所 感 【 P r e f a c e 】 治安改善により ビジネス機会が 拡大するコロンビア 一般社団法人 日本経済団体連合会[副会長] 兼 日本コロンビア経済委員会[委員長] 三菱商事株式会社[取締役会長] 小島 順彦 Yorihiko Kojima 2004年に経団連日本コロンビア経済委員会の 委員長に就任して以来、何度もコロンビアに足 を運び、大統領以下、政府要人や民間トップと 直接対話をしてきた。力強い経済成長、治安改 善による投資機会の拡大、太平洋同盟への積極 的関与、OECDやAPEC加盟に向けた動きな ど、コロンビアの躍進はめざましい。 特に、ウリベ前大統領、そしてサントス現大 統領の2代にわたる断固としたゲリラ掃討作戦 が奏功し、ここ10年間の大幅な治安改善には目 を見張るものがある。そうした改善を受け、今 まさに、豊富なエネルギー・金属、食料資源、 太平洋・大西洋双方に面する地理的優位性、南 米でブラジルに次ぐ4700万人の人口を有する消 費市場、真面目で真摯な国民性といった、コロ ンビアのもつ本来の強みが発揮されようとして いる。これを裏づけるかのように、昨今、日本 企業が在コロンビアの人員を増強したり、新規 に進出するケースが増えており、わが国経済界 としても関心を高めている。 2013年11月18日、私が委員長を務める日本コ ロンビア経済委員会では、コロンビアのボゴタ で第8回コロンビア経済合同委員会を開催、日 本側から約50名、コロンビア側からはカウンタ ーパートであるルイス・ムニョスFNC(コロン ビアコーヒー生産者連合会)会長ら約70名が参 加し、 「両国経済情勢の展望」 「多国間および二 国間の経済協力フレームワーク」 「ビジネス機 会と課題」をテーマに議論を行い、相互理解と 信頼の醸成に努めた。 私どもは、コロンビア経済界との連携のもと、 両国間の貿易・投資促進に寄与する日本コロン ビアEPAの早期締結に向けて両国政府へ積極的 に働きかけている。今後も要人来日などの機会 をとらえ、働きかけていく所存である。 皆さまが本所感をお読みになるころには、大 統領選挙の結果が判明していることと思う。前 述の経済合同委員会で登壇したカルデナス財務 大臣からは、結果にかかわらず「長期的な国の 発展に向けたビジョンは不変である」との力強 いコメントがあった。8月7日に発足する新体 制が長期的ビジョンのもと、コロンビアをさら に発展させ、わが国との関係をこれまで以上に 深めることを期待する。 ところで、三菱商事は、1959年にボゴタに拠 点を設置して以降、治安悪化により日本企業の オフィス閉鎖や人員引き揚げが相次ぐ時代もあ ったが、約50年間にわたり拠点を維持、邦人派 遣社員を送り続け、各事業を継続してきた。 なかでもコロンビア最大の輸出業者であり、 55万世帯ものコーヒー生産農家を束ねるFNCか ら35年以上にわたり「エメラルドマウンテン」 に代表される高品質コーヒー豆を輸入してお り、コロンビアと連携し本邦のコーヒー文化の 発展に注力してきた。 こうした長年の信頼に基づいた貴重な人脈を 通じて、資源やエネルギー、インフラ、内需と いった分野でのビジネスに注力し、日本コロン ビア経済関係を強化するとともに、コロンビア のさらなる発展につなげていきたいと考えてい る。読者の皆さまのご理解・ご協力をお願いし たい。 2014.7 1 特集1:コロンビア Message from Ambassadors Colombia: An Attractive Investment Environment Patricia Cárdenas Former Ambassador of Colombia to Japan G iven a strategic location, a population of 47 million people, a network of signed Free Trade Agreements and a commitment to economic growth and prosperity for all, Colombia has remarkably expanded its presence in global markets and has positioned itself as a reliable partner that offers an attractive business environment for international firms to invest. Colombia has been ranked as the third most business-friendly and leading reforming country in Latin America, according to the Doing Business report 2014 of the World Bank. Other international entities and organizations have emphasized the positive conditions that Colombia has to offer, a country striving for innovation, recognized for its skilled labour and with an extensive range of free trade zones. country has a competitive Free Trade Zone regime which grants benefits such as a single 15% income tax rate, among many more advantages. The UNCTAD 2012 World Investment report ranks Colombia as one of the countries in the region with the highest potential for foreign direct investment in line with the investor’s expectations. After having granted an investment grade to Colombia in 2011, Standard and Poor’s, Fitch and Moody’s, the top three risk rating agencies