散布した点の代表値を示す尺度「プレー重心」の提案

スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
散布した点の代表値を示す尺度「プレー重心」の提案と精度の検討
Presentation of a scale “Play Centroid” and examination of its accuracy
樋口智洋 1) ,衣笠竜太 2) ,藤田善也 3) ,堀野博幸 4) ,土屋純 4)
1) 早稲田大学スポーツ科学研究科
2) 神奈川大学人間科学部
3) 国立スポーツ科学センター
4) 早稲田大学スポーツ科学学術院
キーワード:プレー重心,記述分析法,Bland-Altman Plot,サッカー,
パフォーマンス分析
Key words: Play Centroid, notational analysis, Bland-Altman Plot, soccer,
performance analysis
抄録
サッカーのゲームパフォーマンスの測 定 方 法 は,デジタル測 定 法 と記 述 分 析 法 に分 けられる.それぞ
れに問題点を有しているものの,客観的分析尺度として「プレー重心」を提案することで記述分析法 であ
るフィールド分 割 法 の汎 用 性 を高 めることができると考 えた.そこで,本 研 究 では記 述 分 析 法 による代 表
値算出の妥当性とその精度を検証することを目的とした.フィールド分割法,目視プロット法,および 2 次
元 DLT 法の 3 つの測定方法に関して,Pearson の積率相関分析と Bland-Altman plot を用いて分析し
た.その結 果 ,記 述 分 析 法 に関 してプレー重 心 は散 布 したプレー回 数 の代 表 値 を示 す尺 度 として妥 当
であること,また,記 述 分 析 法 がデジタル測 定 法 と同 等 の精 度 を持 つことが明 らかとなった.このことは,
プレー重心が競技レベルやチームの経済的規模,データの即時的利用の必要性に応じて,ゲーム様相
をある一点から客観的にとらえることが可能であることを示した.また,デジタル測定の不可能な競技場に
おいても記 述 分 析 によって精 度 の高 い測 定 が可 能 であるため,現 場 のコーチの視 点 の可 視 化 やアナリ
ストの発 信 の補 助 が容 易 になる.これは,コーチの持 つ質 的 な思 考 に量 的 な客 観 性 を持 たせることや,
見 た目 には判 断 の困 難 な差 異 を明 確 にする効 果 をもたらす.したがって,プレー重 心 は,現 場 で求 めら
れる即時性と分析時に求められる精度の両面を満たす客観的分析尺度であると考えられる.
スポーツ科 学 研 究 , 9, 338-349, 2012年 , 受 付 日 :2012年 5月 8日 , 受 理 日 :2012年 11月 12日
連 絡 先 : 樋 口 智 洋 〒202-0021 東 京 都 西 東 京 市 東 伏 見 2-7-5体 育 教 室 棟 205
Tel & Fax:042-461-1302,E-mail: higuchi-tomohiro@toki.waseda.jp
338
スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
Ⅱ.方法
Ⅰ.序論
1. 実験対象
サッカーのゲームパフォーマンス分 析 に用 いら
れる測 定法 は,数多 く存 在するが,その手法は近
2010 年度 2 大学間定期戦の攻撃 94 シーンを
年 ,記 述 分 析 法 からデジタル測 定 法 へ移 行 する
対 象 とした.試 合 当 日 の天 気 は晴 れ,気 温 は
傾 向 にある.塩 川 ら(1997)が,「三 次元 分 析 に必
23℃,湿度は 43%であった.ボールは全日本大学
要 なビデオカメラによる撮 影 には,スタンド付 きの
サ ッ カ ー 連 盟 公 式 試 合 球
競 技 場 でなければ困 難 である.グランドを網 羅 で
FP5000VL-WB を使用した.本研究では,ボール
きる距 離 と高 さを確 保 できなければならない.また,
奪 取 の瞬 間 を攻 撃 の開 始 とし,ボールを奪 われ
デジタイズの作 業 は多 大 な時 間 を要 する.」と報
た瞬 間 ,またはボールがラインを割 った瞬 間 を攻
告 しているように,Direct Linear Transformation
撃の終了 と定義した.ただし,攻 撃の途中に一度
(DLT)法 に代 表 されるデジタル測 定 法 は,記 述
相 手 プレーヤーにボールを奪 われたり,ルーズボ
分 析 法 に比 べ,測 定 実 施 に耐 えうる環 境 ,分 析
ールになったりして再 び奪 い返 して攻 撃 を再 開 し
用 コンピュータや解 析 ソフトウェアの価 格 等 の理
た場 合 には,一 度 攻 撃 が終 了 しまた次 の攻 撃 が
由から,対象となる試合数が少ない.一方,フィー
開始されたと判断した.また,GK のフィードに関し
ルドをいくつかのエリアに分 割 して測 定 するフィー
ては,フィードした瞬 間 を攻 撃 の開 始 とし,フィー
ルド分割 法 に代 表される記述 分析 法は,フィール
ドしたボールが味 方 選 手 がプレー可 能 な状 態 で
ド上 のラインや芝 の刈 り目 を標 識 として選 手 やボ
繋 がった場 合 のみ攻 撃 として採 用 した.さらに,
ールの位 置 情 報 を簡 便 かつ瞬 時 に記 述 ・評 価 で
攻 撃 の開 始 から攻 撃 の終 了 までを攻 撃 シーンと
きるので(井 上 ら,1996:吉 村 ら,2002),実 際 の
した.
