436 2015- 01 今月号の内容 年頭のご挨拶 一般財団法人日本貿易関係手続簡易化協会理事長 小 林 栄 三 …… 1 新年のご挨拶 財務省関税局長 宮 内 豊 …… 3 年 頭 所 感 経済産業省貿易経済協力局長 宗 像 直 子 …… 5 年頭のご挨拶 国土交通省総合政策局情報政策本部長 若 林 陽 介 …… 7 2015年 JASTPRO 行事予定 (国際関係)………………………………………………… 9 2015年 JASTPRO 行事予定 (国内関係)………………………………………………… 10 記事1.◇連載◇ 貿易の実務と理論 (5)…………………………………………………… 11 早稲田大学名誉教授 椿 弘次 記事2.国連CEFACTからのお知らせ ……………………………………………………… 17 記事3. 『ばいざういんどせいらー』 「星が降る瀬戸内の旅」〕…… 18 日本列島船の旅〔夜の瀬戸内快速(快足)便:澄んだ1月 =JASTPRO広報誌電子版のご案内= 裏表紙にJASTPRO広報誌電子版のご案内を掲載しておりますので、ご参照下さい。 謹 賀 新 年 平成 27 年元旦 旧年中は格別のご厚誼を賜り厚く御礼申し上げます。 皆様のご健勝とご多幸をお祈り致しますと共に 本年もご支援・ご協力を賜りますようお願い申し上げます。 『太平洋から昇る朝日を望む』 ∼ 青森県八戸から東方20kmの海上にて∼ J AS T P RO 年 頭 のご 挨 拶 一般財団法人 日本貿易関係手続簡易化協会 理事長 小 林 栄 三 平成 27 年の新春を迎え、謹んでお慶びを申し上げます。 2015 年(平成 27 年)の干支は『未(ひつじ)』、 「未」は未熟を意味しているとも言われておりますが、他面では これからの成長と無限の可能性を秘めております。2015 年におきましても、世界経済と日本経済がともに成長し、 無限の可能性を秘めた年になることを祈念しています。 さて、昨年の世界経済は、ユーロ圏は停滞感を強める一方、米国は堅調な景気拡大を続けており、新興国 では、BRICs 諸国が勢いを失う中、ASEAN 経済が比較的堅調に拡大している状況にあります。本年も、米 国経済は引き続き堅調な拡大が続き、ユーロ圏は緩慢な拡大に留まると予想されています。また、中国経済は 成長率の低下が見込まれており、その一方でASEAN 経済は、タイやインドネシアなどの政治的な不透明感がひ とまず払拭され成長ペースは拡大するものと考えられています。 我が国に目を転じますと、消費増税の先送りによって駆け込み需要も後ずれする分、これまで想定していたより も家計部門の需要の回復力は弱いものとなりますが、基本的には輸出や設備投資の増勢が続き、個人消費も持 ち直しに向かうことから、景気は緩やかな回復基調になると見込まれております。 一方、経済のグローバル化は着実に進んでおり、地域経済圏の創設に向けた動きが活発化しています。 日本政府は経済連携協定(EPA)に関し、昨年 7月オーストラリア政府との間で署名し、同年 7月にはモンゴ ル政府との間で大筋合意に達しています。2013 年 6月に閣議決定した「日本成長戦略」において政府は、貿易 にかかるFTA 比率を、19%から2018 年には70%に引き上げることを目標としており、今後さらにEPAの締結を 拡大させることとしています。この戦略のもとに、日本政府は環太平洋パートナーシップ(TPP)協定、日中韓 FTA、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など、貿易手続の簡略化など幅広い分野を対象としたレベルの 高い自由化を目指す包括的な協定に取り組んでおり、アジア太平洋地域の新たな経済統合の枠組みとして発展 することが期待されています。 他方、世界貿易機関(WTO)は、昨年 11月、臨時の一般理事会において、多角的通商交渉(ドーハ・ラウ ンド)の交渉分野の一つである貿易円滑化協定を採択しました。この貿易円滑化措置は通関手続の簡素化など で事実上の貿易障壁を解消するもので、ドーハラウンドでの初の具体的な成果となりました。 これらの地域経済圏の創設やWTO 貿易円滑化措置においてより大きなメリットを享受するためにも、国際貿易 取引等に係る各種手続の簡素化、電子化の推進がますます肝要となっており、本年(2015 年)の稼働を目標と した “ASEANシングルウィンドウ”の構築計画など、国境を越えた電子データ交換のためのインフラ整備が進んで います。 ̶1̶ J AS T P RO 他方、国際貿易の安全確保と円滑化の両立も大きな課題であります。我が国においては、AEO(Authorized Economic Operator)制度に係る各国との相互承認が進められており、昨年 3月には「出港前報告制度」が施 行され、詳細な積荷情報を電子的に税関に報告することが義務付けられました。加えて、日豪 EPAにおける原 産地手続きについては、EPA 税率の適用を受けるためこれまでの第三者証明とともに輸入者自らが作成する自 己申告制度が導入されることとなりました。さらには、AEO 輸出入申告について特例的に非蔵置官署への申告 を認める、輸出入申告官署の自由化を認める検討が行われております。 このように、経済のボーダーレス化の進展に伴う国際貿易の安全性と円滑化のためにも、昨今のIT 技術の利 活用の推進と国際標準の導入は喫緊の課題であり、当協会が参画する国連欧州経済委員会(UNECE)に設 置された国連 CEFACT(貿易円滑化と電子ビジネスのための国連センター)における国際標準化活動は、その 重要性を増しています。 当協会は、一般財団法人としてこれまでの事業活動を踏まえたうえで、引き続き貿易関係団体や業界団体、 企業からのご支援を賜りつつ、これらの課題を解決すべく、より幅広い分野において活動していく所存であります。 最後になりましたが、平素より当協会の活動に対しご支援をいただいております会員各位に改めて御礼を申し 上げますとともに、本年も引き続きご理解とご協力を賜れれば幸甚です。 皆様の益々のご発展とご健康を祈念し、新年の挨拶とさせて頂きます。 ̶2̶ J AS T P RO 新 年 のご 挨 拶 財 務 省 関 税 局 長 宮 内 豊 平成 27 年の年頭にあたり、謹んで新年のお祝いを申し上げます。 一般財団法人日本貿易関係手続簡易化協会の皆様方には、旧年中は関税政策・税関行政に多大なるご 理解とご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。本年が皆様にとりましてより良い一年となりますよう、心からお祈り いたします。 新年のご挨拶にあたり、財務省関税局・税関の主な取組みについて申し上げます。 関税政策・税関行政を運営していくに当たっては、国民の「信なくば立たず」と考えております。国民の声に 耳を傾けて政策ニーズを的確に把握するとともに、関税政策・税関行政に対する理解を得られるよう国民に丁 寧な説明を行うことが重要であると考えております。 また、貿易の円滑化に取り組んでいる税関においては、時代の変化を先取りした行政の取組みを進めなけれ ばなりません。経済のグローバル化、ネットワーク化が急速に進み、世の中の変化のペースが加速している現代 においては、 「変化には変化で対応する。」ことも重要であると考えております。 税関は、重要な使命の一つである「安全・安心な社会の実現」のため、24 時間 365日、全国の港や空港な どの水際におきまして、不正薬物・銃砲をはじめとする社会悪物品や知的財産侵害物品等の取締りを行ってい るところです。 