無形資産の評価を学ぶ(2) ~ (添付資料)

第5章
巻末添付資料
(資料 5.1)【製薬業界における仕掛中の研究開発プロジェクトの評価例:期待キャッシュ・フロー・アプローチ】
■
ファーマ社は、薬の開発、製造、販売を行う ABC 社を取得した。企業結合取引で取得した資産の中には、特定のがん
治療に適用される可能性がある化合物の研究開発プロジェクトが含まれている。取得日現在において当化合物は、米国
の食品医薬品局(FDA)の承認取得を目指し、フェーズⅡの臨床試験段階に進んでいる。大腸がん、前立腺がん(腫瘍
タイプ)への適応(インディケーション:indication)の開発が進められている。
■
各フェーズで承認が得られる確率は、過去の経験値に基づき、下の表のように考えられている。各適応に承認がおりる
確率は互いに独立している。また、それらを将来的に別の用途に用いることはできない。
開発フェーズ
次フェーズに進む確率
フェーズⅡ
15%
フェーズⅢ
75%
■
これらの指標に基づけば、それぞれの適応が商業化に成功する確率は、11.25%である(15%×75%=11.25%)。
■
各適応に対する税引後の開発費は、フェーズⅡで 5 百万ドル、フェーズⅢで 5 千万ドルと見積もられている。各フェー
ズの完了には 1 年を要し、一切の費用が期の始めに生じるものと想定されている。
■
2 つの適応の製品化後のキャッシュ・フローは、(製品の寿命を 8 年とみなして)次のように想定されている。(呈示額
はすべて、百万ドル単位で税引後のもの)
製品化後のキャッシュ・フロー
1 年目
2 年目
3 年目
4 年目
5 年目
6 年目
7 年目
8 年目
NPV
高
△61
43
122
195
281
305
329
342
975
低
△50
35
80
100
160
180
190
190
554
高
△68
47
135
217
311
339
366
379
1082
低
△56
39
90
105
166
190
205
210
593
大腸がん:
前立腺がん:
■
これらキャッシュ・フローの正味現在価値(NPV)の計算には、予測期間に適応されるリスクフリー・レートを用いた。
(計算を簡単にするため、割引率はイールド・カーブ全体にわたって一律 6%とみなした)。また、製品開発の残りの作
業を開始した日を起点として計算を行った。
■
各適応に対し、市場のポテンシャルが高い可能性は 30%で、低い可能性が 70%。製品開発が成功する確率は、過去同
様の化合物を開発したときの経験に基づいて設定している。
■
次のツリー図は、各適応のキャッシュ・フローの現在価値と、それぞれのパターンの確率を示したものである。
1/20
■
大腸がんの適応にかかるキャッシュ・フローの現在価値(確率加重平均した値)は、6,450 万ドルに等しい。
■
前立腺がんの適応にかかるキャッシュ・フローの現在価値(確率加重平均した値)は、7,120 万ドルに等しい。
■
2 つの適応に対する確率・評価額は互いに独立しているため、化合物の期待現在価値は、各適応の期待現在価値の合計
1 億 3,570 万ドルとなる。
■
大腸がんの場合を例にとって計算過程をみると、次のようになる。
製品化の結果 – ポテンシャル低
554 ドル×0.7×0.75×0.15=
43.63 ドル
製品化の結果 – ポテンシャル高
975 ドル×0.3×075.×0.15=
32.91 ドル
フェーズⅢの開発費
△47 ドル×0.15=
△7.05 ドル
フェーズⅡの開発費
△5 ドル×1=
△5.00 ドル
合計 64.5 ドル
2/20
(資料 5-2.1)【評価報告書の例:カバーレター】
2002 年 3 月 31 日
取得企業名:
住所:
貴社との合意に基づき、我々は以下の企業の無形資産の調査ならびに評価を行い、その結果を当報告書にまとめました。
評価対象会社名
(本社所在地:カリフォルニア)
当報告書における価値評価の目的は、評価対象企業の株式を取得企業が約 5,000 万ドルで取得したことに関し、2002
年 1 月 21 日(以下、取得日または評価日という)現在の無形資産の公正価値について、意見を示すことです。マネジメン
トが米国会計基準に基づき、対象会社の取得価額を取得した無形資産に配分するにあたって、我々の評価結果がその判断を
支援するものと理解しています。
当報告書は、意思決定にあたっての参考情報として、取得企業・対象企業のマネジメント、取得企業の独立監査人、およ
び両社の顧問弁護士が利用する目的のためにのみ作成されたものです。当報告書は、他の目的(有価証券の登録、購入また
は販売などが含まれますが、これらに限定されません)のために利用し、配布し、引用し、または参照するためのものでは
ありません。また、SEC に登録される文書内で参照されるか、我々の書面による同意を得た場合を除き、申請のために提出
されるものではなく、届出書または他のいかなる文書において、(全部もしくは一部が)参照されるためのものでもありま
せん。
財務報告目的での資産の公正価値とは、自発的な当事者間での強制や清算による処分以外の現在の取引において、資産が
購入される、あるいは売却される金額である、と定義されています。活発な市場における公表価格は最も確実な公正価値の
証拠とされ、入手可能な場合には、原則としてそのまま公正価値測定に用いることが要求されます。
そのような価格が存在しない場合には、自発的な買い手と売り手間での現在の取引において、資産が購入される、あるい
は売却されると思われる金額を見積もり、その額をもって公正価値とする必要があります。その際、その状況の下で入手可
能な最善の情報に基づいて、見積もりを行う必要があります。
公正価値の見積もりは、その状況の下で入手可能な限りにおいて、同様の資産の価格および価値評価額を考慮する必要が
あります。公正価値を算定するために選択された手法は、会計基準で定める公正価値の定義と整合している必要があります。