MIKASA
現 場 で 多 く 利 用 さ れ て い る ( 井 上 ら , 1996 ;
2. 実験方法
Pollard & Reep , 1997 ; 竹 内 , 2000 : 城 戸 ら ,
2002;矢竹・加藤,2002;吉村ら,2002).しかしな
実験には,3 台のデジタルビデオカメラ
がら,フィールド分割の方法は研究間で異なり,ま
DCR-VX2000(SONY 社 製 )を使 用 した.ビデオ
た各 エリアの面 積 もフィールド内 で均 一 でない問
撮影の sampling speed は 1/60 秒であった.1 台
題点を有する.
のビデオカメラでフィールド半 面 を撮 影 し,センタ
これ らの 問 題 点 を 解 決 するため ,本 研 究 はゲ
ーラインの延 長 上 からパンニング撮 影 を行 った.
ームパフォーマンスの客 観 的 分 析 尺 度 として“代
したがって,フィールド全面の撮影には 2 台のビ
表 値 ”に着 目 する.代 表 値 は,測 定 ・分 析 手 法 の
デオカメラを用 いた.この映 像 から攻 撃 シーンを
相 違 に関 わ りなく ,大 会 間 やチ ーム 間 の 比 較 が
抽 出 し,各 攻 撃 について攻 撃 開 始 地 点 を調 べ
可能となる.また,代表値の中でも重心は,ある平
た.
面 内 の詳 細 な場 所 が不 明 な点 に関 して,その総
数 を把 握 できれば算 出 可 能 であり,フィールド分
3. 分析方法
割 法 の汎 用 性 がより一 層 高 くなると考 えた.そこ
パンニング撮 影 を行 ったカメラの映 像 を使 用 し,
で 本 研 究 は , Pearson の 積 率 相 関 分 析 と
目 視 によって攻 撃 開 始 地 点 を決 定 しプロットした.
Bland-Altman plot を用いて,記述 分析法による
攻撃開始地点の決定とプロットは 1 名で行なった.
代 表 値 算 出 の妥 当 性 とその精 度 を検 証 すること
この測 定 法 を目 視 プロット法 と呼 ぶこととする.同
を目的とした.
時に,フィールド分割法による各攻 撃開始地点 の
339
スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
決定も行った.また,2 台の固定カメラの映像をフ
4. 各測定法の手続き
レームディアス(DKH 社 製 )に取 り込 み,2 次 元
1) フィールド分割法
DLT 法 によって攻 撃 開 始 地 点 のデジタイズを行
本 研 究 では,先 行 研 究 (井 上 ら,1996;Pollard
った.また,キャリブレーションに関しては,気象条
& Reep,1997;竹 内 ,2000;城 戸 ら,2002;矢 竹 ・
件の変化を考慮し,前後半各 1 回ずつ行なった.
加藤,2002;吉村ら,2002)を参考に,図 1 に示す
以上の 3 つの測定法により攻撃開始地点の分析
ようにフィールドを 32 個に分割した.センターライ
を行 った.本 稿 においては,記 述 分 析 法 がフィー
ン両 脇 の線 は,フィールドを攻 撃 方 向 に対 して垂
ルド分 割 法 と目 視 プロット法 であり,デジタル測 定
直に 3 等分したものである.