特に、最近では危険ドラッグが大きな社会問題となっており、政府一丸となった対策が行われているところで す。今般の医薬品医療機器等法の改正を受け、 「指定薬物である疑いがある物品」に加え、 「指定薬物と同 等以上に精神毒性を有する蓋然性が高い物である疑いがある物品」についても、厚生労働省により、輸入・ 販売等停止命令が出されることになりますので、税関においても適切に対応してまいります。さらに、関税局とし ても、危険ドラッグの問題に迅速に対応すべく、指定薬物を関税法上の「輸入してはならない貨物」に追加す る方向で検討を進めています。 これら社会悪物品等の取締りにつきましては、密輸仕出地の目まぐるしい変化、密輸の手口の多様化、巧妙 化など、年々変化する状況に対応する必要があります。 引き続き、厳正な取締りを行うことで、国民の高い期待に応えるため、しっかりと取り組んでまいりたいと考えて おります。 加えて、貿易円滑化への取組みも、税関の重要な使命であります。増大する貿易量に対応すべく、平成 29 年度の次期NACCS稼働時までに通関関係書類の電子化・ペーパーレス化の推進等に取り組んでいるとこ ろです。 ̶3̶ J AS T P RO また、更に利用者の利便性を高めるべく、輸出入申告官署の自由化につき、平成 29 年度までの実施に向け、 具体的な制度設計等にかかる検討を進めているところです。 一層の物流効率化や利用者の利便向上に向けて、関税局・税関一体となって対応してまいりたいと考えて おります。引き続き、貴協会の皆様のご協力をいただければと考えております。 国際的な動きとしては、自己申告制度といった新たな原産地手続が盛り込まれた日豪EPAが本年 1月15日に 発効します。そのほか、現在、TPP交渉が、いよいよ大詰めに入っており、関係国と協力し、引き続き、交渉 の早期妥結に向け全力を尽くしております。また、日EU EPAやRCEPといった広域をカバーするEPAの交渉に ついても取り組んでおります。関税局・税関としましても、貿易円滑化や原産地規則等をはじめとして、EPA交 渉に積極的に関与しているところです。 また、ASEAN各国を中心とした諸外国への税関分野の技術協力を実施しているところです。さらに、 NACCSをベースとした通関システムの導入支援については、ベトナムにおいて昨年 6月に全土への導入を完了 しました。ミャンマーでは本年中のシステム構築完了、来年中の運用開始に向けて、作業を進めております。引 き続き、諸外国の税関行政の近代化を通じた貿易円滑化を積極的に推進し、日本企業の海外展開・取引拡 大を側面支援していきたいと考えております。 以上、関税局・税関における課題を紹介いたしましたが、本年におきましても、関税政策・税関行政の運営 にあたり、貴協会の皆様方から、引き続きご支援、ご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。 最後に、貴協会の益々のご発展を祈念いたしまして、新年のご挨拶とさせていただきます。 ̶4̶ J AS T P RO 年 頭 所 感 経済産業省 貿易経済協力局長 宗 像 直 子 平成 27 年の年頭に当たり、謹んで新年のごあいさつを申し上げます。 昨年は、アベノミクス「三本の矢」により始まりつつある経済の好循環を一過性のものに終わらせることなく、 持続的な成長軌道につなげるべく、6月に日本再興戦略が改訂されました。本年も、日本再興戦略で示された 目標の達成に向けて、日本企業が持つ技術力などの強みを活かし、積極的に世界市場に展開を図っていくとと もに、対内直接投資の拡大等を通じて、世界のヒト、モノ、カネを日本国内に惹きつけることにより、世界の経 済成長を取り込むべく、貿易経済協力局が一丸となって取り組んでまいります。 急速に需要が拡大するアジア等の新興国に向けたインフラシステム輸出は、日本再興戦略の重要な柱の一 つです。2020 年に約 30 兆円のインフラシステム受注を達成するという目標達成に向け、昨年 6月には「インフラ システム輸出戦略」 を改訂し、一層の案件形成に取り組むことといたしました。今後も、総理・閣僚によるトップセー ルスに加え、これまでに制度改善を実施した円借款や貿易保険などの公的ファイナンスの有効活用、技術協力 等を通じ、インフラシステム輸出の推進に取り組んでまいります。 具体的な取組として、昨年には、戦争、テロリスクへの対応や、海外子会社等による事業活動支援及び資 金調達の円滑化等を促進すべく、貿易保険法の改正を行いました。さらに、昨年 11月に開催されたASEAN、 APEC、G20 等の一連の首脳会議において、総理よりアジアにおけるインフラ整備支援強化に関する我が国の イニシアティブを打ち出し、PPPインフラ整備促進に向けた円借款による包括的支援を表明しました。 本年は、NEXIについて、国の政策意図の反映など国との一体性を高めつつ、経営の自由度、効率性、 機動性を向上させるため、全額政府出資の特殊会社への移行等の貿易保険法の改正を目指します。 また、日本企業の海外展開を支援するため、HIDA(一般財団法人海外産業人材育成協会)の元研修生 等の親日人材を組織化し、日本企業のビジネスパートナーとして、共に新事業を開拓・創造する体制の整備を 推進してまいります。新興国のBOP 層(Base of the Economic Pyramid) を対象とした民間企業の海外展開 もしっかりと後押ししていきます。 拡大する海外市場の獲得のためには、日系企業の進出先国における事業環境の改善も重要です。新興国 等に進出した日系企業が不当な課税を受ける事例が数多く報告されているところ、租税条約の新規締結や改 正、現地政府への働きかけ等により、その改善を進めてまいります。同時に、国際的な課税ルールの見直しの 動きの中、その日本企業への影響を踏まえた国内制度の在り方等について検討を進めてまいります。 一方、外国企業の経営ノウハウや技術、人材などの経営資源を国内に取り込み、我が国の生産性向上や 雇用創出を実現することも極めて重要です。日本再興戦略において位置づけられた、2020 年における対内直 接投資残高を35 兆円へ倍増させるという意欲的な目標の下、政府としては、昨年4月に設置された「対日直接 投資推進会議」を司令塔として、投資環境の改善に資する規制・制度改革を推進してまいります。また、外国 企業からの要望が大きいコーポレートガバナンスの強化を図るとともに、法人実効税率を数年以内に20%台まで ̶5̶ J AS T P RO 引下げるなど、国際的な立地競争力を強化してまいります。 更に、外国企業誘致体制の強化を図るべく、総理・閣僚によるトップセールスを先進的な地方自治体と連携 して実施してまいります。昨年 5月にはロンドン、9月にはニューヨークで対日投資セミナーを開催し、自治体首長 とともに、総理自らが日本への投資を呼びかけております。また、昨年より、外国企業に対する能動的な誘致活 動を強化するため、主要国におけるジェトロの海外事務所において約 60 名の産業スペシャリストを配置しました。 今後は、自治体とも連携しながら、既に日本に進出している外国企業に対する支援も含め、外国企業誘致に 関する国内の体制も強化してまいります。 続きまして、貿易管理の面について申し述べたいと思います。 中国による領海侵入や防空識別圏の設定など周辺海空域における活動活発化、北朝鮮による「人工衛星」 と称するミサイル発射や核実験などの挑発行為、さらには、非国家主体による国際的なテロ懸念など、安全保 障上の脅威が拡大しています。