in the world, improved again in 2013 the Colombian grade, which endorses the country’s economic and fiscal conditions and encourages global firms to consider the nation as a destination. U Indeed, innovation has been included as one of the driving engines of the National Development Plan (2010-2014). Colombia is considered as one of the countries with the largest annual increase in availability of human resources according to the 2012 IMD Workforce Growth Rate. Additionally, the ndoubtedly, this positive outlook coincides with the foreign investment boom that Colombia has registered since the beginning of this century. The country has received large investments in the nation’s oil and mining sector, and lower percentages have taken part in the manufacturing industry, the transport and communication areas and the retail sector. Bogota, the capital city Medellín, Colombia’s second largest city Photo Credit: PROEXPORT COLOMBIA Photo Credit: PROEXPORT COLOMBIA 2 2014.7 コロンビア特集 As an attractive destination for investment given the variety of possibilities it can offer and the generous conditions for foreign firms, Colombia has maintained a continuous presence of Foreign Direct Investment flows from the United States in the first place, England in the second, Spain in the third and Chile in the fourth since 1994. Although the investment flows from Asia are moderate if compared with other nations, the current national policies to further engage with the Asian region are opening new possibilities for stronger ties in this area. The visit of President Juan Manuel Santos to Japan in September 2011, when the Bilateral Investment Agreement was signed and the creation of a study group for EPA was announced. J apanese firms have increased their presence in the past year and, in the context of the negotiation of the Economic Partnership Agreement and the already signed Bilateral Investment Agreement, the future outlook implies endless opportunities. One of the recent notorious cases of Japanese investment in Colombia was the one made by ITOCHU, which in June 2011 acquired a 20 per cent of Drummond in Colombia, $1.52 billion, the largest flow of investment coming from Japan. Certainly Colombia is a country on the rise, and while challenges undoubtedly still exist, its best years are yet to come. International studies and reports support this changing view of the country and as Colombia’s global standing increases, international investment do too. Being part of this ongoing transformation will indeed result in mutual benefits for all, and in this particular case, for Colombia and Japan. A breakfast meeting organized by PROEXPORT as well in the framework of President Santos visit to Japan in September 2011. Different representatives of a variety of firms gathered to listed about the