法が 2 次元 DLT 法であった.全ての分析法を用
いて,後述するプレー重心を算出した.
図 1 フィールドの分 割
図 2 フィールド分 割 法 における 2 次 元 座 標 平 面
攻撃開始地点を算出するため,図 1 のフィール
の際 ,攻 撃 開 始 地 点 がエリアの切 れ目 での浮 き
ド分 割 を用 いて,各 エリアの重 心 点 を定 めた.こ
球であれば,脚でボールを触っている場合 にはボ
の際,サッカー競技規則 2009/2010(JFA,2009)
ールに触 れた脚 の真 下 ,脚 以 外 の場 所 でボール
より,FIFA が定 める国 際 規 格 のフィールドサイズ
に触 れた場 合 は両 脚 の間 の真 下 を攻 撃 開 始 地
(105×68m)を参考にして,図 2 に示すように,相
点 とした.各 エリアの重 心 点 を使 用 し,指 定 のプ
手 ゴールラインの中 点 を原 点 とし,タッチラインと
レーの全試行の代表値を定める分析尺度の作成
平行に x 座標,ゴールラインと平行に y 座標を採
を試 みた.これを「プレー重 心 」と定 義 した.本 稿
り,2 次元座 標として各エリアの重心 点を得た.こ
では,「攻 撃 開 始 地 点 」に関 する「プレー重 心 」を
340
スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
「攻 撃 開 始 地 点 のプレー重 心 」とした.フィールド
2) 目視プロット法
分 割 法 によるプレー重 心 の測 定 に関 する計 算 式
目 視 プロット法 における攻 撃 開 始 地 点 につい
を,重心の算出方法に従い以下のように定めた.
ては,井 上 ら(1996),吉 村 ら(2002)を参 考 に芝
(X,Y)=(∑wixi/∑wi,∑wiyi/∑wi) …式 1
の刈 り目 ,フィールド上 に引 かれたライン,広 告 看
X,Y: プレー重心の x,y 座標
板 の文 字 を目 印 に目 視 によって紙 面 上 のフィー
xi,yi: 各エリアの重心点の x,y 座標(図 2,
ルドにプロットした.この際 ,フィールド分 割 法 と同
青点)
様に,FIFA が定める国際規格のフィールドサイズ
wi: 各 エリアで行 われた指 定 のプレーの回
(JFA,2009)を参考にして,図 3 に示すように,相
数
手ゴールラインの中点を原点として各点の 2 次元
i: i 番目のエリア
座 標 を得 た.この際 ,浮 き球 の処 理から攻 撃 が開
※指 定 のプレーの回 数 :攻 撃 開 始 地 点 のプ
始 された場 合 には,フィールド分 割 法 と同 様 に測
定を行った.
レー重心の測定を行う場合,各エリアで攻
撃が開始された回数
図 3 目 視 プロット法 における 2 次 元 座 標 平 面
目 視 プロット法 によるプレー重 心 の測 定 に関 し
測定法と同様に測定を行った.2 次元 DLT 法に
ては,相加平均の定義を利用して式 1 に合わせ
よるプレー重 心 の測 定 に関 しては,目 視 プロット
て定義した式(式 2)を用いた.
法と同様に重心の公式(式 2)を用いた.
(X,Y)=(∑xi/wi,∑yi/∑wi) …式 2
X,Y: プレー重心の x,y 座標
5. 統計処理
xi,yi: 指定のプレーが行われた点の x,y 座
3 つの測 定 法 により算 出 された攻 撃 開 始 重 心
標
の代表値の比較には,一元配置の分散分析を用
w: 指定のプレーが行われた回数
いた.また,記 述 分 析 法 とデジタル分析 法 の攻 撃
i: i 番目の指定のプレー
開始重心の測定誤差の比較には,Pearson の積
率 相 関 分 析 を用 いた.さらに,記 述 分 析 法 による
3) 2 次元 DLT 法
プレー重心算出の妥当性検証のため,
攻 撃 開 始 地 点 に つ い て , 2 次 元 DLT 法
Bland-Altman plot を用いて,2 次元 DLT 法との
(Walton, 1979)により守 備 側 ゴールの中 心 を原
一 致 性 を検 討 した.有 意 水 準 は 5%未 満 とした.