公正価値、将来の収入・費用、(必要であれば)割引率を見積もるにあたって市場参加者が用いるであろう前提・仮定を考
慮し、公正価値を算定する手法にそれらを織り込まなければなりません。
マネジメントから提供を受けた過年度および予測財務データは、AICPA の実務指針「Assets Acquired in a Business
Combination to Be Used in Research and Development Activities」に定める手続きに従って検討され、これらのデ
ータは、対象会社の経営状況および財務状況を反映しているものとみなしています。
当報告書は、次の内容からなります。
1.
当カバーレター(評価対象資産、評価の目的および範囲、公正価値の評価結果を示す)
2.
報告書本文(評価の目的および範囲、対象事業の沿革および事業内容、経済的な見通し、業界動向、評価対象
3/20
資産についての概要、評価に用いた評価手法および相互の関連についての説明、公正価値の評価結果、巻末別
表、前提条件(計算過程の明細等を含む)、評価に関する制限、評価人による表明保証、役務提供に関する一般
条項)
3.
4.
別表
(a) 別表 A:
価値評価要約
(b) 別表 B:
対象企業の企業価値評価
(c) 別表 C:
既存技術(製品 PT)の評価
(d) 別表 D-1~D-4:
開発中の技術の評価
(e) 別表 E:
研究開発プロジェクトの進捗状況の分析
(f) 別表 F:
無形資産の償却による節税効果の計算
前提条件、評価に関する制限、評価人による表明保証、役務提供に関する一般条項 [注:当報告書サンプルで
は割愛]
評価にあたって作成された調書類は評価人が保有しており、申請がなされ、取得企業の同意を得た場合に開示されます。
評価の対象となった無形資産は、既存のソフトウェア技術、既存製品への応用技術、開発中の技術、競業避止義務に関す
る 3 契約、商標/商号、顧客基盤です。一方、当座資産、有形固定資産、その他の資産、製品販売およびプロフェッショナ
ル・サービス事業にかかるのれんは、当報告書における最終的な評価の対象ではありません。しかしながらそれらの資産の
多くは、貢献資産チャージの計算を通じて評価され、無形資産の評価に織り込まれていることになります。また、取得した
仕掛中の試験研究プロジェクトについては、予測財務情報から、当該プロジェクトとは無関係のプロフェッショナル・サー
ビス事業の影響を除いて評価を行っています。(当報告書の別表 B を参照)
対象資産の評価を行うにあたって、監査済みの過年度財務諸表、未監査の財務情報、その他の記録・資料、対象企業およ
び評価対象資産にかかる将来財務情報(PFI)の提供を受けました。我々は、当該 PFI の達成可能性について何ら意見を表
明するものではありません。実際の結果は予測と異なる場合があり、差異の程度が大きくなる可能性もあります。
我々は、AICPA の実務指針で定める、合意された手続(agreed-upon procedures)、調製(compilation)、調査
(examination)のいずれをも行っておりません。しかしながら、価値評価の過程で用いた PFI の妥当性を検証する一定の
手続きを行っております。これらの手続きには、次のようなものがあります。
(1) PFI で予想されている、技術のライフ・サイクルにおける販売数量・平均売価の推移と、対象会社・業界の過去実績
との比較(業界の情報は、アナリスト・レポートによるもの)
(2) PFI で予想されている費用(売上高比)と、対象会社・同業他社の過去実績との比較
(3) PFI で予想されている、技術のライフ・サイクルにおける販売単価の推移と、対象会社・業界の過去実績との比較(業
界の情報は、アナリスト・レポートによるもの)
(4) PFI から理論上導かれる企業価値と、実際に支払われた取得価額から導かれる企業価値との比較
これらの比較で重要な差異が特定された場合、理由を把握し、その妥当性について検討しました。これらの手続きに基づ
き、我々は、PFI の内容は妥当で、無形資産の公正価値の評価に用いてよいとの判断に至りました。
以上の調査・分析、評価アプローチ、評価手法に基づき、2002 年 1 月 21 日現在、対象会社の評価対象無形資産の公正
価値は合計で$18,493,600 となりました。(内訳は以下のとおり)
4/20
既存技術
6,398,100
開発中の技術
7,892,100
競業避止義務
1,849,200
商標/商号
顧客リスト
合計
546,200
1,808,000
18,493,600
評価結果の要約は、当報告書の別表 A に呈示しています。
(評価人氏名、または評価会社名)
5/20
(資料 5-2.2)【評価報告書の例:はじめに】
■
当報告書における価値評価の目的は、取得企業による対象会社の株式の取得に関し、2002 年 1 月 21 日(取得日また
は評価日という)現在の無形資産の公正価値について、意見を示すことです。マネジメントが米国会計基準に基づき、
対象会社の取得価額を取得した無形資産に配分するにあたって、我々の評価結果がその判断を支援するものと理解して
います。
■
当報告書は、意思決定にあたっての参考情報として、取得企業・対象企業のマネジメント、取得企業の独立監査人、お
よび両社の顧問弁護士が利用する目的のためにのみ作成されたものです。当報告書は、他の目的(有価証券の登録、購
入または販売などが含まれますが、これらに限定されません)のために利用し、配布し、引用し、または参照するため
のものではありません。また、SEC に登録される文書内で参照されるか、我々の書面による同意を得た場合を除き、申
請のために提出されるものではなく、届出書または他のいかなる文書において、
(全部もしくは一部が)参照されるため
のものでもありません。
■
企業結合取引の会計処理・財務報告については、以下の会計基準・実務指針を考慮する必要があると理解しています。

