上の有効需要の減少によって,産出量 が減少した。貿易収支の悪化は,中間財輸入額の増大に加え,自国最終財に対 する海外需要の減少によってもたらされた。 第2に,第二次国家開発計画に基づく財政支出の増大は,物価水準をいっそ う上昇させたが,産出量の減少を緩和する方向に作用した。また.同計画の中 間財等の輸入代替的政策は,少なくとも,貿易収支の赤字を減少させる方向に 19 作用した。 第3に,ブラジル経済を特徴づける為替レートや貨幣賃金率のインデクセー ションは,石油価格の上昇や財政支出の増大による物価水準の上昇をいっそう 促進させ,為替レート,貨幣賃金率,物価水準のスパイラル的上昇現象を引き おこした。 第4に,石油価格の上昇に対するブラジルの政策的対応は,先進諸国力:省エ ネルギー政策により総供給曲線をシフトさせる方向で対応したのと比較すると, 第二次国家開発計画に基づく財政支出を増大することにより,総需要曲線をシ フトさせる方向で対応したという意味で,きわめて対照的であった。このよう な政策的対応の相違によって,先進諸国では,物価水準の安定化,産出量の減 少,ブラジルでは,物価水準の高騰,比較的高い産出水準の維持という,パフ ォーマンスの相違を生み出した。 最後に,残された課題を指摘し結びとしよう。ブラジルのインフレーション の原因について,構造主義者が通常よく指摘するのは.国内消費財としての農 産物価格の上昇である。02本稿では,農産物はすべて輸出換金作物と仮定され, 国内消費財としての農産物の価格上昇がインフレーションを導くというルート については捨象されている。また,インフレーションの貨幣的側面,租税,政 府の予算制約,経済成長等についても,考慮されていない。これらの点につい て考慮しながら,議論をいっそう発展させることは,今後の課題として残され ている。 注 (利本稿は,第21回ラテン・アメリカ政経学会全国大会(1984年11月10 ~11日,於拓殖大学)において報告され,席上,多くの方向から有益な。〆ン 卜を得た。特に,京都産業大学八木三木男教授には,大会当日コメンテーター を務めて頂き,ここに記して感謝したい。 (1)1970年代のブラジル経済を,(1)国際経済環境の変化と(2)国内経済政策 の変化という視点から分析した文献には,例えば,西向〔12〕がある。これに対 して.Bacha〔1〕,MalanandBonelli〔7〕等は,景気循環という視点から 分析している。後者に対する批判については,西向〔IDがある。また,ブラジ ルのインデクセーシヨンについては,BaerandBeckerman〔3〕,Lopesand Modiano〔6〕,西島〔11〕等の文献がある。 20 (2)これは,第二次国家開発計画に基づく中間財の輸入代替を表す。同計画 に対応した工業開発計画には,次のようなものがある。(1)鉄鋼計画(1974~ 80年。投資総額150億ドル),(2)非鉄金属計画(1974~80年,投資総額 52億ドル),(3)石油化学計画(1974~80年,投資総額30億ドル),(4) 化学肥料計画(1974~80年,投資総額21億ドル)。 (3)転換期の消費財の輸入比率は,年平均約7筋である。 (4)短期モデルの基本的フレームワークは,Bacha〔2〕,Capitulol3と同 じである。ただし,Bacha〔2〕においては,モデルの定式化は行われていない。 (5)β21の符号の決定には,初期にEm=画,q=1,さらに(yn-1)>O を仮定している。 (6)中間財部門は,IPNDに基づく財政支出の増加関数であるので.β27= (1+a3Xf)となる。ただし,Xj=d砥/dG>Oo (7)例えば,西島は,1968~72年についてではあるが,短期弾力性1.4 ~20,長期弾力性23~3.3を計測している。西島〔10〕,185ページ。 (8)準工業諸国における為替レート切り下げに伴う諸問題については,Tay- 1or〔8〕を参照。 (9)偏微係数(のi’9i)の符号の決定には,労働市場の状況の変化に対す る反応係数(V:)よりも,制度的実質賃金率についての反応係数(V3)の方が, 十分に大きいと仮定されている。 00.,晩一○2輪 =VlV:a(l-dPn/dw-dPn/d元) WlV;α(1/)Q*)l〔dXJ,。w〕(dPIルー1)-〔dXl(jj/d徳〕。P抄。w}<O (1-.P,/dw-dPi/d汀)=Oであるので,右辺第1項は消える。dXi/dw及 びdXi/d元の符号の決定は,第4表のように,一般的には不確定であるが,w, 元の変化の直接的効果が,その間接的効果よりも十分に大きいと仮定すれば, それぞれ,dXI/dW>0,dXi/d元>Oとなり,したがってD,<Oとなる。 以下では,以上の仮定の下で議論を展開する。 ⑪dVi/dP6Fの符号の決定には,注(9)と同様の仮定がおかれている。 ⑫構造主義によるインフレーションについての理論的分析には,例えば, Canavese〔4〕,Cardoso〔5〕,Taylor〔9〕等がある。 21 参考文献 1)Bacha,E・’'1エssuesandEvidenceonRecentBrazi1ian EconomicGrowthI1,WorエdDeve1opment,Vol、5,No.1-2,1977. 2)Bacha,E、, 句duc自oaMacroeconomエa:UmaPerspe Brasi1eira,Riodejaneiro,Campus,1982. ョ)Baeェ、,W、andBeckerman,P.,iiTheTroub1ewithエndexLinking:RenectionsontheRecentBrazi1ianExperience 1i,WorエdDeve1oplnent,Vo1.8,No.9,Septemberエ980. 4)Canavese,A、,I1TheStructura1istExpユanationinthe - , =- ̄ ,Vo1.ユ0,列o・7, Theoryofmf1ationw, July1982. 5)Cardoso,E・’'1FoodSupplyandエnf1ation'1,221空旦旦上竺 ,Vol、8,No.〕,Juneユ98ユ. 6)Lopes,F・andlIodiano,E、,i1Indexa9ao,Choque団[terno e DD Nive1deAtividade:Notassobエ、eoCasoBrasiエeiro, PesquisaeP1anejalnentQEQon6miCLQ,Vol.エラ,No.ユ,Abri1 ユ98〕. 7)Ma1anlP・andBoneUi,R・,I1TheBraziユianEcOnomyin theSeventies:OェdandNewDevelopmentI1, DrldDeveLo1c ment,Voユ.5,No.1-2,エ977. - 8)Taylor,L、,iiE2eitosaCurtoPrazodaDesvaユorエza9ao CambialsobreasEconomiasSemi-industriauzadas:U、 PassoparaFrente,DoisparaTr5ls11, 。色白puisaePLane]巴 lnentoEcon6mico,Vol、8,N0.2,Agosto1978. BasicBooks,mc.,Publischers,ユ98〕. 22 ,NewYork, 10)西島章次「ブラジル経済の高庇成長期の研究』神戸大学経済経営研究所1981鑑 11)同「ブラジル経涜におけるインデクゼーシコンと経研安定」『国民経済雑誌』第149巻鰯3号 1984年3月。 12)西向蕩昭「1970年代のブラジル経済の回顧」『神戸大学経済経営研究年報」鋪32(Ⅱ)号1982年。 13)同「ブラジルの経済成長と景気循環一高度成長期と腫換期をめぐって-」『国民経済雑誌」 第146巻第1号1982年7月。 23
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