点として各点の 2 次元座標を得た.この際,浮き
すべての統計処理には,SPSS 12.0J for Windows
球 の処 理 から攻 撃 が開 始 された場 合 には,他 の
を使用した.
341
スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
Ⅲ. 結果
攻撃開始重心の x 座標と y 座標は,3 つの測定
表 1 には,各測定法の攻撃開始地点のプレー
法間で有意 な差を示さず,いずれの測定法も,ほ
重心の x 座標,y 座標における座標値を示した.
ぼ同じプレー重心であった.
表 1 各 測 定 法 の「攻 撃 開 始 重 心 」の座 標 値
フィールド分割法
目視プロット法
2次元DLT法
有意差
x座標
61.31
60.74
61.49
ns
y座標
5.72
7.14
6.57
ns
(m)
図 4,5 には,Pearson の積率相関分析の結果
グラフ上にプロットした.Bland-Altman plot では,
を示 した.縦 軸 にフィールド分 割 法 ,目 視 プロット
フィールド分割法と DLT 法の x 座標の比較にお
法それぞれの攻撃開始地点の x 座標,y 座標の
いて,各 攻 撃 開 始 地 点 の誤 差 の平 均 値 は-0.17
座標値,横軸に 2 次元 DLT 法における攻撃開始
±5.91 m,y 座標においては-0.82±5.49 m(図
地点の座標値を取った.2 次元 DLT と比較して,
6),目視プロット法と DLT 法の x 座標の比較に関
フィールド分割法の x 座標(r = 0.971)及び y 座
しては 0.52±1.40 m,y 座標においては-0.45±
標 ( r = 0.986) ,目 視 プ ロ ッ ト 法 の x 座 標 (r =
1.63 m(図 7)となり,いずれも 0 に近い値となった.
0.998)及び y 座標(r = 0.998)すべてにおいて有
点 はほぼ上 下 均 等 に分 布 し,分 布 の範 囲 に関 し
意 な相 関 が認 められた.また,フィールド分 割 法
ては,SD の値 からフィールド分 割 法 よりも目 視 プ
に関して,傾き(x 座標;m = 0.986,y 座標;m =
ロット法が狭いといえる.ちなみに,upper limit of
0.850)と決定係数(x 座標;r 2 = 0.942,y 座標;r 2
agreement の値 は,フィールド分 割 法 x 座 標 が
= 0.972)は 1 に近い傾向にあったが,目視プロット
11.645 m,y 座標は 10.152 m,目視プロット法 x
法が傾き(x 座標;m =1.000,y 座標;m = 0.991),
座標は 3.325 m,y 座標は 2.798 m であった.
決定係数(x 座標;r 2 = 0.997,y 座標;r 2 = 0.996)
lower limit of agreement に関しては,フィールド
ともにより 1 に近い値を取った.
分割法 x 座標が-11.988 m,y 座標は-11.794 m,
図 6,7 には,Bland-Altman Plot の結果を示し
目 視 プ ロ ッ ト 法 x 座 標 は -2.290 m , y 座 標 は
た.客観的基準とした 2 次元 DLT 法に対してフィ
-3.704 m と な っ た ( 図 6 , 7 ) . fix bias ,
ールド分割法,目視プロット法それぞれの x 座標,
proportional bias に関してはともになかった.
