チンパンジーの協力行動 霊長類研究 Primate Res. 25-2:55 − 66, 2009 55 総 説 チンパンジーの協力行動 平田聡 (株)林原生物化学研究所類人猿研究センター はじめに その後,Crawford(1937)が別の状況で実 験的な検証をした。チンパンジー1個体では 動かせない重い箱を柵の向こうに置き,箱に 取り付けられた 2 本のロープをチンパンジー 2 個体が一緒に引っ張ると箱を引き寄せて中の 食物を手に入れることができるという実験で ある。この実験では,段階を経た訓練の結果, チンパンジー 2 個体が一緒にロープを引っ張 るようになったことが記述されている。この Crawford(1937)の実験設定を Povinelli & O’ Neil(2000)が再現し,やり方を知っているチ ンパンジーが知らないチンパンジーに教える かどうか検証しているが,結果は否定的であっ た。また,Chalmeau(1994)が別の種類のテ スト場面でチンパンジーの協力行動について 実験的に調べている。2 本のレバーを 2 個体の チンパンジーが同時に引っ張れば,レバーに つながった機械が作動して食物が供給される という装置を使った実験である。結果,ある ペアのチンパンジーで成功した。ただし,そ のペアの一方は子どもであり,供給された食 物を得ることはほとんどなかったので,子ど もが遊びでレバーを引っ張るのを大人が利用 していたと表現するほうが妥当なようである。 上 記 の 研 究 以 外, ご く 最 近 ま で チ ン パ ン ジーの協力行動に関する報告は乏しく,協力 的場面でのチンパンジーの社会的理解を調べ る 研 究 は 失 敗 に 終 わ っ て い た(Hare, 2001)。 他者と協力することは,われわれ人間の日 常の暮らしのなかで重要な社会行動である。 チンパンジーも野生において狩猟する際に互 いに協力や役割分担をするという報告がある が(Boesch & Boesch, 1989),その一方で,チ ンパンジーの集団での狩猟時の行動を「協力」 と解釈することに懐疑的な分析結果も出され ている(Gibly, 2006)。 チンパンジーの協力行動を飼育下,実験的 環 境 で 観 察 し た 例 は, 古 く は Köhler(1925) に遡る。彼はまず,部屋の高い天井にバナナ を吊り下げ,チンパンジーが複数の箱を積み 上げて登りバナナを手に入れるという道具使 用のテストを,個別のチンパンジーに対して おこなった。箱を積み上げて道具にすること ができるようになった段階で,同じテストを 複数のチンパンジーがいる集団場面でおこ なってみた。するとその結果,各チンパンジー がめいめいバラバラに自分で箱を積み上げよ うとし,全体で協調的に振舞うことはまった くなかった。みな我先に箱を積み上げて上に 登ろうとする結果,せっかく積んだ箱が崩れ てしまうことがほとんどだった。結果的に協 力的に見える事例もなくはなかったが,こう した場面でチンパンジーの協力行動が成立し にくいというのが Köhler(1925)の結論である。 2009 年 10 月 5 日受付,2009 年 11 月 4 日受理 e-mail: hirata@gari.be.to 55 56 平田 聡 Hare & Tomasello(2004)は,チンパンジーは 協力的場面より競合的場面において熟練した 行動を見せると報告している(Herrnmann & Tomasello, 2006 も参照)。野生チンパンジーの 集団では,協力が必要な場面より,他個体と 競合することのほうが主であり,その結果, 競合的場面において他者に勝ることに熟達し ているというのが彼らの主張である。 私は,こうした背景のもと,チンパンジー の協力的行動を実験的に調べる試みをおこ なった。上述の Crawford(1937)の実験では, 2 個体のチンパンジーが協力して課題を達成す ることに成功しているが,その初期過程でヒ トが介入して訓練をおこなっている。そうし た訓練も含めた一連の過程の記録が明瞭には 残 さ れ て い な い。Povinelli & O’Neil(2000) の実験では協力行動の成立自体は研究テーマ ではなかった。Chalmeau(1994)の実験では, 上述の通り,子どもが理解せず行動している のをオトナが利用しているだけだったと考え られる。私の研究では,チンパンジーが協力 的課題を達成するに至る過程を一部始終記録 し,そのなかで見られる相手の役割の理解に ついて検討したいと考えた。具体的には 2 つ の課題を考案して実施した。2 個体が一緒に ひもを引っ張る課題(ひも引き協力課題),お よび 2 個体が重い石を一緒に動かす課題(石 引き協力課題)である(Hirata & Fuwa, 2007; Hirata et al., in press)。