日本としては、工作機械、炭素繊維などの汎用技術が海外で兵器に利用され ないよう、国際輸出管理レジームの合意等に即して、外国為替及び外国貿易法に基づき、一層厳格な輸出管 理を実施してまいります。 昨年 4月には、防衛装備移転三原則が閣議決定されました。この新たな原則は、防衛装備の海外移転に 係る具体的な基準や手続、歯止めを今まで以上に明確化し、内外に透明性をもった形で明らかにしたものです。 輸出管理当局として、新原則に基づき、国際協調主義に基づく積極的平和主義の観点から、様々な政策ニー ズに機動的に対応できるよう努めてまいります。 貿易管理を厳格に実施する一方、貿易手続の円滑化も重要です。昨年 4月、化学物質(麻薬等原材料) の輸出承認において包括制度を導入するなど、申請手続の簡素化を行いました。また、電子申請については、 事業者のご要望などを踏まえながら、定期的にシステムを改修し、申請手続の負担軽減を図っています。引き 続き電子申請の利便性を高め、利用促進に努めてまいります。 貿易管理には、公正な貿易の推進という課題もあります。昨年 12月、中国産の化学品に対して、不当廉売 関税の暫定発動を行いました。本年も、国際ルールに則った貿易が行われるよう、産業界からの求めに対して 適切に調査を行い、公正な貿易の確保に努めてまいります。 また、EPAに基づく原産地証明制度においては、日豪EPA(本年 1月発効予定)で、日本商工会議所が原 産地証明書を発給する従来の第三者証明制度に加え、輸出者等が自ら申告を行う自己申告制度が導入されま した。こうした新たな制度への対応はじめ、引き続き利用者の利便性の向上に取り組んでまいります。 本年も、日本経済の再生を確実なものにするため、経済協力等を活用しつつ、貿易投資について双方向か ら推進するとともに、貿易管理の適切な実施を図ってまいりたいと思います。 貿易経済協力政策に対する皆様のご理解とご支援を賜りますよう、心からお願い申し上げて、新年のご挨拶 といたします。 ̶6̶ J AS T P RO 年 頭 のご 挨 拶 国土交通省総合政策局 情報政策本部長 若 林 陽 介 平成 27 年を迎え、年頭のご挨拶を申し上げます。 一般財団法人日本貿易関係手続簡易化協会並びに関係の皆様におかれましては、日頃より貿易関係手続 に関するEDI (電子データ交換)の促進や貿易手続の簡素化に係る活動を通じて国土交通行政に対して多大 なご支援とご協力を賜り、心より感謝申し上げます。 現在、我が国における情報通信技術は、近年のスマートフォン等の急速な普及により、国民にとって一層身 近なものとなっており、今や人々の日常生活、社会経済活動、行政活動等のあらゆる活動に必要不可欠なもの となっております。 そのような情報通信技術の活用は、少子高齢化や大規模自然災害等、我が国が抱える多くの社会的課題 を解決するとともに、革新的なイノベーションを実現し、経済成長をもたらす鍵として、ますます重要となっており ます。 このため、国土交通省においても、昨年 6月に改定が行われました「日本再興戦略」や「世界最先端IT国 家創造宣言」を踏まえて、①情報技術を活用した防災・減災対策や災害時における情報収集の高度化、社 会インフラの老朽化対策へのロボット技術の活用やセンシング技術を活用した戦略的維持管理等による安全で 災害に強い社会の実現、③高度道路交通システム技術の高度化やドライバーの安全運転を支援する先進安 全自動車等の開発・普及促進等による安全で円滑な道路交通社会の実現、④誰もがいつでもどこでも必要な 地理空間情報を活用できるG空間社会の実現、⑤ビッグデータを活用した利便性の高い公共交通サービスの 創出等による革新的な新産業・新サービスの創出と産業の成長促進など、国民生活の安全・安心の確保や 産業・経済の活性化に資する様々な情報化施策を引き続き推進してまいります。 一方、貴協会に関係が深い物流分野においては、昨年 8月に「第 5 回日中韓物流大臣会合」を開催し、 シャーシ相互通行の対象航路の拡大等やNEAL−NET(北東アジア物流情報サービスネットワーク)の対象港 湾の拡大、標準化された物流機材の普及促進等、これまでの取組みの更なる普及・拡大のほか、新たに海 上輸送の安全確保に関する協力、大気汚染物質の削減に向けた協力等に関して合意しました。また、同年 12月には、 「日ベトナム物流政策対話」を開催し、両国の物流事情、施策の現況及び課題についての情報交 換等を行いました。今後とも、総合物流大綱(2013‒2017)を踏まえ、我が国物流システムの海外展開の環境 準備や物流サービスネットワークのアジア地域等への展開等、強い経済の再生と成長を支える物流システムの 構築に向けた各種施策に引き続き取り組んでまいります。 ̶7̶ J AS T P RO 貴協会が国連CEFACTに登録された我が国唯一の窓口組織として、また、AFACT会合の中心メンバーと して、国内外の関係者等と密接に連携しながら取り組まれている貿易関係手続の効率化に係る各種活動は、 我が国をはじめアジア諸国における物流の効率化に貢献する大変重要な活動であり、経済のグローバル化、ネッ トワーク化が急速に進む中、その重要性は一層増しておりますので、本分野においては、引き続き、貴協会が 中心となり、効率的な物流の実現に向けた各種活動に取り組まれることを期待しております。 最後に、貴協会並びに関係者の皆様の益々のご発展とご健勝を祈念いたしまして新年のご挨拶とさせてい ただきます。 ̶8̶ J AS T P RO 2015年 JASTPRO 行事予定 (国際関係) ○ 2月16日(月) ∼ 17日(火) 第 21 回国連 CEFACT 総会 ジュネーブ(スイス) ○ 4月20日(月) ∼ 24日(金) 第 25 回国連 CEFACTフォーラム ジュネーブ(スイス) ○ 5月∼ 6月 第 33 回 AFACT 中間会議 開催国:イラン 開催地未定 ○ 9月∼ 11月 第 7 回 APTFF 開催国未定 ○ 9月∼ 11月頃 第 26 回国連 CEFACTフォーラム 開催地未定:候補地マルセイユ(フランス) ○ 11月頃 第 33 回 AFACT 総会 開催国:イラン 開催場所未定:候補地テヘラン(イラン) < 国連 CEFACT:United Nations Centre for Trade Facilitation and Electronic Business> (貿易円滑化および電子ビジネスのための国連センター) 国連の下部組織であり、各国間のビジネス、貿易、管理組織の能力向上を支援している。その使命は、 手順、手続、情報の流れについて簡素化を進め、調和を図ることによって、国内・国際業務の簡素化 を図り、世界の貿易の発展に寄与することにある。 <AFACT:Asia Pacific Council for Trade Facilitation and Electronic Business> (貿易円滑化および電子ビジネスに関するアジア太平洋協議会) アジア太平洋地域での国連 CEFACT 関係共通課題についての意見交換と域内での普及促進を目的と している。 <APTFF:Asia Pacific Council for Trade Facilitation Forum> (アジア−太平洋貿易円滑化フォーラム) アジア太平洋地域の貿易手続簡易化と電子化を促進するため、国連 ESCAPとアジア開発銀行の協賛 により開催されるフォーラム。