SFAS No.141(Business Combination)

SFAS No.142(Goodwill and Other Intangible Assets)

SFAS No.2(Accounting for Research and Development Costs)

FASB 解釈指針第 4 号(Applicability of SFAS No.2 to Business Combinations Accounted for by the
Purchased Method)

AICPA 実務指針(Assets Acquired in a Business Combination to Be Used in Research and Development
Activities)(1)
■
財務報告目的での資産の公正価値とは、自発的な当事者間での強制や清算による処分以外の現在の取引において、資産
が購入される、あるいは売却される金額である、と定義されています。活発な市場における公表価格は最も確実な公正
価値の証拠とされ、入手可能な場合には、原則としてそのまま公正価値測定に用いることが要求されます。
■
そのような価格が存在しない場合には、自発的な買い手と売り手間での現在の取引において、資産が購入される、ある
いは売却されると思われる金額を見積もり、その額をもって公正価値とする必要があります。その際、その状況の下で
入手可能な最善の情報に基づいて、見積もりを行う必要があります。
■
公正価値の見積もりは、その状況の下で入手可能な限りにおいて、同様の資産の価格および価値評価額を考慮する必要
があります。公正価値を算定するために選択された手法は、会計基準で定める公正価値の定義と整合している必要があ
ります。公正価値、将来の収入・費用、
(必要であれば)割引率を見積もるにあたって市場参加者が用いるであろう前提・
仮定を考慮し、公正価値を算定する手法にそれらを織り込まなければなりません。(2)
■
評価の対象となった無形資産は、既存のソフトウェア技術、既存製品への応用技術、開発中の技術、競業避止義務に関
する 3 契約、商標/商号、顧客基盤です。
■
一方、当座資産、有形固定資産、その他の資産、製品販売およびプロフェッショナル・サービス事業にかかるのれんは、
当報告書における最終的な評価の対象ではありません。しかしながらそれらの資産の多くは、貢献資産チャージの計算
を通じて評価され、無形資産の評価に織り込まれていることになります。
■
また、取得した仕掛中の試験研究プロジェクトについては、予測財務情報から、当該プロジェクトとは無関係のプロフ
ェッショナル・サービス事業の影響を除いて評価を行っています。(当報告書の別表 B を参照)(3)
6/20
■
マネジメントから提供を受けた過年度および予測財務データは、AICPA の実務指針「Assets Acquired in a Business
Combination to Be Used in Research and Development Activities」に定める手続きに従って検討され、これら
のデータは、対象会社の経営状況および財務状況を反映しているものとみなしています。(4)
■
対象資産の評価を行うにあたって、監査済みの過年度財務諸表、未監査の財務情報、その他の記録・資料、対象企業お
よび評価対象資産にかかる将来財務情報(PFI)の提供を受けました。我々は、当該 PFI の達成可能性について何ら意
見を表明するものではありません。実際の結果は予測と異なる場合があり、差異の程度が大きくなる可能性もあります。
■
我々は、AICPA の実務指針で定める、合意された手続(agreed-upon procedures)、調製(compilation)、調査
(examination)のいずれをも行っておりません。しかしながら、価値評価の過程で用いた PFI の妥当性を検証する一
定の手続きを行っております。これらの手続きには、次のようなものがあります。
(5) PFI で予想されている、技術のライフ・サイクルにおける販売数量・平均売価の推移と、対象会社・業界の過去実績
との比較(業界の情報は、アナリスト・レポートによるもの)
(6) PFI で予想されている費用(売上高比)と、対象会社・同業他社の過去実績との比較
(7) PFI で予想されている、技術のライフ・サイクルにおける販売単価の推移と、対象会社・業界の過去実績との比較(業
界の情報は、アナリスト・レポートによるもの)
(8) PFI から理論上導かれる企業価値と、実際に支払われた取得価額から導かれる企業価値との比較
■
これらの比較で重要な差異が特定された場合、理由を把握し、その妥当性について検討しました。これらの手続きに基
づき、我々は、PFI の内容は妥当で、無形資産の公正価値の評価に用いてよいとの判断に至りました。(5)
7/20
(資料 5-2.3)【評価報告書の例:業界動向(インターネット業界)】
■
インターネット関連市場は、絶えず進化していて、「技術革新のスピードが速い」「新製品が頻繁に導入される」などの