本稿では,これらの結 果を中心に,チンパンジーの協力行動につい て概観する。何をもって「協力」と見做すか という定義については意見が分かれるところ であろうが,便宜的に「1 個体では達成できな い事柄を,2 個体以上で一緒に行動することで 成し遂げること」と簡単に捉えることにする。 意図の明示的表示 次節以降で,ひも引き協力課題と石引き協 力課題について見てみることにするが,結果 の詳細についてはオリジナルの報告に委ねる (Hirata & Fuwa, 2007; Hirata et al., in press)。こ こでは,協力課題における他者とのコミュニ ケーションに焦点を当ててみることにしたい。 チンパンジーや他の大型類人猿が他個体と コミュニケーションを図る際の他者の注意の 状態の理解について調べる研究がいくつかな されている。チンパンジーが他者に食物要求 のジェスチャーをするという実験的状況にお い て, 自 分 の ほ う を 向 い て い る 他 者 と, そ う で な い 他 者 が い る 場 合, チ ン パ ン ジ ー は 自分のほうを向いている他者のようにジェス チャーを向けることが多い(Gómez, 1996a, b; Hostetter et al., 2001; Leavens et al., 2004)。他者 とコミュニケーションを取る際には,まず他 者が自分のほうに注意を向けていなければな らないということを,チンパンジーが理解し ている可能性を示す研究結果である。ただし, 他者が自分を「見ている」ということを理解 しているかという点については,否定的な見 解も呈示されている(Povinelli et al., 2000)。 食物要求のジェスチャーを利用した実験的 場 面 を 拡 張 し た Cartmil & Byrne(2007) は, オランウータンを対象として,他者が自分の ジェスチャーに反応しない場合は自分のジェ スチャーを変化させることを示した。ヒトの 場合でも,相手が呼びかけに応えない場合に は,もう一度大きな声で呼んでみるとか,呼 びかけ方を変えてみるなどの調整をおこなっ て,相手の注意が自分に向くように試みるこ とがあるが,オランウータンでも同様のこと が認められるわけである。 要求行動とアイコンタクトとの関連を調べ た報告もある。アイコンタクトは,ヒトの場合, 「意図の明示的表示」の役割を担う場合がある。 誰かに何かを話しかけるに,話しかけようと する自分の意図を相手に伝えるためにまず相 手の目を見たり,誰かと共同で作業をおこな うときに,一緒に行動する意図を伝えるため に目を見たりする。つまり,アイコンタクトを, 自分の意図を相手に表示し伝えるきっかけと して,意図の明示的表示の意味で用いるので チンパンジーの協力行動 ある。 Gómez(1996a)は,チンパンジーがヒト実 験者に何かを要求する際,ヒト実験者が自分 のほうを向いてアイコンタクトが成立するま で待っている場合があったと述べている。ま た,ゴリラがヒト実験者に何かを要求する場 合にもアイコンタクトが成立したと報告して いる(Gómez, 1990)。そもそもマカクなどサ ルにおいて他個体の目を見ることは威嚇の意 味を持つが,大型類人猿においてはアイコン タクトが友好的なコミュニケーションとして 働 く(Gómez, 1996a) 。要求場面で相手の目 を見ようとするということは,チンパンジー やゴリラにおいても,アイコンタクトが意図 の明示的表示の役割をもっている可能性を示 唆 す る も の で あ る。 た だ し,Gómez(1990; 1996a)の報告は逸話的なものであり,厳密に 検証されたものではない。 石引き協力課題 重い石を 2 個体で協力して動かす課題をお こなった(Hirata et al., in press)。チンパンジー の運動場の地面に穴を掘り,その中に食べ物 を入れておいて,穴を石でふさぐという設定 である。最初は軽い石で穴をふさぎ,チンパ ンジー 2 個体がそれぞれひとりで課題を解決 できるまで訓練した。その後,1 個体では動か せない重さに石を増量し,2 個体のチンパン ジーが協力して石を動かすことがあるのか観 察した。結果,2 個体のチンパンジーはまった く協力の兆候を示さなかった。むしろ,どち らか一方が石を動かそうとすると,もう一方 は動きを止めて,一緒に行動するのを避けて いるようだった。 実験を繰り返すにつれて,2 個体とも石を動 かそうとする行動が徐々に減少し,そのまま 続けてもおそらく何もしなくなるだけであろ うと予想されたので,チンパンジー 2 個体で の実験は打ち切り,ヒトとチンパンジーがペ アになる場面に変更した。