各国の貿易手続簡易化を進めるため、各国間の情報交換を行うとともに、 協力して貿易手続簡易化戦略を検討している。 ̶9̶ J AS T P RO 2015年 JASTPRO 行事予定 (国内関係) ○ 2月5日(木) JASTPROセミナー 副 題: 「アジアとの貿易円滑化に向けた取組み」 開催日時:2015 年 2月5日(木) 13:30 開始 会 場:鉄鋼会館 8 階 801 会議室 ○ 3月(予定) 評議員会・理事会 :2015 年度事業計画・収支予算等 ○ 6月(予定) 評議員会・理事会 :2014 年度事業報告・決算報告等 ̶ 10 ̶ J AS T P RO ◇連載◇ 記事1. 貿易の実務と理論 (5) 早稲田大学名誉教授 椿 弘次 これまでの4 回の拙稿で、主としてIncoterms® 2010を参考にしながら、特に、コンテナによる国際複合一 貫運送を前提にした売買条件に付き、アメリカの海事判例などを参考に、国際物流の実情を理論的にどのよう に解釈すべきかを見てきた。Hague-Visby Rulesに基づくUniform Liability System(単一責任原則)が、 特に対米取引において、実務上の標準的な運送責任原則になっていることを見た。それに大きく貢献したのは、 いわゆるHimalaya Clauseとして知られる履行補助者への国際統一条約であるHague-Visby Rulesを国内 法化した国際海上物品運送法(COGSA)の援用を定めた約款であり、国際複合運送と言っても海上区間が 大宗を占める国際貿易の現実であったことを理解した。 今号では、年末年始の忙しさの中で、やや評論風に課題や考え方を簡潔に示して、諸賢の参考に供し、 かつ、実務家(practitioners)の皆さんからの助言、示唆を得たいと思う。主なトピックは、Incotermsに見ら れる代表的な取引条件の定義、解釈の変化とそれを促した環境要因、Incotermsの取引実務における地位、 そして現場で実務を担当する”a reasonable commercial(or business)personという概念である。 1. FOB 条件とCI F条件 この2 条件が、貿易取引の主要な売買条件であることは、国際商取引に関する諸文献においてやや詳し く説明され、また、貿易取引に携わる実務家が、取引の基本的な考え方を学ぶための典型例として説明を 受けることなどから、周知のところである。 (1)FOB 条件 造船および遠洋航海技術の発達により19 世紀に定期海運が普及した。その結果、着船条件(arrival terms)のEx Ship 条件、商事代理人(merchant factor)を介した委託販売取引(on consignment) から、出荷地で売買を仕切る隔地者間でのFOB 条件が普及してきたことが、詳細に説明されている1。 一挙にそういう変革が起きたのではなく、主要な商港に貿易商(trading houses)のネットワークが張りめぐ らされ、貿易取引に対するその支援の役割が大きかったことは、FOB条件が、出荷地での契約品の引き 取りと代金決済を基本にしていたところからよく理解できる。すなわち、現物の引渡に対し、売買代金が支 払われるために、買主のために代金を支払う貿易金融業者(merchant bankersあるいはmerchant factor)が活躍した。他方、FOB 条件では、海上運送人は契約品の引き取りのための買主の代理人と みなされ、本船積み込みをもって契約品の引渡完了とされている。 FOB 条件では、買主が運送本船を選び、指定の船積港からの契約品の運送契約を手配する義務を 負担している。歴史的には、物資の買主国が船主国として、発達した海運会社を擁していたので、輸入 貿易商が傭船契約の手配をしやすい状況にあったことが、そのような義務の背景にある事情だと思われる。 輸入国の側(とりわけ、イギリス)に、商品市場と傭船市場(The Baltic Shipping Exchange)の発達が 1 朝岡良平『貿易売買と商慣習』 (第 3 版) 、東京布井出版、1981 がこの点に詳しいので参照されたい。 ̶ 11 ̶ J AS T P RO 見られたことが、CIF 条件に先立ってFOB 条件が貿易取引慣習として成立したと考えることができよう。 しかしながら、20 世紀に入って、国際定期海運が安定的に発展し、製品の小口貨物の混載運送が盛 んになると、輸入者が本船手配を行うことが、商業上必ずしも合理的でない事情が生まれてきた。輸入者 から見て、定期配船される船舶が増え(換言すれば、特定の航路に月間の配船数が増えると同時に、海 運同盟が運送条件の統一を図った) 、売買契約の船積条件に適した船腹の手配を、契約品の出荷準備 との兼ね合いから、輸出者に委ねる方が好都合になってきた。これが、特別の業務手配付きFOB 条件 (FOB vessel with an additional service)につながっていった。前後して、CFR(C&F)条件の慣習 の生成を見たといえよう。 貿易専門商が活躍する工業国で、製造業者が直接に海外の輸入者と取引する以前においては、この 貿易商が、海外向け輸出契約の交渉と並行して、製造業者から輸出品を調達する仕入契約をFOB 条件 (イギリス輸出協会の定義する「固有のFOB 条件」あるいは「国内仕入 FOB 条件」と呼ばれる)2 で取り 決め、輸出者としては積極的に輸入国向け外航船の手配を行ってCIF, CFR 条件で輸出することが見ら れた(これは、工業国の海運会社にとっては、歓迎すべき現象だったと思われる。すなわち、輸入が FOB 条件であると、自国の輸入者と商談ができ、輸出が CIF, CFR 条件であれば、輸出者に働きかけて 自社船の使用を薦められるから、輸出入船積みビジネスが一貫して国内で行えるからである)。 このように、傭船契約が国際海上運送の主流の時代に形成されたFOB 条件は、国際定期海運の発 達を迎えて多様化し、貿易取引に限っても、固有のFOB 条件、IncotermsのFOB 条件、追加業務付 きFOB 条件などが見られるようになった。固有のFOB 条件を含む、大陸国のFOB 条件を代表するもの が、1941 年改正アメリカ貿易定義の6 種のFOB 条件と言えよう (ただし、仕向地国渡し系のアメリカ型 FOBは、陸接国向け ― すなわち、カナダ、メキシコ ― であって、遠洋航海を想定したFOB 条件として は特殊で、むしろEx Ship 条件がより妥当であろう)3。 したがって、Incoterms® 2010において、FOB 条件が port-to-portの運送を前提とした取引条件のグ ループに入れられたのは、一種の「先祖帰り」のように思われる(ただし、コンテナ化されていない運送品 のFOB 条件は、伝統的な海運(内水運を含む)FOB 条件として残る)。 Incoterms® 2010のFAS, FOB, CFR, CIFの4 条件は、 「洋上転売」を想定して、定義されている。 すなわち、輸出者が自ら契約品を手配し、本船に積込むか、船側(埠頭上)で契約品を引き渡すか、もし くはそのように出荷された運送品とその書類を入手して輸入者に提供することによって、売買契約上引渡 義務を履行できると売主の義務第 4 項に規定されている。 (2)FOB 条件と運送契約、運送書類 Incoterms® 2010における「洋上転売」を想定しても、あるいは代金決済が荷為替決済条件で取り決め られても、課題は傭船契約と傭船契約の下で使用される運送書類の種類・様式をどのように取り決めるか である。 