言葉で特徴付けられるように、変動の非常に激しいマーケットです。グラフィックの専門家に対するニーズも急速に変
化し、既存の紙ベースの出版だけでなく、オンライン出版においてもグラフィックに力を入れるようになっています。
■
コンシューマ・ソフトウェア関連市場は、デジタル画像の作成・ウェブ出版に焦点を当てれば、競争が熾烈で、価格に
対する消費者の反応が大きく、ブランドを認知してもらうことが特に重要で、小売販売される、という特徴をもってい
ます。
■
ダイナミック・メディア関連市場は、専門家・マニア・一般ユーザーの関心が、アナログのビデオツールからデジタル
ビデオカメラ製品に移っているため、ますます競争が激しくなっています。(6)
■
インターネットでの B-to-C コマースの成功は、企業間取引に同様の効果を求める企業を勇気付けるものでした。企業
は、新しい市場に参入し、サプライチェーンを強化し、激しい競争に打ち勝ちグローバル・マーケットで生き残るとい
う課題を克服するために、ますますインターネットを利用するようになっています。
■
テクノロジー関連の調査を行うフォレスター・リサーチは、米国企業が関与する企業間のインターネット取引は、1999
年の 1,090 億ドルから 2003 年の 1.3 兆ドルに成長すると見ています。また同社は、2003 年までに、B-to-B 取引
の市場は B-to-C 取引の市場の 10 倍以上の規模になると見込んでいます。(7)
■
取引コストを削減し営業効率を高めるため、まず始めに、サプライチェーンの自動化、特に原材料・半製品・その他の
直接資材の取引に焦点があてられました。企業内における直接資材の調達プロセスの効率を高めるために、大企業のほ
とんどはこれまで、ERP やサプライチェーンを自動化するシステムに依存してきました。
■
これらのシステムは、複雑なクライアント・サーバー型の構造となっていて、その仕組みを熟知した比較的少数のユー
ザーに利用されることを想定しています。また、ERP システムは通常、サプライヤーや顧客のシステムと結びついてい
るわけではないので、組織の外部で生じる無駄なコスト・非効率を把握するものではありません。(8)
■
購入者・サプライヤー双方にとって非効率な調達サイクルの改善を目指して、異なるシステムをつなぐ様々なソリュー
ションが開発されてきました。その中で最も成功したのは、企業間の受発注システム(EDI)を既存の ERP システムと
統合させるというものでした。EDI は、一定の直接資材の売買を自動で行うこと、特に少数のサプライヤーとの金額の
大きい取引に広く用いられています。
■
しかしながら、EDI は定型化された一定の取引を実行する目的で作られているため、多くの購入者・サプライヤーが参
加し、様々な商品・サービスを扱い、値段の安い取引が多く行われるような状況には適していません。さらに、EDI は
リアルタイムで取引相手と情報交換するわけではないので、サプライヤー側の価格・在庫の有無・注文状況について、
購入者側が最新情報を把握するのが困難です。最後に、ERP・EDI のシステムのライセンスを取得し、導入し、管理し
ていくのには費用がかかり、複雑であるため、それらのシステムは規模が極めて大きい組織にしか向いていません。
(9)
■
IT・通信関連設備、什器備品、旅費交通費・交際費関連、プロフェッショナル・サービス、その他定期的に購入するア
イテムといった、間接的な資材・サービスの調達プロセス改善にあたっても、同様のソリューションが提供されていま
す。これらの資材・サービスの売買は、B-to-B 取引全体の中で大きな割合を占めています。調達プロセスには、企業
内の多くの作業グループ・部課組織が関与しているため、企業内ユーザーの数も膨大にのぼることがよくあります。
8/20
■
その結果、間接資材の調達プロセスは、購入コストの高さ(紙ベースで行われ、手作業によるプロセスがいまだに支配)、
調達部内で付加価値の低い活動にあてられる時間の浪費、購入者とサプライヤーのコミュニケーションの欠如など、い
くつもの非効率にはまり込んでいます。(10)
■
これまでデスクトップベースで、調達業務に関する多くのソリューションが提供されてきましたが、それらは専ら、企
業内での間接的な資材・サービスの調達プロセスを自動化させることに焦点をあてていました。これらのソリューショ
ンは、購買についての社内ルールを統一し、サプライヤー管理・購入権限の設定・申請承認・発注プロセスについて効
率を改善する役割を果たします。
■
しかしながら、こうした買い手側に特化したアプローチでは、サプライヤー側(売り手側)で生じる無駄なコスト・非
効率の改善に取り組むことができません。また、通常は双方向性を欠いており、価格・在庫の有無・注文状況を確認し
たいというユーザーのニーズに応えることができず、また他方で、サプライヤー側の同様の情報をアップデートできま
せん。その結果、内部ユーザー・サプライヤー共に、コストの高い、電話・FAX によるプロセスに頼らざるを得ないの
が現状です。(11)
■
インターネット利用の増加に伴って生じているトレンドの 1 つに、顧客のセルフ・サービスというものがあります。消