great opportunities that Colombia offers. One of the rounds of the negotiations of the EPA Colombia-Japan, which took place in Tokyo in December 2012 with the presence of Minister of Trade, Industry and Tourism, Sergio Díaz Granados. *H.E. Ms. Patricia Cárdenas had completed her seven years tenure as ambassador to Japan in April 2014 and has been appointed as ambassador to Brazil. JOI 特別会員 『コロンビア貿易振興機構(PROEXPORT COLOMBIA)』の ご紹介 コロンビア貿易振興機構(PROEXPORT COLOMBIA)は、コロンビアへの海外投資誘致、コロンビアの輸出およ び観光の促進を目的とした政府機関で、世界に30以上ある拠点から、各分野に関するさまざまな情報を発信しておりま す。日本事務所はコロンビア大使館・通商部として、両国間の貿易やビジネスを活発化するため、セミナーや講演会を開 催しているほか、コロンビアの各セクターにおける市場分析や投資誘致政策など、日本企業の皆さまからの個別のご相談 に対し、無償で情報提供しております。コロンビアへの進出に関するお問い合わせについては、PROEXPORT COLOMBIA日本事務所 和合ヒロシ代表および中園竜之介投資アドバイザーが担当しておりますので、下記へご照会ください。 代表 和合 ヒロシ hwago@proexport.com.co 投資アドバイザー 中園 竜之介 rnakazono@proexport.com.co TEL: 03-5575-5970 FAX: 03-5575-5972 2014.7 3 寄稿 コロンビア経済の特長 日本コロンビア友好協会 会長 元駐コロンビア大使 横浜銀行 代表取締役頭取 寺澤 辰麿 コロンビア経済の特長 長の指導により、 「輸入代替工業化政策」を実施しまし たが、多くの国が債務危機に陥り国際通貨基金 「コロンビア経済についてひと言でその特長を述べ (IMF)・世界銀行のいわゆるワシントン・コンセン よ」と質問されて直ちに思い浮かぶことは、歴史的に サス(自由主義的市場開放政策)を押し付けられ政策 回顧してその経済の安定性が際立つことです。たとえ 転換したのに対し、コロンビアは、自主的に包括的な ば20世紀から今日までの100年以上の経済成長率の推 経済改革を実施し、市場開放を実現したことです。ま 移を調べると、マイナス経済成長に陥った年は3回し た、その際、中央銀行の中立性の確保を憲法上明確に かありません。そのうち2回は、世界大恐慌後の1930 規定しました。 年と31年であり、あと1回は、アジア通貨危機などの 第4は、社会主義的政権が誕生した多くの国で民間 影響を受けた99年です。第二次世界大戦中は成長率こ 企業の国有化が実施されましたが、コロンビアでは国 そ確かに低下していますが、マイナスにはなっていま 有化の実績はありません。 せん。 この間の経済成長率の平均は5%弱で、決して高い 特長の要因 とはいえませんが着実に成長してきたといえます。特 に、1959年のキューバ革命以降の国内における多数の 次に、このようなコロンビア経済の特長はどのよう ゲリラ組織誕生による犯罪と70年代に出現したメデジ な要因に由来するのか、という論点を解明する必要が ン・カルテルなどの麻薬密売組織による犯罪の結果と あります。この問題について、私はコロンビアにおい しての治安の悪化という社会情勢の中でも、比較的安 て一度もポピュリズム政権が誕生しなかったことが重 定した経済成長を維持してきたという事実には驚きを 要であると考えています。 禁じ得ません。安定した経済のもとで、コロンビアの ラテンアメリカ諸国では、第二次世界大戦後各国で 人口は、1900年の約425万人が現在4715万人と11倍の ポピュリズム政権が誕生しました。歴史的にスペイン 増加となり、ブラジル、メキシコに次いでラテンアメ の植民地の特色として、スペイン王がスペインの入植 リカで3番目となっています。 者に大規模な農地と先住民を労働力として使用するこ 次に、経済の安定を支えているラテンアメリカ諸国 との違いに着目すると次のような特長があります。 とを委託する方式(エンコミエンダ制度)を認めてい ましたが、1810年代の独立後、独立戦争に功績のあっ 第1は、1980年代および90年代にメキシコ、ブラジ た軍人などが大土地所有者となり、貧富の格差の大き ル、ペルー、アルゼンチンが陥った債務危機・通貨危 い社会構造が定着しました。このような支配階級であ 機を経験しなかったことです。 った大土地所有者層に対抗するために労働者階級の支 第2に、1970年代以降アルゼンチン、ブラジル、ペ 持を取り付けて政権を奪取した典型は、アルゼンチン ルーなど多くの国で発生したハイパーインフレーショ のホアン・ペロンです。彼は、戦前イタリア駐在武官 ンを経験しなかったことです。 として、ムッソリーニが抬頭した手法を見倣い、労働 たい 第3に、ラテンアメリカ諸国は、第二次世界大戦後、 なら 者に対して賃金引き上げや福祉政策を提示して人気を 国連ラテンアメリカ経済委員会(ECLAC)のアルゼ 獲得します。アルゼンチンのペロン大統領、ブラジル ンチン人経済学者であるラウル・プレビッシュ事務局 のヘトゥリオ・バルガス大統領などのポピュリズム政 4 2014.7 コロンビア特集 権の影響は、当然コロンビア政界にも及び、1948年、 したがって、大統領選挙は地方の政治ボスが票をとりま 自由党のホルヘ・エリエセル・ガイタンがポピュリズ とめる組織票選挙であり、候補者が国民大衆の票を獲得 ム的政策を掲げて大統領候補として登場しました。し する選挙運動は重要ではないことになる(ウルッティア かし、現在なお真相が判明しない謎の暗殺事件が発生 教授は、コロンビアの選挙と日本の選挙とは共通点が多 し、ポピュリズム政権の誕生は実現しませんでした。 いと指摘) 。これは、コロンビアの政治には、予算の配分 この事件は、直ちに一般大衆の抗議行動を引き起こ を地元に有利にするいわゆる縁故主義(clientelism)の し、暴動に発展します。