荷為替決済条件であれ、洋上転売用運送品であれ、売買契約により船荷証券が提供書類と定められ 2 Benjamin’ s Sale of Goods , 7th ed.(by A.G. Guest), Sweet & Maxwell, 2006, para.20-001 以下参照。 3 前注 1,2に掲げる参考文献の他に、Michael Bridge, The International Sale of Goods , 2nd ed. Oxford Univ. Press, 2007, para.3-13-3.19 参照。 ̶ 12 ̶ J AS T P RO ると、当然、指図式(order B/L) 、船積み(shipped)式で、かつ無故障(clean)の船荷証券でなけれ ばならない。さらに、運送契約の履行の証拠として、重量・容積、船積み日、積み地、仕向地などの記 載事項は、売買契約の条件を充足していなければならない。荷為替決済条件の時は、運賃前払い済 (freight prepaid)の記載を求められるかもしれない。また、売買契約上、買主による運賃着払い(freight collect)であると主張しても、船荷証券が発行される条件として、運賃の支払い保証が運送人から荷送人 (売主)に稀に求められることがある。至上約款(paramount clause)により、運送は国際海上物品運送 法(Hague Rules 立法)に準拠し、船荷証券は運送人と証券所持人の間の契約内容を示し、両者の関 係を規律するものとされる。すなわち、傭船契約に優先する流通性の証券であることが荷為替取組銀行に より求められる(もっとも、現行の信用状統一規則(UCP 600)では、信用状条件の充足を重視し、例え 傭船契約書の提示が要求されていても、傭船契約書を点検しないと定め、この点に言及していない。 UCP600 第 22 条参照)。 国内仕入れ調達のFOB 条件(いわゆる「固有のFOB 条件」)は別にして、貿易取引のFOB(FAS 条 件も含め)条件では、特に反対の慣習や取り決めがなければ、買主が傭船契約を手配する義務を負って いる(Incoterms® 2010は、買主が個品運送を手配することを禁じていないが、買主の義務規定(買主の 義務第 3 項)から考えると、在来定期船積の運送契約の手配は限定的であろう)。荷為替決済や洋上転 売の都合から、傭船契約の下で船荷証券の発行が求められるとき、船荷証券の当事者の記載をどうする かが、慎重に検討されるべきである。この場合、もっとも普通に行われると思われる船荷証券の当事者の 記載は、以下の(イ) または(ロ)のとおりであろう。 (イ)売主=荷送人(shipper) 、買主=着荷通知先(notify party) 、荷受人=to order of shipper または信用状発行銀行 (ロ)売主=荷送人(shipper)、買主=着荷通知先、荷受人=荷為替の取り組み銀行の指図人 (to order of the negotiating bank) (ハ)売主=荷送人、荷受人=買主の指図人 (イ)の場合には、運送人は運送品提供者である売主を荷送人とみなし、敢えて傭船者である買主を荷 送人としない。 (ロ)の場合には、傭船契約の当事者ではない売主は、傭船者である買主に代って船荷証 券の発行を請求する権利を授権されている旨を特に船長に伝えるとともに、自己を荷送人として発行された 船荷証券を留保して、売買代金確保のために信用状なしの荷為替を組むのである。 (イ)及び(ロ)のいず れの場合でも、傭船者である買主の手に船荷証券が渡るまでは、傭船契約による旨(as per Charterparty dated ―)の記載がなければ、運送人対荷送人である売主または荷為替の取り組み銀行間の関係は船 荷証券により規律される。 (ハ)の場合が、洋上転売に都合が良い船荷証券の発行方式であろう。そして、 傭船者である荷受人が指図裏書により第三者に船荷証券を譲渡すると、船荷証券の内容が運送契約の 内容(terms and conditions)になる。ただし、売買当事者間では、別途、送金などの確実な代金支払 い方法を定める必要があろう。 売買契約履行の証拠としてのみ船荷証券を必要とするときは、 (ハ)のように荷受人を買主の指図人にす る必要はなく、買主を荷受人とする記名式(straight B/L)でも良いことになる。また、売主から買主に船 荷証券が移転(transfer)されると、船荷証券ではなく、傭船契約の条件が運送契約の内容(terms and conditions) となる。ただし、記名式であっても船荷証券に変わりはないから、運送品は船荷証券の ̶ 13 ̶ J AS T P RO 受戻と交換に引き渡されるのが原則である。敢えて船荷証券に拘らず、海上運送状(sea waybill)の発 行で済ましても良い。この場合には、運送状の受戻は要求されない 4。 因みに、傭船契約(あるいは国際海上物品運送契約)の当事者でない売主が、傭船者である買主を 荷受人とする船荷証券を入手して、売買代金が支払われていることを前提に、それを買主に手渡すか直 送することは「固有のFOB 条件」では普通かもしれないが、貿易取引のFOB 条件では稀だろう。しかし ながら、積み込み作業中の事故に備え、責任制限を主張したければ、運送人としては運送品の受け取り に対し売主を荷送人とする船荷証券を発行する慣行があることを売主に通知しておくだろう。 (3) CI F条件と運送書類 CIF 条件が、FOB 条件よりも後発で、定期海運の発達と船荷証券制度の国際的な確立を待っていた ことは、異論のないところである5。 そして、CIF条 件が貿易条 件としてもっとも洗 練された書 類の提 供による履 行を条 件とする売買 (documentary sales)の典型である。本稿では、この条件において提供されるべき運送書類の内、中核 をなす船荷証券に焦点を当てて、国際定期貨物海運の変化の影響について説明しておきたい。 この条件に関するイギリスの指導的判例であり、Incotermsの公表(1936 年)以前のものであるBiddel Brothers v. E. Clemens Horst Co. 事件([1911] 1K.B.214)において、売主が提供すべき書類として、 インボイス、海上保険証券と並んで、船荷証券が挙げられている。その後の判例などで、CIF 条件にお ける提供すべき船荷証券の要件は、以下のように明らかにされている6。すなわち、 (a)定期運送(liner service)において発行されるものであること。したがって、定期運送に通常の条件 に基づくものであること。船荷証券が、運送品引渡請求権と運送品の滅失・損傷に対する損害賠 償請求権を代表しているので、船荷証券の内容(terms and conditions)の国際的統一性が重視 されるからである。 (b)売買契約の納期に合致した船積船荷証券であること (shipped B/L)。 (c)運賃前払い済の記載(freight prepaid)もしくは約定通り売主により支払われる(freight to be paid as arranged) との記載があるもの。 (d)売買契約上の運送区間を切れ目なくカバーし、通常の直航経路(usual and direct route)をとるこ とを示しているものであること。したがって、積み替え禁止条件であること。 (e)売買契約品のみを運送品として記載し、外観上良好な状態にあることをしめしている(clean)こと。 (f)複数発行の場合は、原本全通数をセットにして提供すること。 (g)持参人式(bearer form) または指図人式(order form)で発行され、裏書譲渡可能な流通性のも のであること。 (h)船積み時に発行され、その日より3 週間以上を経過していないものであること (この期間を経過したも のは、Stale B/Lとして不適格な提供書類とされる)。 4 Stephen Girvin, Carriage of Goods by Sea , 2nd ed., Oxford Univ. Press, 2011, para.7.10 参照。 5 CIF 条件のイギリスにおける指導的判例である、Ireland v. Livingston(1872) L.R. 5H.L.395を、Sa s soon C. I.F.and F.O.B. Contract , 5th ed. by Filippo Lorenzon, Sweet & Maxwell, 2012, at p.45などで参照。 6 Benjamin, 前掲書、para.19-025ないし041 参照。 ̶ 14 ̶ J AS T P RO Incoterms 上は、少なくとも、1990 年版まではこの基本的性質の具備が、CIF 条件における提供すべ き船荷証券の要件であった。FOB 条件のところで触れたように、信用状付き荷為替決済の場合はもちろん、 傭船契約に基づく船荷証券であってもCIF条件の売買である限り、これらの要件、とりわけ(a)を満たす べきものとされる。それが、洋上転売に適した要件でもある。 しかしながら、国際コンテナによる複合一貫運送が定期貨物海運で一般化し、他方で、企業が多国 籍化して荷為替決済を必要としなくなってきたこともあり、1990 年版のIncoterms では、CIF, CFR 条件に おいては提供すべき引渡の証拠書類は、上記のような要件を満たした海上船荷証券(ocean B/L)に限 定せず、通常の運送書類(the usual transport document)で適格であるとされ、これに通常の流通性 のある海上船荷証券、非流通性の運送状(海上運送状=sea waybill, 非流通性の記名式 B/L=nonnegotiable straight B/Lなど) 、内水航行用の運送書類、 (EDI 対応の)data freight receiptsなども含 まれることが定められた。これは、画期的な変化であると思われた。このため、CIF 条件の書類売買性 (documentary sales)は失われたのかと議論を呼んだ。他方、新たに加えられた引渡しの証拠となる CIF 条件の提供書類に関して、その当時、国際的な統一が条約や統一規則の形で十分確立していな かったので、取引当事者の事情に合わせた特約や標準約款などが試行錯誤されながら、個々の取引で 選択されてきた。中でも、国際複合一貫運送サービスに適した運送書類に関して、有力な国際複合運送 事業者が主導して複合一貫運送書類のモデル(model combined or multimodal transport document) を採用しているが、それは、port-to-portのIncoterms® 2010のCIF, CFRに適合するとは思われない。 したがって、1990 年版 Incotermsやそれ以前のCIF 条件の有効性は、現在では、sea waybillやnonnegotiable straight B/Lを使用する場合を除き、低くなっていると判断できよう。すなわち、今日ではCIF条 件ではなく、CIP 条件へ移行すべきものである。そして、上記の海上船荷証券の提供に関するCIF 条件上 の要件はCIP 条件に合わせて見直されるべきだろう。荷為替決済を必要とする貿易取引の場合を除いて、 伝統的な(換言すれば、古典的な)CIF 条件は、国際海上定期運送サービスがコンテナ化した今日では、主 として国際商品(commodity)の大量取引に利用されるとみて良いのかもしれない。売買契約の当事者間に おける義務の分担と経費配分に力点が移り、CIF 条件の書類売買性は薄められているように思われる。 Incoterms® 2010の二グループによる構成は、この意味で商取引の観点(sense) から有益であると思われる。 2.I nco t e rmsとa reasonable commercial sense(or person) 国際商取引(あるいは、貿易取引)を行うに際し、まず第一に重要なことは、交渉で取り上げた条件を具 体的に文書に約款や条項として約束(agreement)をまとめ、契約書、契約確認書などの強制可能な形の 文書にしておくことである。ここに、国際契約法としての国連国際動産売買条約(CISG)の重要性がある。 仮に紛議が生じてもその文書により解決の糸口が与えられていることが重要である。したがって、具体的に交 渉した事項(dickered clauses and terms)を、通例、裏面の一般約款(印刷約款、general terms and conditions)で、補充、説明、追加するのが、慎重な企業人の実務である。その際に、国際商品の取引 の場合には、業界標準約款 7 が、この一般約款の役割を引き受けることが多い。傭船運送の世界も同様で、 7 例えば、国際穀物・飼料取引協会(GAFTA) ,国際油脂取引連合(FOSFA) ,コーヒー取引協会(Coffee Trade Association) などが制定する標準約款などが代表例として、ロンドン市場で使用されている。雛形が、Bridge, 前掲書の巻末に付録として採録さ れているので、参照されたい。 ̶ 15 ̶ J AS T P RO それぞれコード・ネームが付され、GENCON, NYPFなどは有名である。これらを参考にすれば、取引当事 者の意思や意図は相当に明らかになるが、それでも、商事紛争はたえず生じ、調停、仲裁や訴訟に至るこ とが少なくないのが現実である。 このような文脈の中で、これまで取り上げてきたIncotermsの各年の改定版が占めている契約の解釈上の 地位を検討しておきたい。Incotermsを制定公表しているのは、NGOの国際商業会議所(ICC)である。 ICCは、Incotermsの他に信用状、契約保証などの商事契約に関する統一規則やモデル約款の制定の他 に、海賊対策に関する広報などを行っている。Incotermsは、特定の商品や地域に限定せず、国際売買 の定型的取引条件を、10 項目の義務について売主対買主のそれぞれの義務を左右対称的に定めるもので ある。したがって、国際商品取引の世界で確立し、常用される標準約款と比較すれば、Incotermsはより 一般的であるから、それに劣後するものと思われる(脚注 7に掲げるGAFTAの諸約款は、Incotermsの適 用を排除している)。国連国際動産売買条約も、特別対一般の対比の意味では、Incotermsと同列になる。 しかし、CISGは国際統一条約として法律体系的であり、簡潔(handy)を尊ぶ企業実務の妥当な感覚(a reasonable commercial sense) との間には、やや距離があるように思われる。CI SGもIncotermsも、その 重要性にもかかわらず、企業実務の現場に十分浸透し、理解されているとは思われない(本誌、No.432に 紹介した吉田友之関西大学教授の調査報告を参照)。