ヒトを相手にした 57 最初のテストとして,相手にタイミングを合 わせることを理解するかどうか検討した。ヒ トが,石を動かそうとする場合と,動きを止 めてじっとしている場合とを,一定時間ごと に交互におこなった。チンパンジーは,ヒト の動きに合わせる様子は見られず,ヒトが石 を動かそうとしていようが,動きを止めてい ようが,関係ないタイミングでランダムに石 を引っ張ろうとした。そこで,訓練として, 逆にヒトがチンパンジーに合わせて石を動か し,課題に成功するように仕向けた。何度か 繰り返すうちに,チンパンジーは次第にヒト と一緒に石を動かそうとするようになった。 次のテストとして,動かす方向を相手に合 わせるということをチンパンジーが理解して いるのか確かめる場面を設けた。ヒトは,チ ンパンジーが引っ張ろうとする前から,あら かじめ決めた方向に石を引くことにした。チ ンパンジーがその方向に合わせて石を引っ張 るかどうか見るためである。結果は,最初は うまくいかなかった。チンパンジーは,ヒト とまったく逆の方向に石を引っ張ろうとする ことも度々あった。同じ場面を繰り返してお こなったところ,60 試行を過ぎた時点で,ヒ トに方向を合わせるようになった。 最後に,チンパンジーがヒトを協力に誘う 行動が見られるかどうかテストした。このテ ストでは,ヒトは最初石から 1.5 m 離れた位 置に立っていて,チンパンジーから何らかの 働きかけがあって初めて石を引っ張りに行く こととした。このテストの最初の試行で,チ ンパンジーは,まず 12 秒間自分ひとりで石を 引っ張ったが石が動かず,そこでヒトのほう に向かってきて,ヒトの手を取って石のある 場所まで引き連れてきた。最初の試行から, ヒトを誘う行動が見られたわけである。この 条件で合計 40 試行おこなったが,すべてにお いて,離れた場所に立っているヒトの手を取っ て石のある場所まで引き連れてくる行動が見 られた。 ただし,ヒトの手を取って協力に誘う際, 58 平田 聡 チンパンジーは一度もヒトとアイコンタクト を取ろうとしなかった。実は,上述の計 40 試 行のうち半分は,チンパンジーから見てヒト が背中向きになるように立っていた。チンパ ンジーが,ヒトの正面に回りこんでアイコン タクトを取ってから誘いかける行動が見られ るのかどうかテストするためである。こうし た 20 試行で,チンパンジーは一度もヒトの正 面に回り込んで協力に誘うことはなかった。 すべての場合において,ヒトの背中側からヒ トの手を引っ張り,石のある場所まで引き連 れてきた(図 1)。 誘いかけ行動についてさらに検証するため に少し違う条件も導入した。ヒトが,チンパ ンジーの誘いかけ行動(ヒトの手を取って石 の場所まで引き寄せようとする行動)にはす ぐには応じず,5 秒間動かずにいるという条件 である。チンパンジーは,5 秒間の間,同じ行 動を繰り返すのみであった。つまり,ヒトの 手を取って,石のある方向に引き連れようと し続けた。この間,ヒトとアイコンタクトが 成立することはなかった。 まとめると,チンパンジーは,最初から協 力する必要性を理解して他者に合わせて課題 ᐔ↰ 25 を解決することはなかったが,ヒトが相手に 856 856 ࿑1 857 858 図 1 石引き協力課題においてヒトの背後から手を伸 ばして誘いかけるチンパンジー なった場合,試行錯誤を繰り返しながら,相 手に合わせたり,さらには相手を誘ったりす ることができるようになることが分かった。 ただし,相手を誘う場合はただ手を引っ張る のみで,意図の明示的表示のためにアイコン タクトを用いている証拠は認められなかった。 ひも引き協力課題 先の石引き協力課題では,まずチンパンジー 2 個体で協力するかどうかを見たかったわけで あるが,協力して石を動かすことはなかった。 何とかチンパンジー同士の協力場面を設けた いと考えたが,重い石を使うのはあまり適し ていなかった。チンパンジーの力が強いため, 石を非常に重くしなければならず,ヒト実験 者のほうが実験場面の設置に苦労した。課題 を少しだけ変更したり,何度も繰り返したり するのは困難だった。そこで,もう少し簡単 にできる課題を新たに考案した。ひも引き協 力課題である(Hirata & Fuwa, 2007)。 左右の側面から 1 つの穴がトンネルのよう に貫通している直方体のブロックを用意した。 このブロックを,チンパンジーのいる部屋の 外に置き,1 本のひもの片方の端を穴に通して, ひもが穴を通って渡るようにした。このひも の両端を,チンパンジーの部屋の内外を仕切 る柵から部屋の中に伸ばし,ブロックの上に 食べ物を置いた。食べ物を得るためには,ブ ロックを引き寄せなければならない。ひもの 両端を同時に引っ張れば,ブロックを引き寄 せることができるが,ひもの片方の端だけを 引っ張ると,ひもだけがブロックの穴から抜 け出てブロックを引き寄せることができない。 