これが歴史上「ボゴタ騒動 伝統があることを意味する。さらに、一般に地方の政治 (Bogotazo) 」と呼ばれる事件であり、全国的規模の ボスは大土地所有者か商工業者であり、経済学の素養を 騒乱に発展しました。 戦後のこの事件以降、コロンビア政界ではポピュリ ズム的色彩の濃い大統領候補はいましたが、いずれも 選挙で落選しています。 身につけているため、ポピュリズム的政策によりインフ レーションを起こすことを嫌う傾向があった。 第2は、政治家や政党が大蔵省の予算編成と配分に縁 故主義的に介入するリスクが存在するなかで、大蔵大臣 は政治家ではなく企業経営者かテクノクラートを任命す ポピュリズム欠如の分析 る慣行があった。また、政府の投資計画、対外資金調達 および開発計画という経済政策の枠組みを策定する計画 このコロンビアにおけるポピュリズムの不存在とい 院の長官は、外国の大学院で博士号を取得した者に限ら う事実について、ドーンブッシュとエドワーズ編『ラ れてきた。政治家は、計画院の政策決定における“国民 テンアメリカにおけるポピュリズムのマクロ経済学』 のニーズ”や経済実態軽視に常々不満を述べたが、歴代 (シカゴ大学出版、1991年)に、国連大学副学長を歴 大統領はテクノクラートを擁護してきた。 任したロスアンデス大学のミゲル・ウルッティア教授 第3は、伝統的に言論の自由が確立していた。仮にポ が、 「コロンビアにおける経済学的ポピュリズムの欠如 ピュリスティックな政策が導入された場合、学会や新聞・ について」を寄稿していますので、以下その概要を紹 テレビなどのマスコミから理論的な批判が出され、それ 介いたします。 を民間の圧力団体がフォローして政府を攻撃するという まず、 「経済学的ポピュリズム」を、 「成長と所得再 プロセスが展開されてきた。この背景としては、経済学 分配を重視し、インフレーション、財政赤字、対外不 者や民間の圧力団体から高級公務員に任用されることが 均衡および極端な非市場性の政策に対する企業・国民 多く、批判する側も常に政府に入る可能性を考慮して現 の反応に重きをおかない経済学的アプローチ」と定義 実的な議論を戦わせるという事情があったということに します。 加え、言論の自由の伝統の中でこれらの論議がマーケッ そのうえで、コロンビアにおける過去30年のマクロ 経済統計の検証により、消費者物価上昇率は最高でも トテストにさらされるため、ポピュリズムが優勢となる ことが難しいという事情があった。 30%程度でありラテンアメリカ諸国の中では安定して 以上がウルッティア教授の分析ですが、一方で、コ いること、為替は実勢を反映しており闇レートとの乖 ロンビアの二大政党制の伝統が、格差の大きい社会の 離が生じた場合でも10%以内に収まっていること、財 中で下層階級の要求を十分にくみとれず、ゲリラ組織 政赤字も最大でGDPの4.7%で平均1.8%であること、 の出現を招いたということは否定できません。 公共料金などの規制はあるが物価凍結による賃金の凍 また、現在二大政党制が崩れ、2010年の大統領選挙 結といった規制政策を実施していないことなどから、 では7政党から候補者が出馬しており、ポピュリスト ポピュリズムが存在しない証拠であると主張します。 が出現しやすい環境が生まれていますが、未だ現実問 そしてその理由として次の3点を指摘しています。 題として心配される状況にはありません。 第1は、コロンビアの政治構造をみると、1840年代以 この政治伝統がコロンビア経済の特長である安定性 降二大政党制が確立しており(注:1991年憲法により政 を支えており、今後とも継続していくものと考えてお 党要件が緩和されてこの構造は崩れた) 、大統領候補者は ります。これがラテンアメリカ諸国に投資を検討する いずれかの政党に属していなければ立候補できなかった。 際に、コロンビアが優位性を持ち続ける要素となりま また、保守党と自由党という二大政党は、ともに地方の すが、日本でこの点に注目した分析がないことが残念 政治ボスの派閥により組織されており、個人に直接政治 です。 指導者の権力基盤を求めることを好まない傾向があった。 2014.7 5 現地レポート 生まれ変わったコロンビア 国際協力銀行 ニューヨーク駐在員事務所 首席駐在員 那須 規子 コロンビアと聞いて、麻薬と組織犯罪の国というイ 大西洋の両方に接しているため、北米にも中南米にも、 メージがあるとしたら、それはひと昔前のことである。 ヨーロッパにもアジアにもアクセスがよいというのが 今、コロンビアのキャッチフレーズは、花とコーヒー 特長。ただし、アンデス山脈が国土を標高3000から の国――である。ブラジルに並ぶ投資適格(BBB格) 5000メートル級の3つの山系に分かれて南北に分割 を付され、世界中の注目を集める。ウォールストリー していることから、東西の物流の妨げとなっており、 トジャーナルには「ラテンアメリカの新しい虎」と呼 特に太平洋側との物流を可能とするインフラ整備が課 ばれ、タイム誌は、 「コロンビアの復活」とうたい、 題となっている。 サントス大統領が表紙を飾る。 経済に目を転ずると、GDPは3696億ドル(2012年) 日本から遠く離れているという点ではブラジルやペ と、ラテンアメリカでは、第4位の経済規模を誇る。 ルーと同じだが、日本人の間で評判になっている観光 GDP成長率は、直近10年間ではラテンアメリカの 名所がないことや、日系人の数が少ないことなどから、 国々の平均成長率をおおむね上回っており、リーマン 日本にいるとコロンビアのことを見聞きする機会は比 ショックのときでさえプラス成長を維持し、2013年 較的少ないというのが現実である。 は4%、14年は4.3%を見込む。元来、堅実な経済運 本稿では、生まれ変わったコロンビアの今をご紹介 したい。 営を旨としており、ほとんどのラテンアメリカの国が 累積債務問題で苦しんだ1980年代にも、コロンビア は債務問題を起こすことはなかった。 国の概要 産 業 コロンビアは、ブラジル、メキシコに次いでラテン アメリカで3番目の4700万人の人口を擁し、国土は 2 産業は、石油、石炭を中心とする資源開発とコーヒ 114万km (日本の約3倍の広さ)で、米州大陸のち ーに代表される農業を中心としており、輸出額の4分 ょうど真ん中、北米と南米をつなぐ要衝に位置してい の3が、資源とコーヒーの輸出によっている。石油や る。1903年までは、現在の運河が開通する前のパナ 石炭は、治安の改善に伴い外資による積極的な開発が マもコロンビアの一部であった。