費者が銀行の窓口ではなく、専ら ATM を通じて手続きをするようになったのと同様に、インターネットの世界でも、
幅広い分野のビジネスが顧客に対してセルフ・サービスのメニューを提供するようになっています。
■
例えば、消費者は現在、自由な時間に自分のコンピューターからアクセスしてショッピングを楽しみ、分からないこと
があればカスタマー・サービスに問い合わせをすることも出来ます。
■
(IT 分野の調査・助言を行う)ガートナー・グループによれば、顧客からのコンタクト・問い合わせのうち、e-mail
もしくはウェブ上のフォーマットを通じて受け取る割合が、2001 年までに 25%にまで達するだろうとのことです。
■
企業は、このウェブ上での双方向のやり取りを通じて、それまでの顧客サービス・販売活動を強化しようとしています。
電話によるカスタマー・サービスが、その例です。顧客との双方向のやり取りの手段がインターネット・e-mail・電話
と多様化する中、電話によるカスタマー・サービスのシステムをウェブの技術に置き換えるのではなく、それらを統合
する方法を積極的に模索しています。
■
多くのビジネスは、これらのメディアをコーディネートし、顧客に一貫したアクセスを提供するために、対象会社の製
品のようなソリューションを求めています。(12)
9/20
(資料 5-2.4)【評価報告書の例:過年度の財務分析】
はじめに
■
対象会社は、カリフォルニアを拠点にソフトウェア製品およびプロフェッショナル・サービスを提供する会社で、デジ
タルカタログおよびポートフォリオの作成によって、過去に撮影された写真素材と技術の融合を実現させました。歴史
的に重要な写真画像がデジタル化されてデータベースに記録されており、対象会社の顧客はこうしたリレーショナル・
データベースを用いて、自由な時間にそれら 1 つ 1 つを閲覧することができます。対象会社の提供するウェブベースの
ソリューションは、顧客の編集チームのニーズをサポートします。対象会社の顧客リストには、それぞれの業界の上位
に位置する新聞・雑誌出版社の多くが含まれています。
■
(13)
対象会社は 1995 年に 5 人で創業し、2002 年度には従業員 54 人・売上高 30 百万ドルを超えるまでに成長しまし
た。対象会社の売上は、ほぼ全て米国市場からもたらされています。対象会社の既存製品は 1999 年に発売され、まも
なくライフ・サイクルを終えようとしています。(14)
■
デジタル画像業界は、技術革新のスピードが早く、変化も激しく、新しい競合製品が頻繁に導入される業界です。競争
力を維持するために、対象会社は大規模な研究開発投資を継続して行う必要があり、既存製品を改良し、新たに競争力
のある製品を導入し、ターゲット市場で価格/パフォーマンスの優位性を維持しなければなりません。(15)
■
対象会社の研究開発プログラムは、デジタル画像処理のためのソフトウェア技術を進化させることに注力しており、コ
ア製品・サービスの強化をその狙いとしています。自社の技術開発ロードマップの方向性が、業界を牽引するベンダー
の方向性に沿うものとなるよう、対象会社はかなりのリソースをつぎ込んでいます。このことは、当報告書で詳しく述
べているように、対象会社の現在の研究開発が、次世代のソフトウェア技術をテーマとしていることからも裏付けられ
ます。(16)
ソフトウェア・グループ
■
ウェブ上ですぐに利用できる対象会社のソフトウェア・ソリューションは、コスト削減・売上増加をもたらし、顧客の
技術への投資を最大限活用することにつながります。製品 PT は、性能の高い編集ツールで、マネジメント、営業、カ
スタマー・サービス、製造チームが簡単にかつ効果的に結びつき、どの場面でも顧客・協力会社との関係を高めてくれる
製品です。小規模の出版グループから多国籍企業まで会社の規模を問わず、対象会社は、今日のビジネス・ニーズに対
するソリューションをもたらします。(17)
■
製品 PT は、デジタル画像と企業のデータを簡単な操作で効果的に組み合わせることにより、思い通りのマテリアルを
瞬時に作成することができます。事前にフォーマットされたレイアウトを用いると、レイアウトのカスタマイズ、画像
のポートフォリオ管理、商品の組み合わせを簡単に行うことができます。また、ウェブ機能によりサプライ・チェーンの
参加者が同じ環境でつながり、共同作業を行うことが可能となります。(18)
プロフェッショナル・サービス
■
対象会社のプロフェッショナル・サービス・グループは、顧客がソフトウェア製品を最大限に活用できるように、コン
サルティング・トレーニング・ソフトウェアのインストールなどのサービスを提供しています。サービスは、時間ベー
10/20
ス(1 時間当たりの単価×所要時間)+実費の料金で提供されます。(19)
■
対象会社の過年度財務諸表を分析し、過去の業績・経営に関するトレンドについて把握をしました。対象会社のマネジ
メントからは、2000 年 12 月末および 2001 年 12 月末時点の監査済み財務諸表が提供されました。以下は、それ
らの中から主要な項目を抜粋したものです。