y 座標の座標値の差を縦軸,平均値を横軸にとり
342
スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
(m)
120
フィールド分割法
100
80
60
x座標
40
y = 0.986 x + 0.534
r = 0.971
n = 94
p < 0.01
20
0
0
50
100
( m)
2 次 元 DLT 法
(m)
40
30
フィールド分 割 法
20
10
-40
-20
0
0
20
40 (m)
y座標
-10
-20
y = 0.850 x - 0.189
r = 0.986
n = 94
p < 0.01
-30
-40
2 次 元 DLT 法
図 4 フィールド分 割 法 と DLT 法 によるプレー重 心 の x 座 標 と y 座 標 の相 関
343
スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
(m)
120
100
目 視 プロット法
80
60
x座標
40
y = 1.000 x + 0.516
r = 0.998
n = 94
p < 0.01
20
0
0
50
100 ( m)
2 次 元 DLT 法
(m)
40
30
目 視 プロット法
20
10
-40
-20
0
0
20
-10
-20
-30
-40
2 次 元 DLT 法
40
( m)
y座標
y = 0.991 x - 0.415
r = 0.998
n = 94
p < 0.01
図 5 目 視 プロット法 と DLT 法 によるプレー重 心 の x 座 標 と y 座 標 の相 関
344
スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
(m)
25
20
15
10
フィールド分割法x軸
5
+2SD
-2SD
0
-5
0
50
mean
100 (m)
-10
-15
-20
(m)
15
10
5
-40
-20
0
フィールド分割法y軸
+2SD
0
20
-5
40
(m)
-2SD
mean
-10
-15
図 6 フィールド分 割 法 と DLT 法 によるプレー重 心 の x 座 標 ,y 座 標 の Bland-Altman plot
345
スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
(m)
6
4
2
目視プロット法x軸
+2SD
0
0
50
100 (m)
-2
-2SD
mean
-4
-6
6
(m)
4
2
-40
-20
0
目視プロット法y軸
+2SD
0
20
-2
40
(m)
-2SD
mean
-4
-6
図 7 目 視 プロット法 と DLT 法 の x 座 標 ,y 座 標 における Bland-Altman plot
346
スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
Ⅳ. 考察
アごとのデータは,プレー重 心 を用 いて代 表 値 を
記述分析法により算出されたプレー重心は,エ
算出できるため,分割エリアが同一でなくてもチー
リアごとに散布 したプレー回 数 の代 表 値 を示 す尺
ム間 ,大 会 間 の比 較 が可 能 である.本 稿 の分 析
度 として妥 当 性 が示 された.その根 拠 として,フィ
では図 8 のようなデータになり,エリアごとのプレー
ールド分 割 法 と目 視 プロット法 によるプレー重 心
回 数 の分 布 と全 体 の重 心 点 が得 られることで分
の座標値は,2 次元 DLT 法と比較して有意な差
析 のための一 つのツールとなり得 る.本 稿 では,
を示 さなかったことが挙 げられる.また,フィールド
攻 撃 開 始 地 点 のプレー重 心 を算 出 したが,他 の
分割法と目視プロット法 vs. 2 次元 DLT 法の座
プレーに関 しても利 用 することが可 能 である.具
標 値 には,有 意 な正 の相 関 関 係 があり,決 定 係
体例として,ボール奪取地点に関しての使用例を
数と傾きがともに 1 に近く,その傾向は目視プロッ
挙 げる.守 備 において「より高 い位 置 でボールを
ト 法 で よ り 顕 著 で あ っ た . さ ら に , Bland-Altman
奪 う」ことをコンセプトとするあるチームのコーチが,
plot の結果,系統誤差は両者の座標値の間に存
毎 試 合 のボール奪 取 地 点 のプレー重 心 を測 定 し
在 しなかったが,座 標 値 の分 布 範 囲 がフィールド
その推 移を表す.このプレー重 心の x 座標 方向
分 割 法 よりも目 視 プロット法 で小 さかった.以 上 の
の変 位 により,「より高い位 置 でボールを奪 う」とい
ことから,フィールド分 割 法 と目 視 プロット法 により
うコンセプトの達 成 度 合 いを可 視 化 して監 督 や選
算 出 されたプレー重 心 はどちらも妥 当 であるが,
手 にフィードバックすることができる.または,ある
フィールド分 割 法 は目 視 プロット法 と比 べて,測
大 会 の分 析 を行 うアナリストが,これまでの大 会 の
定誤差が多いことが明らかとなった.
得点に至ったシュートが放たれた地点のプレー重
本研究は,2 次元 DLT 法を基準値とし,各記
心の推移を見ることでその大会のトレンドを把握し,
述 分 析 法 との一 致 妥 当 性 を測 定 誤 差 や相 関 関
各 チームの指 導 者 に発 信 することができる.各 指
係により検討した.注意すべき点は,2 次元 DLT
導 者 は,この情 報 を参 考 に戦 術 や指 導 法 を練 る
法 にも測 定 誤 差 が存 在 することである.2 次 元
ことができる.具 体 的 には,「ゴールにつながるシ
DLT 法 は,各 種 スポーツ動 作 やゲームの解 析 の
ュートは,年々ゴールに近い距離から放たれるよう
際 に用 いられる分 析 方 法 の一 つであり,記 述 分
になっているため,守備時には極力相手をゴール
析 法 と比 べ客 観 性 と定 量 性 に優 れる.しかしなが
から遠 ざけることを心 がけよう」と選 手 に伝 える方
ら,画 像 の空 間 解 像 度 やカメラの撮 影 速 度 には
法がある.目視プロット法に関しては,図 9 に示す
限 度 があり,測 定 誤 差 が必 然 的 に生 まれてしまう.