南米で唯一太平洋と 進められた結果、近年順調に増加しており、原油生産 図表1 コロンビアとラテンアメリカ諸国の実質GDP成長率 (%) 8.00 6.00 4.00 2.00 コロンビア ラテンアメリカ 2.93 6.70 6.90 5.33 6.65 4.71 3.97 3.92 1.68 2.50 3.96 3.71 4.16 3.55 1.65 0.00 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 -2.00 コロンビアの特徴的な地形 6 2014.7 (年) 注:2013年および2014年については推計値。 出所:International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, October 2013(2013年及び2014年については推計値) コロンビアとラテンアメリカの実質GDP成長率(%) コロンビア特集 日米企業が投資開発する炭鉱(左:伊藤忠商事提供、右:筆者撮影) 量は日量96.9万バーレル(2012年)、石炭生産量は 9800万トン(2012年)となっている。金と白金の産 あまり知られていない。 日本とコロンビアの交流の歴史はメキシコやペルー 出量は、それぞれ南米で第2位、第1位を占めており、 に比べやや新しく、2008年に修好100年を迎えた。日 世界の貿易量の約8割を占めるエメラルドは、量だけ 系人も1800人ほどいるが、ブラジルの150万人などと でなく、質の面からもほかの産地に比べ圧倒的な優位 比べると非常に少ない数といえる。 性がある。一方、近年は、これら伝統的な産業を中心 コロンビア関係の仕事の経験がある日本人にコロン とした旧来型の輸出品目からの脱却を目指しており、 ビア人の国民性とは? と尋ねると、ラテンの国との 切花、果物、衣料品などの産品の輸出に力を入れて イメージからは程遠く、勤勉、几帳面、まじめといっ いる。 た回答が一様に寄せられる。日本人にとって仕事がし き 貿易相手国としては、米国が群を抜いて大きく、輸 やすい国民性ともいわれているので、今後、日本とコ 出入の4分の1以上が米国との取引となっている。日 ロンビアの経済面での交流が活発になっていくことを 本との貿易は、残念ながら非常に小さく、コロンビア 期待したい。 の世界との貿易全体に占める割合は、コロンビアから の輸出が0.6%、日本からの輸入が2.8%にとどまって 経済連携 いる(2012年) 。主要品目は、対日輸出が、コーヒー (59.6%) 、石炭(6.5%) 、切花(15%) 、対日輸入が、 コロンビアはアンデス共同体の加盟国でありメルコ 自動車・同部品(27.4%) 、一般機械(35.8%) 、金属 スールの準加盟国であると同時に、経済の自由開放政 品(20.9%)となっている(2012年) 。切花について 策を掲げ、自由貿易協定(FTA)や投資協定の締結 は、1990年半ばから急速に日本への輸出が増加して に積極的に取り組んでいる。米国、EU、カナダ、チ おり、現在、日本のカーネーションの輸入の6割(数 リ、韓国など10カ国以上とFTAを締結済みであり、 量ベース)がコロンビアから空輸されていることは、 今後もトルコなどとFTA締結を目指して交渉を行う 図表2 2013年のコロンビア輸出品目別シェア 出所:Dane コロンビア特産のコーヒー農園(出所:TBS HP) 2014.7 7 現地レポート 予定。 さらに、後述する太平洋同盟を通じた地域経済統合 に積極的に取り組んでいる。 日本とコロンビアは、2011年9月の投資協定の締 結(コロンビア側の批准待ち)に続き、現在、12年か ら始まった経済連携協定(EPA)交渉の大詰めの段 階を迎えている。昨年11月、サントス大統領から安倍 首相に対してEPAの早期締結の意向も示されている ことから、本年中の締結が期待されている。 政治体制 1.農地改革:FARCによる農地へのアクセスと利用を認め る。農村部における医療、教育、住宅等の社会開発や適 切なインフラ開発を認める。食糧安全保障システムの構 築。→2013年5月26日に合意済み。 2.政治参加:和平交渉が最終合意すれば、FARCに一定の 政治参加を認める。→2013年11月6日に合意済み。 3.麻薬問題の解決:麻薬の生産、商業化の縮小、撲滅。麻 薬に替わる産業の構築。 4.被害者:被害者への補償問題、人権問題の解決。被害者 の殺害、人質の事実を認めること。 5.紛争終了:武装解除、武力放棄、治安保障等。 6.和平交渉の導入:和平交渉の合意内容の導入プロセス、 アジェンダ、予算等。 Peace Talkの6つの議題(出所:公開情報から作成) 政治体制については、1958年に軍事政権が倒れた 後、ほかのラテンアメリカの国では左翼政権が台頭す サントス大統領のPeace Talkに対する手法は、 「武 るなか、右派の二大政党(保守党・自由党)が交互に 装解除、復員、再融合(Disarmament, Demobiliza- 政権を担う安定した政治体制が続いているが、左派勢 tion, and Reintegration (DDR)) 」である。ゲリラに 力が政治に参加する機会を完全につぶされていること 対し投降を促し、再教育をして、社会に戻すというも が、かえって左派勢力のゲリラ活動を過激化したとい のである。平均年齢12歳の若さでゲリラにリクルート われている。2002年に発足したウリベ政権(自由党 され、その後ゲリラとともに生活をしてきたメンバー 系)が2期にわたり、国軍および警察官の増強など治 は、40%程度の識字率しかなく、90%が何らかのト 安対策に重点的に取り組みつつ、安定した経済成長を ラウマをもっているといわれているため、投降しても 実現したという点で、現在のコロンビアがあるのはウ 社会に溶け込めず、収入の道も途絶えることから、再 リベ前大統領によるところが大きいといえる。また、 びゲリラに戻ってしまうという不幸が繰り返されてい ウリベ前大統領の政策継承をうたって02年に就任した る。このことに着目し、コミュニティの一部として組 サントス大統領は、ウリベ政権時代ではウリベ前大統 み込まれるように訓練や教育を施すところに重点をお 領の右腕だったが、治安対策と開放経済の路線は踏襲 いている。過去10年間に、ゲリラや民兵から5万6000 しつつ、ウリベ政権時代には国交断絶状態だったベネ 人が投降しており、早期の合意に向けて大統領直下の ズエラとの国交を回復したり、左翼ゲリラとの和平交 特別チームが交渉に当たっている。 