リアルタイムFT-IRによるUV硬化反応の追跡(PDF形式、339kバイト)

Signal-to-News
リアルタイム FT-IR による UV 硬化反応の追跡
IR/Raman
Customer
News Letter
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 IR/Raman 営業部
編集発行 : マーケティング部
M05010
はじめに
装置とサンプリングアクセサリ
Key Words
y FT-IR
紫外線(UV)硬化樹脂に代表される光硬化型の機能性樹脂
y リアルタイム測定
材料は、揮発性有害物質を使わない環境負荷低減材料とし
て注目されている。木質材料用塗料やハードコート、光ファ
イバーコーティングなどの用途で利用されるほか、とくに日本
においては、液晶パネルなどの封止剤や接着剤、フォトリソ
グラフィーといった電気・電子機器分野で多用され、近年の
デジタル家電の需要とともに市場が拡大している。FT-IRを
y 高速スキャン
y UV硬化反応
y 光ラジカル重合
用い、光硬化型樹脂の硬化度を非破壊かつ短時間で評価
する方法は、製品の製造工程の最適化を計る上で非常に有
用である。FT-IRでは静的状態での測定の他、UV光をモノ
マー・オリゴマーに照射しながら硬化度の変化をリアルタイム
で追跡することが可能となる。ここでは高速スキャン型FT-IR
による測定とサンプリング法、ならびに市販光硬化型材料の
硬化度の経時変化をモニターした例を報告する。
FT-IRによるリアルタイム測定
FT-IRを用いて高速かつ連続的にスペクトルを測定するリア
ルタイム法(またはKinetics法)は、UV硬化反応のような一過
性の過渡現象をモニタリングする手法として有用である。
図1に、高速スキャン型FT-IRによる干渉計移動鏡の駆動と
データコレクションの様子を示す。横軸は時間、縦軸は干渉
計の光路差ならびに測定スペクトルの特性吸収バンドの強
度変化を表わす。測定インターバルΔt は、干渉計走査の
繰り返し速度に依存するが、高速スキャン型FT-IRでは、数
十ミリ秒~数秒のインターバルで測定することが可能であ
る。検出器は、時間応答特性に優れた液体窒素冷却型
MCT の選択が必須となる。
図2
角度可変型反射アクセサリ
図2に、サーモフィッシャー社製 FT-IR に角度可変型反射
アクセサリを組み合わせた例を示す。UV硬化樹脂のサンプ
リングには、一般的にUV光を導入しやすい反射型のアクセ
サリを用いる。試料の前処理として、適切な大きさにカットし
た金属薄板上にモノマー・オリゴマーをスピンコートなどの方
法で塗布した後、反射型アクセサリに水平にセットする。塗
布する試料の厚みは、数μm程度に調整する。試料厚みの
確認として、UV硬化前の試料の静的なスペクトルを測定し、
観察するバンドのピーク強度が飽和しないように調整するこ
とが望ましい。
UV硬化反応では光照射量のほか、温度や雰囲気の調整も
必要となる。試料の粘度による硬化速度の違いや、酸素の
存在による光ラジカル反応への影響なども測定の際の重要
なパラメータとして考慮しなければならない。
UV照射装置との組み合わせ
図3に示すように、UV光は集光レンズを取り付けた光ファイ
バーを利用して、アクセサリをセットした試料室上部から導入
する。UV照射量は、ファイバーの先端に取り付けたレンズと
試料の距離で調整する。リアルタイム測定でFT-IRとUV照射
装置を同期制御する必要がある場合、例えばUV照射装置
のコントローラからシャッター開閉用トリガー信号を出力さ
せ、FT-IRの外部トリガー入力機能を利用して、UV照射と同
時に赤外スペクトル測定を開始させることで対応できる。
図1
FT-IRによるリアルタイム測定の概念図
a)
b)
M05010
サーモフィッシャー
サイエンティフィック株式会社
図3
スペクトロスコピー営業本部
IR/Raman 営業部
UV光導入用試料室カバーに光ファイバーを取り
付けた様子
横浜本社
045-453-9210
アクリレート系UV硬化型材料の
リアルタイム測定1)
アクリレート系光硬化材料に代表される光ラジカル重合型
樹脂の硬化反応初期過程では、モノマー・オリゴマーに不
飽和 C=C 結合が多く存存する。図4に示すように、UV光
の照射によって重合開始剤から発生するフリーラジカルに
より連鎖重合反応が引き起こされる。硬化反応過程におけ
る C=C 結合の減少は、1640-1620cm-1 のビニル基C=C伸
縮振動バンドや、1430-1400cm-1 のビニル基CH面内対象変
角(はさみ)振動バンド、820-800cm-1 のビニル基CHの面外
大阪支店
06-6863-1552
図5
市販アクリレート系UV硬化型材料のリアルタイム
FT-IR測定結果
E-mail
info-jp@thermo.com
来のバンド強度がゼロになる状態を100と仮定して硬化度を
計算した。図6に硬化度の経時変化を示す。この図よりUV
光を照射後、約6秒でほぼ硬化反応が完了(約80%)し、そ
の後、緩やかに反応が進行する様子が見てとれる。
変角振動バンドなどからモニターできる。不飽和結合の減
少量から硬化度の経時変化を推定することが可能となる。
図6
市販アクリレート系UV硬化型材料の硬化率の
経時変化(測定開始後、4秒後にUV光を照射)
まとめ
高速スキャンFT-IRを用い、市販のUV硬化型材料の硬化度
図4
光ラジカル型連鎖重合反応
図5に、市販のアクリレート系UV硬化材料の硬化過程を0.5
秒間隔でリアルタイム測定した結果を示す。 UV光源は中
心波長365nmで、光量を約40mW/cm2 に調整した。図5a)、b) は各々 810cm-1、1611cm-1 のピーク強度の経時変化
を示す。1640-1620cm-1 の領域では重合反応によって生成
する化学結合の赤外バンドや、雰囲気中の水蒸気が赤外
バンドとして重畳することがあるので、今回は比較的バック
グラウンドの変化の少ない 810cm-1 の吸収バンドを用いて
硬化度の変化を評価した。
810cm-1 のピーク強度の変化について反応前の初期状態を
硬化度0とし、モノマーがほぼ完全に消費されてモノマー由
をリアルタイムでモニターした。アクリレートのほか、エポキシ
に代表されるカチオン重合型樹脂やハイブリッド型樹脂材料
の硬化度のモニター 2) にも利用できる。FT-IRによる分子構
造レベルでの非破壊分析は、硬化技術の改良や実用技術
の高度化を進めていく上で有効な手段であると考えられる。
参考文献
1)
UV硬化における硬化不良・阻害要因とその対策 第3章 第2節
(2003), 最新UV硬化実用便覧(2004) 第6章, 技術情報協会.
2)
K.Matsukawa, Y.Matsuura, H.Inoue, K.Hanafusa and
N.Nishioka : J.Photopolym. Sci. Tech., 14, No.2, 181184(2001).
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