売上高:2001 年 12 月までの 12 か月間における対象会社の売上高は、約 25 百万ドル。これは 1999 年度か
ら年平均 25%で成長していることを示している。

営業費用:1999 年度から 2001 年度にかけて、売上原価は平均 15%(売上高比)で推移。同じ時期、販売費
は 30%、一般管理費は 22%、研究開発費は 12%で推移した。

営業利益:1999 年度から 2001 年度にかけて、営業利益は平均 21%(売上高比)で推移。金額ベースでは、
約 2 百万ドルの水準から 5 百万ドルへと増加した。

ROE:2000 年度および2001 年度において、対象会社の ROE はそれぞれ 21%・20%となった。

株主資本:2000 年 12 月末から 2001 年 12 月末にかけて、株主資本は 25 百万ドルから 30 百万ドルへと増
加した。

流動比率:2000 年度および 2001 年度において、対象企業の流動比率は平均で 3.2 倍であった。このことは、
対象会社には流動負債 1 ドルに対して流動資産が 3.2 ドルあることを意味している。

有利子負債比率:2001 年 12 月末時点において、対象会社の負債水準はごくわずかである。

対象会社の過去 5 年間の財務情報:(20)
会計年度(12 月決算) (単位:ドル)
売上高
営業費用
1997
1998
1999
2000
0
5,100
9,920 19,840
24,800
5,000
7,000
7,936 15,475
19,592
EBITDA (5,000)(2,000) 1,984
減価償却費
200
200
300
税引前利益(5,200)(2,200)1,684
所得税
純利益
0
0
0
(5,200)
(2,200) 1,684
11/20
2001
4,365
5,208
400
500
3,965
4,708
0
3,965
1,351
3,357
(資料 5-2.5)【評価報告書の例:価値分析および評価アプローチ】
評価対象資産の概要
はじめに
■
技術集約型企業を取得した場合、無形資産の評価は特に重要となります。こうした企業が持つ資産の中で最も価値ある
ものは、通常、取得前のバランス・シートには計上されていないからです。次のようなものが例としてあげられます。
(a) 既存技術
(b) 基礎技術、既存製品への応用技術、開発中の技術
(c) 顧客関連の無形資産(例:販売ネットワーク、顧客基盤)
(d) 商標、商号、および関連する知的財産
(e) 競業避止義務
■
それぞれの無形資産の公正価値を算定するにあたって、以下に示す項目をはじめ、当該資産に固有の要因について考慮
する必要があります。