渉を行うなど、もともとビジネスマンであったセンス を生かし新しい路線を進んでいる。 このゲリラとの平和構築(Peace Developing Skills)については高いノウハウを誇り、ラテンアメ リカ各国のみならずアフリカやアジアの各国の要請 新しい取り組み で、研修生を受け入れるほどになっている。 コロンビアはウリベ大統領着任以来、軍や警察の増 コロンビアが、現在、力を注いでいるのは、Peace Talkと太平洋同盟である。 強を行っており、国軍の人数は2001年の17万人から 11年には28万人に、警察は、同時期に、10万人から Peace Talkは、サントス大統領の強いイニシアチ 16万人まで増えている。市民300人当たり警官1人の ブのもと2012年に始まった。ウリベ大統領が、8年 計算となるが、これは、日本の市民500人当たり警官 間の任期中にゲリラ対策への道筋をつけ、コロンビア 1人に比べればどれほどの充実度かがわかると思う。 革命軍(FARC)に代表される左翼ゲリラによる襲撃 ゲリラの掃討作戦が効を奏し、誘拐事件は、01年の年 の激減という成果をあげたが、それをさらにサントス 間2917人から12年の年間305人まで激減している。 大統領が一歩進め、ゲリラとの対話をもち、6つの議 このような治安対策の充実やPeace Talkによるゲ 題について合意をしながら、平和的解決を図るという リラとの平和的解決の進展が、コロンビアに安心して 手法をとっている。昨年、6つの議題のうち最も難し 投資を行える環境の整備につながることから、コロン いといわれている2点について合意に至っており、残 ビアが今後も安定的な経済成長を続けるための鍵を握 る議題に取り組んでいるところである。 っているといえる。 8 2014.7 コロンビア特集 図表3 太平洋同盟 加盟国等一覧(2014年3月現在) 加盟を前提 としたオブ ザーバー国 加盟国 太平洋同盟ビジネスサミットに4カ国の首脳が出席 (出所:太平洋同盟HP) 太平洋同盟については、2011年4月にペルーのガ ルシア大統領(当時)がメキシコ、コロンビア、チリ の首脳に呼びかけて始まった加盟国間の経済統合を目 オブザーバー国 コロンビア コスタリカ 日本 チリ パナマ イスラエル ペルー イタリア メキシコ インド ウルグアイ エクアドル エルサルバドル オランダ オーストラリア カナダ グアテマラ コスタリカ シンガポール スイス スペイン ドイツ ドミニカ共和国 トルコ ニュージーランド パナマ パラグアイ フィンランド フランス ポルトガル ホンジュラス モロッコ 英国 韓国 中国 米国 出所:日本国外務省HP 図表4 コロンビア国家インフラ計画(主要セクター) 指す組織で、アジア太平洋地域との政治経済関係の強 2011∼14年 (十億ドル) 2011∼21年 (十億ドル) 化を目標として設立された。従来から、これら4カ国 道路 9.6 27.9 は、欧米、アジアの各国とFTAやEPAの締結を積極 鉄道 0.7 10.5 的に行ってきているが、太平洋同盟は、それをさらに 河川・海上 0.9 1.5 進めるかたちで、域内の人・モノ・金の自由な流通 港湾 1.0 1.5 (行き来)をうたっており、たとえば関税の撤廃、査 空港 0.5 1.0 3.25 7.1 16 50 証の廃止、資本証券取引所の統合、大使館の共用など、 きわめて強い政治経済の枠組みをつくるものである。 この4カ国で、ラテンアメリカの3分の1以上の人口 都市開発 合計 出所:コロンビア運輸省HP掲載資料をもとに作成 と経済規模を有しており、2013年のラテンアメリカ 全体の平均成長率が3%と見込まれるなか、太平洋同 った。しかし、道路、鉄道、住宅、病院といった社会 盟の4カ国は平均4.3%の成長率が見込まれている。 インフラが整わない限り、この成長が長く続かないこ 現在では、この勢いに後れをとってはなるまいとする とはコロンビア政府自身がよくわかっており、数年前 オブザーバー参加国が30カ国以上にのぼり、なかでも より世銀グループの国際金融公社(IFC)や外銀等の コスタリカとパナマは、加盟を前提としたオブザーバ 専門家のアドバイスを得て、各種法整備を行ってきた。 ー参加となっている。日本は、12年9月に太平洋同盟 特に、アジアやヨーロッパの先行事例に学び、鳴り物 4カ国の外相と会談し、今後関係を強化していくこと 入りで導入されたPPP(Public Private Partnership) で太平洋同盟側と合意、13年1月にアジアの国で一番 の枠組みはコロンビアのインフラ投資の局面を一変す にオブザーバーとして承認された。 るものと期待が寄せられている。 第4世代道路整備計画や総延長1500kmに及ぶ鉄道 今後の課題 建設、アジアへの玄関口の港湾整備など、総額500億 ドルの国家インフラ計画が、すべてコロンビア政府の これまで説明してきたとおり、コロンビアというの 考える民間主導型のPPPスキームで対応できるかとい は長きにわたり、天然資源に恵まれた国にもかかわら う点についてはチャレンジングという印象は残るが、 ず、長期投資に向かない国と考えられていたが、世界 少なくとも、インフラ計画に集まってくる専門家やビ 経済が落ち込んだなかでも、コロンビアは高い成長を ジネスマンは、内外問わず、コロンビアが今後も成長 成し遂げており、資源、経済成長、若い人材という強 し続ける国であることを確信しており、そのこと自体、 みをもったCIVET(Colombia, Indonesia, Vietnam, コロンビアに対するパーセプションの変化を象徴づけ Egypt, Turkey)の一部として認識されるようにな るものといえる。 2014.7 9 日本企業の取り組み コロンビアにおける 東芝水力発電の歩み 株式会社東芝 電力システム社 水力営業部 部長 吉川 保志 コロンビアと東芝 豊富な水力資源により電源構成は、設備容量14.5GW (2013年末)のうち水力が64%、火力31%、その他5% コロンビアというと何を思い浮かべるだろうか。コー で水力が高い割合を占めている。1990年代前半には水力 ヒー、エメラルド、バラ、カーネーション、アンデス高 設備容量は全体の8割を占めていたが、91∼92年のエル 地。一方で、一般にはなかなか知られていないが、東芝 ニーニョ現象による渇水で停電を余儀なくされたことか はコロンビアの多くの水力発電所に発電機を納入してお ら、電力供給体制見直しが行われ国営電力企業を中心に り、一時期は80%近くの電力が東芝製の発電機により発 体制が変更された。