ように,散 布 した点 により視覚 的なデータを得 られ
ただし,二次元 DLT 法は現在頻繁に使用されて
る.また,データ収 集 後 にエリア分 割 を行 うことで,
いる最 も信 頼 性 が高 い測 定 方 法 のひとつである
エリア毎 の比 較 や予 めフィールド分 割 法 によって
ため,本研究において基準値とした.
分 析 された他 のデータとの比 較 も可 能 となる.つ
フィールド分 割 法 や目 視 プロット法 といった記
まり,フィールド分割法を用いて分析されたデータ
述 分 析 法 は,現 場 でリアルタイムにデータを収 集
と目 視 プロット法 で分 析 されたデータの比 較 をし
することが可 能 である.フィールド分 割 法 に関 して
たい場合に使用できる.
は,多 くの研 究 で用 いられている分 割 されたエリ
347
スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
図 8 フィールド分 割 法 における攻 撃 開 始 地 点 と攻 撃 開 始 地 点 のプレー重 心
図 9 目 視 プロット法 における攻 撃 開 始 地 点 と攻 撃 開 始 地 点 のプレー重 心
V.結論
観的にとらえることが可能であることを示した.また,
本 稿 では,サッカーのゲームパフォーマンスの
デジタル測 定 の不 可 能 な競 技 場 においても記 述
客観的 分析 尺度としてのプレー重心 を提案 し,フ
分析によって精度の高い測定が可能であるため,
ィールド分 割 法 ,目 視 プロット法 ,および 2 次 元
現場のコーチの視点の可視化やアナリストの発信
DLT 法の 3 つ測定方法で分析した.次に,2 次元
の補 助 が容 易 になる.これは,コーチの持 つ質 的
DLT 法と他の 2 法(記述分析法)の一致妥当性
な思考に量 的な客観性 を持たせることや,見た目
を検 討 した.その結 果 ,いずれの方 法 においても
には判 断 の困 難 な差 異 を明 確 にする効 果 をもた
プレー重 心 は散 布 したプレー回 数 の代 表 値 を示
らす.しかし,最 終 的 にはコーチの観 察 が不 可 欠
す尺 度 として妥 当 であること,また記 述 分 析 法 (フ
であり,本 稿 により提 案 されたプレー重 心 がその
ィールド分 割 法 ,目 視 プロット法 )がデジタル測 定
力の向上の一助となることを願う.
法(2 次元 DLT 法)と同等の精度を持つことが明
らかとなった.このことは,プレー重 心 が競 技 レベ
引用文献
ルやチームの経 済 的 規 模 ,データの即 時 的 利 用
・ 井上尚 武、渡邊健 、塩 川勝行 、平 田文夫 、清
の必 要 性 に応 じて,ゲーム様 相 をある一 点 から客
水 信 行 、金 高 宏 文 (1996)’94 ワールドカップ
348
スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012 年
方法、サッカー医・科学研究、20、15-18
サッカーにおける攻 撃 戦 術 の検 討 ‐選 手 のパ
・ 矢 竹 亮 、加 藤 朋 之 (2002)ストライカーに要 求
フォーマンスとボールの移動軌跡との関係から
されるプレーの分 析 ‐中 山 雅 史 選 手 タイプに
‐、鹿屋体育大学学術研究紀要、15、71-84
・ 城戸圭 介、柳田正 彦、森川達 也、草刈毅 司、
ついて‐、サッカー医・科学研究、22、197-202
池上敦子、大倉元宏、福井真司、鈴木滋
・ 吉 村 雅 文 、野 川 春 夫 、久 保 田 洋 一 、末 永 尚
(2002)サッカーゲームにおける新 しい記 述 分
(2002)サッカーにおける攻 撃 の戦 術 について
析 の提 案 ‐組 み作 業 分 析 とワークサンプリング
‐突 破 の選 手 ,フォローの選 手 ,バランスの選
法 の 応 用 ‐ 、 サ ッ カ ー 医 ・ 科 学 研 究 、 22 、
手 の動 きについて‐、順 天 堂 大 学 スポーツ科
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学研究、6 号、137-144
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