市場参加者にもたらされる経済的・金銭的便益

残存する経済耐用年数

相対的なリスクの程度(21)
評価対象無形資産の要約
■
価値分析を行うにあたり、まず、評価日現在対象会社にはどのような無形資産が存在するかについて検討しました。企
業結合取引の経済性の評価、関連資料の分析、対象会社のマネジメントへのヒアリングを通じて、いくつかの候補を特
定しました。
■
検討の結果、次の 5 つの無形資産(SFAS No.141 第 39 項に定める、のれんとは別に認識する基準を満たすもの)
が識別されました。
(a) 既存技術
(b) 開発中の技術
(c) 競業避止義務に関する契約
(d) 商標・商号
(e) 顧客リスト(22)
技術に関する会計基準の検討
■
ある技術の開発が既に完了しているか、未だ開発中なのかを判断するにあたって、SFAS No.2 および FASB 解釈指針
第 4 号の規定を参照しました。(23)
■
1974 年の 10 月に公表された SFAS No.2 は、それまでに存在していた多くの実務慣行を集約する目的で、研究開発
に関する会計処理の指針を提供しています。当基準は 4 つの項目からなり、研究開発活動の識別、研究開発費の要素、
会計処理、開示について規定しています。(24)
■
SFAS No.2 では、研究開発活動を次のように定義しています。
(f) 研究(Research):
12/20
-
新しい製品・サービスまたは新しい工程・技術を開発すること、既存の製品や工程に重要な改善をもたらす
こ と に お い て 有 用 な 新 し い 知 識 の 発 見 を 目 的 と す る 計 画 的 な 検 査 ( search ) ま た は 批 判 的 な 調 査
(investigation)
(g) 開発(Development):
-
研究の結果やその他の知識の、販売や使用を意図する新しい製品や工程のためや既存の製品の重要な改善の
ための計画・デザインへの具現化
-
概念の構築、デザイン、代替製品のテスト、プロトタイプの作成、実験装置の作動を含む
-
変更が改善にあたるとしても、既存の製品、生産ライン、製造工程、その他の継続した活動の通常・定期的
な変更は含まれない。また、市場調査や市場のテスト活動は含まれない(25)
■
研究開発費には、次のようなものが含まれます。
(h) 研究開発活動に携わる者の人件費
■
(i)
他の目的に使用できない(no alternative future use)材料・機械・装置
(j)
外部から調達した無形資産のうち、他の目的に使用できず、そのため単独では経済価値を持たないもの(26)
SFAS No.2 の規定によれば、研究開発費の会計処理は、発生時に費用処理することとなっています。また、必要事項
の開示も求められています。(27)
■
1975 年 2 月に発行された FASB 解釈指針第 4 号は、企業結合取引で取得した研究開発関連資産の会計処理について
規定しています。特に当指針は、被取得企業の研究開発活動から生じる資産(assets resulting from R&D activities of
the acquired enterprise)と、結合企業の研究開発活動に用いられる資産(assets to be used in R&D activities of
combined enterprise)とを区別しています。
■
APB 意見書第 16 号(現行の SFAS No.141)によれば、それらの資産に配分される取得原価は、被取得企業の財務
諸表に計上されている金額ではなく、取得企業が企業結合取引の対価として支払った金額に基づいて計算されることに
なります。
■
また、SFAS No.2 によれば、研究開発活動に用いられる資産のうち、他の目的に使用できないものについては、資産
に配分された取得原価を費用処理するものと規定しています。(28)
■
1998 年 11 月、AICPA はタスクフォースを召集し、企業結合取引を通じて取得した仕掛中の研究開発関連資産につ
いて、会計処理・価値評価・監査のベスト・プラクティスを取りまとめました。AICPA はこれらの内容を記載した、
「Assets Acquired in a Business Combination to Be Used in Research and Development Activities」という
実務指針を発行しました。(29)
■
当報告書の情報は、当実務指針の手続きに従って記載されているものです。(30)