94年には発電送配電が分離され、送 電されていたこともある。部屋に4つのランプがあれば、 電は国の管理下に、発電は公営、半官半民、民間など混 そのうちの3つは東芝の発電機によって灯がともされて 在しているものの、発電部門では競争原理が導入される いたわけだ。今でもコロンビア発電機設備容量の約45% こととなった。現在の主要電力会社と発電電力量シェア は東芝製である。よって東芝の水力海外ビジネスを語る は、政府・公営系のEPM26%、ISAGEN21%、GECEL- 場合、コロンビアは欠くことができない国なのである。 CA14%で、民間系のEMGESAが29%、EPSA10% 東芝の水力事業の始まりは110年以上前に遡るが、1962 (2014年2月)となっている。 年から63年にかけて製造した発電機4台(4×43MVA) 治安問題による苦難の時代を乗り越えて を、カリマ水力発電所にコロンビア向けとして初めて納 入した。以降計35台、容量にして5100MVA以上の東芝 製水車発電機が、コロンビア国内のさまざまな水力発電 コロンビアへの当社水力機器納入は1980年代に集中し 所で元気に発電し、各家庭やオフィスなどに電気を送っ ているが、以降約25年の間、2006年のポルセⅢ水力 ている。現在はソガモソ水力発電所で3台(3×328MVA) (660MW)まで、同国向けの新設プラント受注がないと の発電機を据付・試験中で、今年後半に予定のプラント いう時代が続いた。この時期はちょうどコロンビアの低 運転開始時には、当社のコロンビア向け水車発電機は計 成長期にあたり、この約25年の間に建設された水力発電 38台、6000MVA以上となる。東芝は世界各国に発電機 所はウラ発電所(335MW、1999年運転開始) 、ポルセⅡ 器を納入しているが、コロンビアは東芝がこれまでに製 発電所(405MW、2001年運転開始) 、ミエルⅠ発電所 造した水車発電機の容量ベースでは、日本、中国に次ぐ、 (396MW、2002年運転開始)のわずか3発電所である。 世界第3位の規模をもつ納入国となっている。 コロンビアの水力資源 コロンビアは自然豊かな国で、4000メートル 級のアンデス山脈がもたらす地形と豊かな雨に より、水力発電開発の好適地となっている。開 発可能な包蔵水力は93GW(原子力発電所90基 規模)あるとされるが開発済みのものはそのう ち16%にすぎない。 10 2014.7 電力会社 EPSA AES EMGESA EMGESA ISAGEN ISAGEN EPSA EPM ISAGEN 発電所名 カリマ水力発電所 チボール水力発電所 ラ・グアカ水力発電所 エル・パライソ水力発電所 サンカルロス水力発電所 ハグアス水力発電所 サルバヒーナ水力発電所 ポルセⅢ水力発電所 ソガモソ水力発電所 台数 4× 8× 3× 3× 8× 2× 3× 4× 3× 発電機定格 43MVA 161MVA 132MVA 115MVA 183MVA 104MVA 115MVA 218MVA 328MVA 製造年 1962/63 1974/78 1980 1980 1980/82 1982 1982 2009 2012 当社がコロンビアに納入した水力機器 コロンビア特集 また1990年代には治安が悪化、ご記憶ある方もおられ 国際協力銀行(JBIC)のバイヤーズクレジットを客先へ ると思うが1991年、サンカルロス水力発電所に派遣され 提案。このJBICファイナンスが客先から高い評価を受け、 ていた東芝技術指導員2名が誘拐されるという不幸な事 東芝が受注する大きな決め手のひとつとなった。 件を経験した。4カ月後、2名共に無事解放されたが、以 降現地治安問題から出張者を派遣できず、納入機器の定 今後の取り組み 期検査もままならぬ状況となった。しかしこの誘拐事件 後も、首都ボゴタの当社事務所は閉鎖せず、現地ローカ コロンビアでは現在、プラント容量が20MW以上のプ ルスタッフが東芝の看板を背負い、コロンビアの各電力 ロジェクトは電力オークションにより実施される案件が 会社と東芝の関係維持に尽力してくれた。 決定される。しかし2012年1月に開かれて以降実施され そして2006年、25年ぶりに念願の新規建設プロジェク ておらず、次のオークションは15年の見込みだ。大型案 トである、ポルセⅢ水力発電所向けの発電機供給契約を 件としては当社受注のソガモソ水力発電所(820MW) 受注した。発電機器の場合、据付工事や工事完了後の試 と、12年にアルストム(伯)が受注したイトゥアンゴ水 験・試運転において特殊な技術やノウハウが必要であり、 力発電所(2400MW)により当面の電力需要は賄われる 現場作業者への指導の目的で、製造メーカーが指導員を ためとみられる。一方でコロンビアから中米への電力輸 派遣するのが通常である。しかし治安問題から当社社員 出構想があり、実現すればコロンビアの豊富な水力資源 を現地へ派遣することができない。 を利用した大型案件の実現も期待される。JBIC融資と当 この事態を打破すべく、ポルセⅢではコロンビア企業 社製品を組み合わせて客先に魅力ある提案を作り上げ、今 しょうへい のコロンビア人技師を日本へ招聘、東芝の工場でトレー 後のプロジェクトへも参画を果たしたい。 ニングを行い技術の習得後、彼らが当社製機器の据付工 治安問題に関しては、かつてのゲリラ抗争といった印 事指導を当社に代わり実施した。それでも直接当社技術 象は、少なくとも私が訪問したボゴタ、メデジンといっ 者の知識やノウハウが必要な場面では、当時出張が可能 た都市では現在はまったく感じられず、落ちついた美し になった首都ボゴタから、ビデオカメラと通信設備を駆 い街というものであった。これはウリベ前大統領による 使し、リアルタイムで発電所現場とボゴタ間の遠隔指導 治安対策強化により治安が大きく改善され、また経済開 を試みた。また発電所と宿舎は治安確保のため高い柵で 放政策が海外投資増加へつながったことからくるもので 囲われたうえで軍による24時間の監視が行われ、コロン あろう。現サントス大統領は、ゲリラ部隊との和平交渉 ビアと日本が一体となった協力体制により無事プロジェ を通して治安のさらなる改善と経済振興を目指しており、 クトを完遂した。 コロンビアの今後に大いに期待したい。実際に訪れてみ 東芝にてトレーニングを受けたコロンビア人技師はこ るとコロンビアはビジネスチャンスのある、自然や資源 れまでに延べ20名以上で、彼らは現在当社機器を据付工 の豊かな活気ある素晴らしい国だと感じる。