まず,チンパンジー 1 個体で,ひもの両端 を同時に引っ張ってブロックを引き寄せ食べ 物を手に入れることを学習させた。その後, ブロックを 2 つに増やし,チンパンジーが両 手を広げた長さより 2 つのブロック間の距離 が遠くなるように配置して,2 つのブロックを 別の棒でつないだ。そして,それぞれのブロッ チンパンジーの協力行動 クの穴を通るように 1 本のひもを渡して,こ のひもの両端がチンパンジーの部屋の柵から 中に入るようにした(図 2)。2 個体が,ひも の両端をそれぞれ持って同時に引っ張る協力 課題である。個別の学習が済んだ 2 個体のチ ンパンジーがこの協力課題に成功するのかど うか検討した。 最初の 30 試行ではまったく成功しなかっ た。どちらか一方のチンパンジーがひもの片 端だけを引き,ひもだけが引き抜けた。そこ で,ひもの長さを長くして,課題を容易にした。 部屋の中に伸びているひもの端の部分が長く, 一方の端を持ったままもう一方の端までたど り着いて両方の端を 1 個体だけで引っ張るこ とができる。この状況での最初の 2 試行は,1 個体が両端を持って引っ張ることで成功した。 3 試行目,2 個体がひもの端にそれぞれ近づき, それぞれがひもを持って,同時に引っ張って ブロックを引き寄せ食べ物を手に入れること に成功した。その後は,試行を重ねるにつれて, 2 個体が両端をそれぞれ持って同時に引っ張り 成功する割合が増えていった。 成功する割合が増える過程で,一方のチン パンジーが他方を見て待つ行動が出現し,こ 858 ࿑2 859 図 2 ひも引き協力課題の模式図 59 の行動の割合が増えていった。一方のチンパ ンジーがひもを持った時に相手がまだひもを 持っていないと,それをよく見て相手がひも を持つまで自分が引っ張るのを待つのである。 こうした行動は,2 個体のうち 1 個体で最初に 出現し,しばらく後にもう 1 個体もおこなう ようになった。成功率が高くなったので,ひ もの長さを再び短くし,1 個体だけでは成功せ ず 2 個体が同時に引っ張らなければならない 状況にしたところ,2 個体での高い成功率は維 持された。 相手を見て待つ行動によってこの課題に成 功するようになったものの,相手を誘いかけ たり,ひもを引く前にアイコンタクトを取っ たりする行動は一度も生じなかった。ヒトで あれば,ひもを引く前にアイコンタクトを取っ たり,「せーの」とかけ声をかけたりして,両 者のタイミングを合わせようとする努力をす るだろう。そうした意図の明示的表示に関連 する行動はチンパンジー同士では見られな かった。 次に,チンパンジーがヒトとペアになる場 面を作った。石引き協力実験でおこなったテ ᐔ↰ 26 ストと同様に,ヒトが最初は動かずひもを引 きに行こうとしない状況でチンパンジーがど うするか見てみたところ,ヒトの手を取って 誘う行動が見られた。誘う行動が見られた最 初の試行で,チンパンジーはヒトの手を取る 前にヒトの顔を見上げたが,アイコンタクト ま で は 至 ら な か っ た。Hirata & Fuwa(2007) の記録ビデオを見直してみたところ,ヒトの 顔を見上げる行動は 24 試行中 6 試行で出現し たが,いずれの場合もアイコンタクトが成立 するまでには至らなかった。 まとめると,ひも引き協力課題において, チンパンジー同士で一緒にひもを引っ張って 課題を解決できるようになった。その過程で, 相手を見て待つという行動が出現した。ただ し,相手を誘いかけたりする交渉は観察され なかった。一方,ヒトがペアになった状況では, 相手を誘いかける行動が出現した(この違い 60 平田 聡 に関する議論は Hirata & Fuwa, 2007 を参照)。 ただし,誘う際にアイコンタクトを試みよう とはしなかった。 チンパンジーにおける研究の展開 ひも引き協力課題と基本的に同型の課題を 用いて,Melis らのグループも研究をおこなっ て い る(Melis et al., 2006a; Melis et al., 2006b; Melis et al., 2008; Melis et al., 2009)。それによ ると,複数のペアでひも引き協力課題をおこ なって,その成功率と,ペア間の寛容度との 関連を分析したところ,正の相関があった。 つまり,寛容性の高いペアほど,ひも引き協 力課題で一緒に紐を引っ張って成功する割合 が高かった(Melis et al., 2006a)。また,協力 相手として 2 個体の候補のうち 1 個体を選べ るような状況にすると,成功率の高い相手を 選ぶ傾向があった(Melis et al., 2006b)。