この現実は、国際商取引が一般化しつつある経済 のグローバル化の時代においては、残念なことである。 では、企業実務の妥当な感覚とは、一体何なのかが問われるべきだろう。商事契約の解釈に当たっては、 使用された文書(契約書、受発注の確認書、証書・証券など)に忠実であることが最重要であって、商取 引上意を尽くした解釈を優先すべきである。そのような解釈を生む土台が、企業実務の妥当な感覚である。 この感覚は、言語使用の美意識や操作に拘ることではなく、特定の商事文書を取り巻く状況全体を把握して、 関係者が納得する判断を打ち出すものである。したがって、それは、特定の取引に関する知識や経験をもと に、商事と法理の整合性の取れた商事解釈であろう8。 要するに、Incotermsは、企業実務の妥当な感覚に基づく商事文書の解釈に導く入口にあるごく基本の 指針に過ぎないと言えるだろう。Incotermsを経由して、CISG, 国際商品取引の標準約款、個別の契約(運 送、決 済、保 険など)の一 般 約 款、交 渉され取りまとめられた重 要 事 項に関する文 書(Sales Note, Confirmationなど)にたどり着いて、特定の状況における具体的に妥当な判断が得られるものだろう。 Jan Ramberg, 新堀 聰訳『ICCインコタームズ ® 2010の手引き』国際商業会議所日本委員会、2012、 (p.61)に注意が喚起されているように、DDP, DAT, DAPなどのD系の条件は、仕向国における関税法、 貿易規制立法などの公法をクリアーしなければならないので、出荷地渡し条件のCIP, CPTと同列には扱え ない。貿易取引は、出荷地で仕切られる積地売買が依然として主流を占めるものである。すなわち、国境を 超える取引を実践するのに際して、輸出者が仕向地に関係企業や支店、営業所を擁しているか否かを重要 な判断の基準にすべきことを、前記の注意喚起は示唆している。これも、企業実務の妥当な感覚に基づく 判断の例であろう。 以上 8 Society of Lloyd’ s v. Robinson[1999] 1 All E.R.(Comm) 545, 551におけるLord Steyn 判事の所見参照。 ̶ 16 ̶ J AS T P RO 記事2. 国連CEFACTからのお知らせ 2-1 16 December 2014: ・ UN/CEFACT BPS Validation Team has approved the Core Component Library D.14B for publication. ・ UN/CEFACT Agriculture Domain is pleased to request the public review for the BRS of Animal traceability data exchange Project, that describes traceability processes for live animals, groups of animals and fish during transport within a country or across borders. The review period is 60 days from the public review start date of the document(until February 14th, 2015). Commments should be submitted to the Project Leader, Bruno Prépin, via the Public Review page. 2014 年 12月16日 ・ 国連 CEFACTビューロープログラム支援バリデーションチームは、コア構成要素ライブラリー D.14Bを 公表しました。 ・ 国連 CEFACT の農林水産領域は、家畜に関するトレーサビリティー情報のデータ交換プロジェクトの BRS に対するパブリックレビューを募ります。これらは国内若しくは国境を越えての移送中に於ける個々の 家畜や、家畜のまとまり、魚のトレーサビリティ―のプロセスについて言及するものです。レビューの期間は 当該ドキュメントに対するパブリックレビュー開始日から60日間です (2015 年 2月14日期限)。 コメントはプロジェクトリーダーの Bruno Prepin 氏まで提出願います。 以上 ̶ 17 ̶ J AS T P RO 記事3.『ばいざういんどせいらー』 日本列島船の旅〔夜の瀬戸内快速 (快足) 便:澄んだ1月 「星が降る瀬戸内の旅」〕 ○瀬戸内のワンナイトクルーズ 日本国内で航路延長 300km 以上に就航するカ―フェリー (貨客船を除く)は全 18 航路 43 隻(2015 年 1月 1日現在)であるが、そのうち約 4 割の7 航路 16 隻が阪神(大阪、泉大津、神戸)からの九州航路(中九州、 南九州の4 航路 8 隻を含む)である。船内で一夜を過ごし目が覚めたら目的地という利便性から、貨物輸送もさ ることながら、眠っている間に移動するという、船をホテル代わりに使う家族連れのマイカー族、ひいては団体客 も多いという。 尤も、日本で最初に大型カーフェリーが就航したのが 1968 年 8月で、その航路は神戸と北九州・小倉であっ た。当時の創業者は、国道二号線の神戸垂水と北九州にテントを張り大型トラックのナンバーを調査したという。 それをもとに阪神∼北九州の直行便のトラックの台数を割り出し、採算の採れる事を見込んで航路開設に挑ん だのであった。今では考えられない努力の賜物である。貨物で採算を採る一方、当時は新幹線もない時代で あり、阪神方面から北九州に旅をする旅行客には、余っている船のスペースを大いに利用し寝ながら行って頂 こうと安価な価格で2 等料金を設定したようである。当時のカ―フェリーは現在、神戸∼北九州・新門司に就航 している船のトン数から見ると僅かに三分の一であるが、現存船の定員が 810 名であるところ1,200 名の定員を 有していた。如何に当時の旅行客にとって阪神∼北九州間の船旅が身近であり、使いやすいものであったか が窺われるのである。 現在、上にも触れた長距離カ―フェリーのパイオニアである「阪九フェリー」が泉大津∼北九州・新門司航路 に「やまと、つくし(13,353トン :旅客 667 名)」を投入し、神戸∼北九州・新門司航路に「フェリーせっつ、フェリー すおう (15,188トン:810 名)」を投入している。一方、 「名門大洋フェリー」は「阪九フェリー」より5 年遅れて瀬 戸内にも就航したが、長距離カ―フェリーとしてまさに「老舗」の部類である。当初は四日市∼新門司までを結 ぶ航路として1972 年 5月に開設した、その後名古屋を寄港地とし、名古屋∼門司、名門とは名古屋、門司の 頭文字をとったのである(その後 1976 年 3月にこの航路は廃止された)。一方、瀬戸内航路は約 1 年遅れて 1973 年 4月に大阪南港∼北九州・新門司航路を開設、同時期に開設した「太洋フェリー」の大阪南港∼北九 州・苅田航路と1984 年 11月に併合合併の上「名門大洋フェリー」と称し現在、大阪南港∼北九州・新門司 航路に「フェリーおおさか、フェリーきたきゅうしゅう (約 9,500トン:713 名)フェリーきょうと2、フェリーふくおか 2 名門大洋フェリー「フェリーきょうと2」 (9,800トン) ̶ 18 ̶ 阪九フェリー「フェリーすおう」15,188トン J AS T P RO (約 9,800トン:877 名)」を投入している。