東芝がこれ 事中のソガモソ水力プロジェクトでも活躍している。東 までに築いてきた顧客との関係を維持しつつ、今後とも 芝にとってとても心強いパートナーだ。 コロンビア発展の一端を担っていくことができれば幸い この2010年に契約したソガモソ水力プロジェクトでは 当社発電機コイルを組み立てるコロンビア人作業員。 彼らが当社の製品を支えている である。 発電機のロータ(回転部)をステータ(固定部)に つり込む作業中(ともにソガモソ水力発電所にて撮影) 2014.7 11 日本企業の取り組み コーヒーを通じた コロンビアとの パートナーシップ 三菱商事株式会社 生活産業グループ 生活原料本部 酪農飲料部 部長 塩澤 博紀 コロンビアコーヒー たりこの国の経済発展に貢献している。いわば日本の お米のように、今でも国民になじみ深い農作物として コロンビアの自然の美しさには目を見張るものがあ 親しまれている。 る。太平洋と大西洋に挟まれ、中央部を雄大なアンデ ス山脈が貫き、また東部にはアマゾンの熱帯雨林が広 三菱商事とコロンビア がるコントラスト豊かな国土にはさまざまな動植物が 生息しており、コロンビアは生物多様性の国としても 知られている。 コロンビア三菱商事が設立されたのは1963年のこと で、当時は鉄鋼、自動車、そしてコーヒーが主な取扱 コロンビアといえばコーヒーだが、そのコーヒーも 品目だった。70年代に入るとコロンビアの外貨不足へ この国ならではの自然の恩恵を受けている。国土の南 の対応として、日本から輸出される自動車の代金をコ しゅんけん 部を走る赤道と峻険なアンデス山脈の緯度と高度の組 ーヒーで支払う、いわゆるバーター取引が盛んとなっ み合わせが、マイクロ・クライメイトと呼ばれる微細 た。今でこそ世界第3位のコーヒー輸入大国となった な気候や土壌を育み、1年を通じて国内のどこかで常 日本だが、当時はコーヒー文化が根づき始めたばかり にコーヒーが収穫されている。このため、コロンビア のコーヒー新興国で、コロンビアは日本を潜在的市場 は香り高くそして新鮮なコーヒーの輸出国として世界 としてとらえて輸出振興に力を注いでいた。こうした の人々に知られている。 流れを背景に、77年には三菱商事のコーヒー課からも コーヒーがコロンビアに持ち込まれたのは18世紀初 頭のことで、スペインから布教活動で渡来した宣教師 が貧しい信者たちの生計を助けるために栽培を奨励し、 駐在員が派遣され、コーヒー取引を通じたコロンビア におけるネットワークを広げていった。 全国の55万世帯にも及ぶコーヒー生産者を代表する 徐々に全国へと生産が普及していった。その後、コー コロンビア生産者連合会(通称FNC)との本格的なコ ヒーは外貨獲得のための重要な産業として300年にわ ーヒー取引が開始されたのもこのころであった。FNC コロンビアのコーヒー農園風景 赤く熟し収穫を待つコーヒーチェリー 12 2014.7 コロンビア特集 はコロンビアコーヒーの生産および輸出を促進する世 界有数の農業関連NGOとして知られ、コロンビアをコ ーヒー大国に導いた立役者でもある。1962年には東京 事務所を開設し、今でも日本を中心とするアジアでコ ロンビアコーヒーの販売促進に成果をあげている。三 菱商事も歴代の駐在員を中心にFNCとの連携を深め、 80年代半ばには日本コロンビア経済委員会のコロンビ ア側委員長をFNC代表が、日本側委員長に三菱商事の 代表がそれぞれ就任した。89年にはコロンビア産プレ ミアムコーヒーの日本の販売にも共同で着手した。日 本で人気が高いブルーマウンテンに比肩するコロンビ OCAの合弁契約書署名式の様子(三菱商事会議室にて) アコーヒーを日本の消費者に届けようとの思いで開発 した「エメラルドマウンテン」は、コロンビアが産す る希少価値の高い宝石エメラルドとコーヒーを育む大 自然アンデス山脈にちなんで命名された。地道な販売 活動が実り、大手飲料メーカーの缶コーヒー原料とし て採用されるなど市民権を得て、今ではコロンビアを 代表するコーヒーとして日本のコーヒーファンに親し まれている。 また、1994年にはコロンビアの有力インスタントコ ーヒー会社コルカフェと、同じくインスタントコーヒ ニュートレッサのチョコレート工場 ー製造会社であるインダストリアス・アリアーダス社 の共同経営を開始した。同社の製品は日本のみならず 国市場における中間所得層の急速な拡大を背景とする 海外の大手顧客向けにも販売されている。 生活必需品の需要増大を商機ととらえ、長年の取引を 通じて構築された国内外の有力企業との強固なネット コロンビアとの新たな挑戦 ワークを基盤に、特にアジアを中心とする新興国にお いてサプライチェーンの構築にチャレンジしている。 こうしたコーヒーでの取り組みが今、太平洋を挟ん コーヒーを通じて培った両社のパートナーシップが、 だより大きなものへと発展しようとしている。三菱商 環太平洋という、より大きな舞台での新たな挑戦に向 事は本年2月に、コルカフェの親会社でありコロンビ けて動き始めている。 アの食品メーカー最大手のニュートレッサと、マレー シアにコーヒーの開発・販売を手掛ける合弁会社「オ 結 び リエンタル・コーヒー・アライアンス(OCA) 」を折 半出資で設立することに合意した。コルカフェがもつ 折しもアジアと米州の経済的な結びつきに注目が集 製造技術と三菱商事のもつコーヒー調達力を融合し、 まっている。ご存じのとおり、メキシコ、ペルー、チ 急速に伸びるアジアでのインスタントコーヒー需要を リ、そしてコロンビアの4カ国から構成される太平洋 取り込もうとするものだ。 同盟が2011年4月に発足した。同盟国内の関税撤廃を ニュートレッサはコーヒー以外にもチョコレート、 進めると同時に、アジア太平洋地域との経済関係強化 ビスケット、食肉など6つの食品分野で高い国内シェ を目標とするもので、13年1月に日本もアジアで初め アを誇る総合食品メーカーで、その事業活動は国内に てこの同盟のオブザーバー国となっている。米州大陸 とどまらず、アメリカ、メキシコ、チリに製造拠点を への玄関としてのコロンビアと、アジアの玄関として 有するなど、特にラテン民族系の消費者をターゲット の日本。2国間の取り組みは今後も大きな可能性を秘 に米州広範にまたがっている。三菱商事もまた、新興 めている。 2014.7 13
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