課題 に成功するには相手が必要であり,かつ,ど の相手と一緒にやればよいのかをチンパン ジーが理解していることを示す結果である。 課題に成功した後に得られる食物の量がペア 個体間で異なる場合と同じ場合とを選択でき るようにすると,どちらを選ぶのか個体同士 でネゴシエーションが見られた(Melis et al., 2009)。また,過去に相手が自分をパートナー として選んでくれたかどうかが,その相手を 次の協力課題の試行のパートナーとして選ぶ 割合に影響を及ぼすのかについて調べたが, 大きな影響はなかった(Melis et al., 2008)。つ まり,互恵性の基礎となる側面である,相手 が過去に自分に協力してくれたかどうかとい う点についてチンパンジーは考慮に入れてい ないようだった。 上記の研究以外にも,さまざまな場面を用 いて,チンパンジーの利他性や役割分担につ いて調べる実験がおこなわれるようになって き た。 主 な 研 究 の 概 要 を 紹 介 す る。 ま ず は 互 恵 性 に つ い て の 研 究 で あ る。Yamamoto & Tanaka(2009a, b)が,コインを媒介とした実 験場面を作った。隣り合った 2 つの部屋のそ れぞれにコイン投入機が設置してあり,一方 の部屋のコイン投入機にコインを入れると, 他方の部屋から食べ物が出てくるという設定 である。この状況で,オトナチンパンジーの ペア(Yamamoto & Tanaka, 2009a)およびチン パンジー母子(Yamamoto & Tanaka, 2009b)が 互恵的に行動するのかを調べた。つまり,ペ アのうち一方の部屋のチンパンジーがコイン を入れて他方の部屋のチンパンジーが食べ物 を入手し,逆に後者のチンパンジーがコイン を入れて前者のチンパンジーが食べ物を入手 するという互恵的行動パターンが成立するの か観察した。その結果,ヒト実験者がコント ロールした場面ではオトナチンパンジーのペ アにおいて互恵性が成立したが,母子では成 立しなかった。チンパンジーが自由に振舞え る条件では,オトナ同士でも母子でも自発的 な互恵性は成立しなかった。 利 他 性 に つ い て, ほ ぼ 同 様 の 場 面 で の 研 究が 3 つおこなわれている(Silk et al., 2005; Jensen et al., 2006; Vonk et al., 2008) 。チンパ ンジーに 2 つの選択肢が与えられる。一方の 選択肢を選ぶと,自分の部屋にだけ食べ物が 出てくる。もう一方を選ぶと,隣の部屋にい る他人と自分の両方に食べ物が出てくる。隣 の部屋に誰もいないコントロール条件と比較 し て, チ ン パ ン ジ ー が 隣 の 部 屋 の チ ン パ ン ジーにも食べ物が出る選択肢を選ぶ割合は変 化しなかった。つまり,あえて他人のほうに も食べ物が出るようにはしなかった。Silk et al.(2005)の論文のタイトルを邦訳すると, 「チ ンパンジーは他者の幸福には無関心である」 となる。 た だ し, チ ン パ ン ジ ー の 利 他 性 に つ い て 肯定的な結論の研究も出ている。Warnenken & Tomasello(2006) お よ び Warnenken et al.(2007)は,他者(ヒトもしくはチンパンジー) が何か困っている状況で,チンパンジーが手 助けをするのかどうか観察した。何か困って いる状況とは,例えば,手に持ったものを落 チンパンジーの協力行動 61 として手が届かないところに転がってしまっ た,というような場合である。いくつかの場 面で調べた結果,チンパンジーも利他的に他 者を助ける(上記の例では,転がった物を拾っ て届ける)ことがあることが確かめられた。 Yamamoto et al.(2009)も,道具使用場面にお 確かにひも引き協力課題に成功することがで きるものの,協力課題の理解という点ではチ ンパンジーとの間にギャップがあることがう かがえる。カラスとチンパンジーとの間に具 体的にどのような認知的隔たりがあるのかに ついては今後の検討課題である(Seed et al., けるチンパンジーの利他行動について報告し ている。この研究では,ジュースを得るため に特定の道具が必要となる実験場面で,ジュー スを得ようとするチンパンジーがいる部屋に は道具がなく,向かい側の別のチンパンジー がいる部屋に道具があるという状況が設定さ れている。実験の結果,向かい側の部屋のチ ンパンジーが,隣の部屋でジュースを得よう としているチンパンジーに道具を手渡しする 行動が見られた。こうした利他行動率は,非 血縁のオトナ同士に比べて母子間で高かった。 そして,このように利他的に道具を渡す行動 が生起する際,要求行動の有無が鍵を握るこ とが示唆されている。以上あわせて,チンパ ンジーも利他性の重要な要素を備えていると 考 え ら れ る(Yamamoto & Tanaka, 2009c も 参 照)。 