つまり、2 船社の船で毎日4 往復、阪神と北九州・新門司を所要時 間約 12 時間半で結んでいる事になる。 ○本四架橋のイルミネーションを見ながら 12月号でも本四架橋に触れたが、こちらの航路も航路柄、全ての本四架橋の下を通過することとなる。船の 航海時刻表と本四架橋通過時間を下記に示すが、 「明石海峡大橋」では下り便では日の長い夏季の阪九、名 門大洋 1 便を除けば橋のイルミネーションを見ながらの航海となる。 「明石海峡大橋」では毎時正時になると5 分 間、橋のイルミネーションがレインボーカラ−に変わるのである。このレインボーカラーは3 種類あり日没から23 時ま では光のショーが楽しめる。是非この通過時間を参考に橋のイルミネーションを楽しんで頂きたい。 特に今の時期の瀬戸内は空気が済んでおり、星も望め霧の出る事もなく絶景である。参考までに瀬戸内の霧 について述べておくと、毎年春から初夏にかけての時期が多く、原因は海水温度の上昇よりも大気の温度の上 昇が早い為に海面に接した大気が冷却されて霧が発生するというメカニズムによるものが多い。 下り便 上り便 神戸 大阪南港 泉大津 明石海峡 大橋 瀬戸大橋 来島海橋 大橋 新門司 阪九 1 便 17:30 18:35 21:40 00:00 6:00 阪九 2 便 18:30 19:35 22:45 01:05 7:00 阪九 2 便* 20:00 21:00 00:15 02:35 8:30 名門大洋 1 便 16:50 18:05 21:30 23:50 5:30 名門大洋 2 便 19:50 21:05 00:30 02:50 8:30 阪九 1 便 6:00 04:40 01:00 23:00 17:30 阪九 2 便 7:10 05:50 02:20 00:15 18:40 阪九 2 便* 8:30 07:10 03:35 01:25 20:00 名門大洋 1 便 5:30 04:15 00:45 22:30 16:50 名門大洋 2 便 8:30 07:10 03:40 01:25 19:50 *は金∼日曜の運航ダイヤ、太文字は出入港時刻、斜字 は通過予定時刻 明石海峡大橋のイルミネーション 新門司港入港前の「周防灘」の朝焼け ̶ 19 ̶ J AS T P RO ○船に乗れば 総トン数こそ2 社に若干の差はあるものの、船内施設は変わらない。家族連れ、出張族、団体さん、夫婦、 カップル、若者、女子会とあらゆるニーズに応えた多様なキャビン(船室)があるのが特徴である。阪九 2 便の 2 等 Aなども11月号で紹介した「シルバープリンセス」の2 等寝台と比べてそん色のない個室の1 人部屋であり、 女性専用室をしつらえている船もある。予算とグループ構成に応じてキャビンの種類に、よりきめ細かく運賃が決 められているのは利用者として大いに有難い。特等室はバストイレ付のキャビン、他のキャビンはバストイレの設 備はないが大きな展望風呂があり、時には瀬戸内や周防灘の夕焼け、朝焼け、夜景を楽しみながら大きな湯 船でリラックスして旅が出来る。 食事関係では「阪九フェリー」と「名門大洋フェリー」とでは若干違い、前者はトレーを持って好きな料理を選 び最後に値段をTotalして支払うといった「カフェテリアシステム」であるのに対し、後者では前金制の「バイキン グスタイル」である。朝食は「名門大洋フェリー」の1 便は入港が早く、レストランの営業はなく、手作りのサンドイッ チやピザトーストの販売となり、他の3 隻はレストランの営業を行う。また、 「阪九フェリー」では予約制で翌日手作 りのパンを提供するサービスを行っている。繁忙期になると船内ではミニコンサートや紙芝居のイベントもあり、子 供連れの家族にはちょっと嬉しいサービスである。蛇足ながら手作りサンドイッチやピザトーストの販売は「名門大 洋フェリー」の2 便でも行っているが人気商品ゆえに売り切れることが多く早目に手配することを薦める。 「フェリーきたきゅうしゅう」特等洋室 「フェリーすおう」特等洋室 「フェリーきょうと2」展望プロムナード 「フェリーすおう」 カフェテリアレストラン ̶ 20 ̶ J AS T P RO ○最後に 「フェリ―せっつ、フェリーすおう」 「フェリーおおさか、フェリーきたきゅうしゅう」は、今年 11月迄には4 隻全て 新造船にリプレイスされる。新造船は個室数を多くし、客室設備等もグレートアップされるのは当然であるが、 燃費やCO2 排出量等のハード面でさらに「環境に優しい船」となる。まずは1月22日泉大津∼北九州新門司航 路に「露天風呂」 「プライベートデッキ、展望浴室付きロイヤルルーム」を備えた「阪九フェリー」の新造船「いず み(約 16,000トン旅客 643 名)」が就航し、続いて姉妹船「ひびき」が 4月に就航する。他方、 「名門大洋フェ リー」は2015 年 9月と11月の就航を目処に、現在約 15,000トンのカ―フェリーを建造中である。船内居住空間 の色彩は、一方が「瀬戸内の潮騒」を醸し出した「ナチュラルト―ン」に、姉妹船は京阪神と北九州・福岡の 2 大都市圏を思い起こす「ク―ルト―ン」で統一しているそうである。環境に優しい船ではあるので船内では電 気自動車用の充電設備も完備されているというから早くも就航が待ち遠しい。 以上 ̶ 21 ̶ ̶ 協会ホームページのリンク集のご案内 ̶ http://www.jastpro.org/link/index.html 当協会のホームページのリンク集には、当協会の活動にご興味を持たれる方や日本輸出入者コードの 利用者の方々のご参考として関係諸組織・団体ホームページへのリンクを下記の分類で掲載しております のでご活用下さい。 ▲ 当協会に関係する我国の官公庁・公的機関(独立行政法人を含む) ▲ 輸出入関係手続きに関係する業界団体等 ▲ 輸出入関係手続きに〔国内物流〕関係する情報源と用語集 ▲ 国際空港の公式ページ ▲ 国際貿易港の公式ページ ▲ 貿易簡易化や電子商取引の標準化組織・団体(国内) ▲ 貿易簡易化や電子商取引の標準化組織・団体(海外) ▲ 貿易振興・簡易化や電子商取引の標準化に関係する国際機関 ▲ その他の組織・機関 JASTPRO 第40巻 第10号 通巻第436号 ・禁無断転載 平成27年1月15日発行 JASTPRO刊14-10 発 行 所 (一財) 日本貿易関係手続簡易化協会 東京都中央区八丁堀2丁目29番11号 八重洲第五長岡ビル4階 電 話 03- 3555- 6031 (代) ファクシミリ 0 3- 3555- 6032 http://www.jastpro.org 編 集 人 山 内 大 二 郎 本誌は再生紙を使用しております。 ̶ JASTPRO広報誌電子版のご案内 ̶ 電子版は、当協会ウェブページのお知らせ欄にてご覧いただけます。 http://www.jastpro.org/topics/index.html 掲載通知をご希望の皆様には、メールにてその旨ご案内申し上げますので、ご希望の方は毎月20日までに 次の内容を下記の E-mailアドレスにお知らせくださいますようお願いいたします。 ▲ ご所属の組織名称 ▲ 所属されている部署 ▲ 申込者氏名 ▲ 連絡先電話番号 ▲ 送達をご希望のメールアドレス 【申込み宛先】 (一財)日本貿易関係手続簡易化協会 業務部 業務二部長 永山 明洋 E-mail address: gyomu_dept@jastpro.or.jp
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