2009)。 ひも引き協力課題を使ったもうひとつの研 究は,ボノボを対象とした実験である(Hare et al., 2007) 。この研究は,Melis et al.(2006) 種間比較 ひも引き協力課題を,チンパンジー以外の 種でおこなった研究が 2 つある。ひとつめは カラスを対象とした研究である(Seed et al., 2008)。 実 験 の 結 果,8 個 体 の カ ラ ス が, ひ も引き協力課題で同種他個体と一緒にひもを 引っ張ることに成功した。ただし,一方のカ ラスがひものある部屋に遅れて入るように操 作をしても,もう一方のカラスは相手を待つ ことなくひもを引き,成功しなくなった。さ らに,ひもの両端の間隔を操作して,協力が 必要な場合と 1 個体でもできる場合との 2 種 類の選択肢がある状況でテストをしてみたと ころ,カラスは相手の協力が必要な場合とそ うでない場合を区別して理解していないこと が示唆された。こうしたことから,カラスも のチンパンジーでの実験で得られた知見を拡 張して,寛容性と協力との関係を調べたもの である。まず,食物が関係した状況で,チン パンジーとボノボの寛容性の違いを比較した。 その結果,ボノボの方が高い寛容性を示した。 つまり,ボノボの方が,チンパンジーに比べて, 互いに近い距離で一緒に食べ物を食べる割合 が高かった。そして,ひも引き協力課題にお いても,ボノボの方がチンパンジーより全体 的に成功率が高かった。こうした結果は,情 動反応性仮説(Emotional-reactivity hypothesis) を支持するものだと Hare et al.(2007)は結論 づけている。 情動反応性仮説は,類人猿から離れて,キ ツネの研究に端を発する仮説である。ロシア に,45 年にわたってヒトが繁殖を選択してき たキツネの群れがいる。ヒトを怖がらず,か つヒトに攻撃しないキツネが選ばれてきた。 このキツネの群れの個体と,ヒトによる選択 のなかったキツネの群れの個体とで,社会認 知に関連するいくつかの実験課題での成績を 比べた(Hare et al., 2005)。その結果,ヒトが 繁殖を選択してきた群れのキツネは,そうで ないキツネに比べて,全般的に高い成績を残 した。45 年のヒトによる選択の過程で,こう した課題によい成績を残すことが繁殖選択の 基準だったわけではない。このことから,社 会認知の課題でみられる洗練された知性は, それ自体に対する選択の結果ではなく,「ヒト を怖がらず,ヒトに攻撃的でない」という選 択の副産物として生じたものではないかと推 62 平田 聡 察される。Hare et al.(2005)はこのことを, 恐怖-攻撃を制御する体系に対する選択の副 産物として社会認知の進化が生じたのだとま とめている。これが情動反応性仮説と呼ばれ るものである。そして,イヌが高い社会認知 能力を持つのも同じ原因なのではないかと主 張する(Hare & Tomasello, 2005a) 。さらに,チ ンパンジーよりボノボの方が協力課題に長け ているのも同じ理由によるものではないかと いうのが,上述のように情動反応性仮説を支 持する論文の骨子である。この論文のディス カッションではさらに,ヒトが高い社会認知 能力,高い協力性をもつのも,情動反応性と 関連があるという趣旨の考察がなされている。 展望 「はじめに」の部分で述べた仮説,および前 節で述べた仮説は,ともに協力行動の進化を 考える上で重要であり,今後の研究の展開の ひとつの試金石になるであろう。チンパンジー は協力的場面より競合的場面において優れた 社会的能力を発揮するのか,そして,協力を 含む高い社会認知能力は恐怖-攻撃を制御す る体系に対する選択の副産物として現れたの か,ということである。乱暴にまとめるならば, チンパンジーは敵対的場面で自分が他者より 勝つことに長けており,ヒトはそうした敵対 的交渉の基盤である恐怖-攻撃の体系を抑え て寛容性を高めることで副次的に協力的側面 が促進された,という仮説だと捉えることが できるだろう。もちろん,これらの仮説で社 会的認知の進化のすべてが説明できるほど事 は単純ではないであろうし,この仮説の提唱 者自身も慎重な構えを残したままである(Hare & Tomasello, 2005b)。そのことは自覚した上で, こうしたシナリオに少し違った角度から考察 を加えることにしたい。 まずは情動反応性仮説についてである。ボ ノボの方がチンパンジーより寛容性が高く, 協力課題の成功度も高い。寛容性が協力にとっ て重要な鍵を握ることは,Hirata & Fuwa(2007) および Hirata et al.(in press)の 2 つの実験課 題の過程でもうかがえる。実は 2 つの課題場 面ともに,チンパンジーは自分のために行動 していると言ってよい。つまり,自分で食べ 物を得るために目の前のひもを引き,重い石 を動かそうとしている。そこに 2 個体がいる ことで,結果的に「協力」に見えている。こ れらの課題を解決するために,相手を見て待っ たり,相手を誘ったりしたことは,チンパン ジーの社会認知を考える上で重要な示唆を与 えるものであるが,なぜこういう行動が出現 したのかと問えば,その答えは「自分のため」 ということになるだろう。ここで,他者は単 に自分の目標を達成するための道具にすぎな い。そして,いずれの課題においても,最初 はうまくいかなかった。それは,2 個体が同じ 課題に向かう,ということが成立しなかった ためである。2 個体が一緒に行動するよりも むしろ,互いに避けあっていた(定量的分析 については Hirata et al., in press 参照)。そこで, 2 個体が同じ課題に向かう,ということを成り 立たせるために,1 個体でも解決可能な段階を 踏むことにした。相手がいるいないに関わら ず自分のためにやる,そしてそこに相手もい る,という状況を作ることによって,2 個体が 同じ課題に向かうように仕向けたわけである。 この場面に限った 2 個体の寛容性を高める人 為的操作をした,と言い換えることもできる だろう。こうした最初の段階では,相手の行 動が課題解決にとって必要であることは理解 していなくとも,見かけ上の「協力」が成り 立つ。 2 個体の寛容性が高い場合,この 2 個体が 同じ(もしくは近くの)場所で同じ課題に向 かう,ということが成立しやすい。そして, 課題の中で,両者とも自分のために行動して いたとしても,見かけ上の協力が成立する結 果となりうる。互いに他者を社会的な道具と して使って課題を解決するわけである。しか し,ヒトの協力行動の場合,他者は単なる社 チンパンジーの協力行動 会的道具ではない。ひとつの目標を他者と共 有し,そして他者のために行動する協力行動 が成立する。Tomasello et al.(2005)は,ヒト が他者と意図を共有するのに対して,チンパ ンジーはその能力を欠いていると指摘した。 Hirata & Fuwa(2007) お よ び Hirata et al.(in press)の実験において,相手に意図の明示的 表示をするような行動は見られなかったこと は,Tomasello et al.(2005)の議論との関連で も興味深い。 協力行動の進化を考える上では,ヒトに見 られる意図性の共有のような現象の出現まで 説明することが肝要である。この点,Moll & Tomasello(2007)が次のような 2 段階の進化 シナリオを提唱している。まず初期人類の第 1 段階において,攻撃的で非協力的な個体が 追放されるなり殺されるなりすることにより, 非攻撃的で寛容性の高い個体のみが生き残っ た。こうして,友好的な集団的活動が営まれ るに至った。この第 1 段階は,恐怖-攻撃の 体系を抑えて個体間の寛容性を高めることで 副次的に社会認知が促進されたとする情動反 応性仮説の説くプロセスと重なる。次の第 2 段階では,友好的な集団的活動が営まれる中 で,意図性を共有して協力する能力の高い個 体が選択的に生き残った。この 2 段階シナリ オについては,特に第 1 段階の説明に疑問が 残るというのが私見である。非攻撃的で寛容 性の高い個体が,攻撃的で非協力的な個体を 追放したり殺したりするというのでは,もは や「非攻撃的で寛容性の高い個体」ではない。 非攻撃的で寛容性の高い個体がどのようにし て多数派を占めるに至ったのか,説明する別 の原理が必要だろう。ただし,協力行動の進 化に関して議論の余地が多く残されているこ とは言わずもがなであろうことから,今後の 研究の展開に期待したい。 次に,協力的場面より競合的場面において 優れた社会的能力を発揮するようバイアスが かかっているという仮説についてである。確 かに,オトナのチンパンジーが自然の状態で 63 直面する状況は,競合的なことのほうが多い だろう。食物をめぐる競合があり,交尾相手 をめぐる競合がある。しかし,母子間では必 ずしもそうではないのではないか。チンパン ジーの母子が一緒に移動する場面において, 互いに協調して,コミュニケーションを取り ながら行動することを Hirata(2008)が記述し ている(平田 , 2002; Hirata, 2009 も参照)。チ ンパンジーはじめ大型類人猿は,子ども期が 長く,母子間の親密な関係が長く続く。母は 子どもを守り育てる必要があり,子は母に守っ てもらう必要がある。 例えば,飼育下のチンパンジーの子どもが 危険な遊びをしている際に,母親がそれを引 き止める行動をすることが観察されている (Hirata, 2009)。また,運動能力の未熟な子ど もが母親の移動に追従できない場合,母親が 子どもに手を差し伸べて補助することも観察 されている(Hirata, 2008)。子どもの運動能力 の発達を促したり,新たな行動の習得を助け たりするような足場作り行動(scaffolding)は, チンパンジーだけでなくゴリラなど他の霊長 類の母子間関係でも見られている(Nakamichi, 2004; Whiten, 1999)。守る母親-守られる子, という母子関係において,社会認知の協力的・ 利他的側面が重要な役割を果たす可能性が考 えられるだろう。これまで,チンパンジーを 含めた霊長類の母子間交渉をそうした視点か ら研究した例はほとんどなかった。上述の意 図の共有の問題も含めて,協力行動の進化を 考える上で,母子に見られる行動・認知の諸 特性を精査することが今後の研究の展開に とって重要な一翼を担うのではないかと考え る。 謝辞 原稿にコメントを頂いた山本真也氏および 2 名の本誌査読者の方に深く感謝する。本稿の 作成にあたり日本学術振興会科学研究費補助 金(20680015, 20220004)の助成を受けた。なお、 本稿は 2009 年度高島賞受賞記念講演の内容を 64 平田 聡 もとに執筆した。高島賞受賞に対してあらた めて厚く御礼申し上げたい。 引用文献 Boesch C, Boesch H 1989: Hunting behavior of wild chimpanzees in the Taï National Park. 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Two chimpanzees never succeeded in the task, but a pair of a chimpanzee and a human succeeded, and the chimpanzee began to solicit the human partner when he was not responding. In the other experiment, two individuals had to pull both ends of a string simultaneously to obtain food. The two chimpanzees did not succeed initially, but they gradually began to adjust their behavior to succeed in the task, by watching the partner and waiting for her. These studies indicate that the chimpanzees are able to comprehend some aspect of cooperation, but they never showed ostensive communicative behavior to achieve cooperation with the partner. Taken together other related studies, competitive social skill hypothesis and emotional reactivity hypothesis may have a key in understanding evolution of cooperation. However, these hypotheses seem to be insufficient in explaining the whole picture, and future research in needed especially by focusing on the nature of mother-infant relationships. Key words : cooperation, chimpanzee, social cognition, ostensive communicative behavior 平田聡 (株)林原生物化学研究所類人猿研究センター 〒 706-0316 岡山県玉野市沼 952 - 2 Satoshi HIRATA Great Ape Research Institute, Hayashibara Biomedical Laboratories, Inc. 952-2 Nu, Tamano, Okayama, 706-0316 Japan e-mail: hirata@gari.be.to
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