■
開発中の技術については、評価日現在における進捗状況・これまでに達成した課題を把握するとともに、対象会社・取
得企業のマネジメントにヒアリングを行い、それぞれの技術を用いた製品の予定リリース日について確認を行いました。
当報告書に記載の指針・事実を全て考慮し、評価対象技術が完成しているか開発中であるかの判断を行いました。
(31)
13/20
■
対象会社・取得企業のマネジメントへのヒアリング、無形資産の識別と評価をテーマとする会計関連文献の内容、研究
開発の進捗状況(既に完了しているか、開発中か)に基づき、評価日現在における対象会社の無形資産は、以下のセク
ションに示すように分類されています。(32)
既存技術
■
製品 PT は、性能の高い編集ツールで、デジタル画像と企業のデータを簡単な操作で効果的に組み合わせることにより、
思い通りのマテリアルを瞬時に作成することができます。事前にフォーマットされたレイアウトを用いると、レイアウ
トのカスタマイズ、画像のポートフォリオ管理、商品の組み合わせを簡単に行うことができます。また、ウェブ機能に
よりサプライ・チェーンの参加者が同じ環境でつながり、共同作業を行うことが可能となります。データベース機能とイ
ンターネット閲覧機能の組み合わせにより、顧客の製品 PT ソリューションに対し、世界中から即座にアクセスするこ
とが可能となります。(33)
■
製品 PT は 1998 年~1999 年度にかけて開発、1999 年 6 月に製品化され、2002 年度の残りの期間にわたって販
売される予定です。製品 PT に組み込まれている技術はまた、ソフトウェア A・D にも活用される予定です。よって、
既存技術の公正価値は、製品 PT にかかる超過収益と、製品 A・D にかかる予想収益の一部(基礎技術の利用料として、
両製品のキャッシュ・フローにチャージされる)で構成されることになります。(34)
開発中の技術
■
ソフトウェア A:製品化されれば、当ソフトは 2 つのモジュールを基本製品の中に組み込むことになります。その 1
つがデザイン・モジュールで、新たなレイアウトを 100 種類用意しており、さらに 1,000 種類の追加が可能です。も
う 1 つがスライド・モジュールで、CD-ROM や e-mail ベースのスライド・ショーを作成し、顧客に配信することが
可能となります。(35)
■
ソフトウェア B:パッケージソフト B は、LAN およびインターネット上で(販売・支払いなどの)全ての機能を持つ
店舗を作成することができる、出版業界向けのツールです。グラフィック担当者がこれらのツールを用いて、店舗のイ
メージをメンテナンスします。こうすることで、販売効果を高め、実際に店舗を開発するとした場合にかかるコストを
大幅に削減することができるようになります。(36)
■
ソフトウェア C:パッケージソフト C は、グループ単位で計画・販売を管理する技術で、それまでの手作業での管理か
ら、ネットワーク化され、組織化され、拡張性のある管理を可能とするものです。製品開発、製造、販売計画、営業、
管理業務向けの製品です。当ツールによって利用者の売上が 10%増加し、費用が 45%減少し、生産性が 145%上昇
することを想定しています。(37)
■
ソフトウェア D:当ソフトは、ウェブ上でデジタル素材・作業フローの管理をするためのツールで、コンテンツ制作・
フォトスタジオ向けの製品です。膨大な量のデジタル画像を記録し、写真素材・編集作業・
(スタイル・編集・利用に関
する)履歴情報の3点をコーディネートするような設計となっています。当ソフトはまた、どこで素材がロードされ、
どこで誰が画像を撮影し、誰が画像を編集したかといった、デジタル化される素材の取扱状況についても記録をします。
■
製品化されれば、当ツールは生産性についての計画・実績比較をレポートし、素材の原版・編集版の管理を行います。
そして、当ツールを用いて顧客が画像をチェックし、スタイル・編集に関する指示を出すことができるようになります。
14/20
さらに、画像のコピーを作成してウェブサイト上に組み込み、顧客が旧式のシステムを利用していたとしても、それと
の互換性を持たせることができるようになります。(38)
■
開発中の技術それぞれについて、開発の進捗状況を分析し、プロジェクトが未完に終わるリスクを反映させる目的で割
引率の調整を行いました。評価日までに発生した累積コスト、今後開発完了までに要するコスト、および予定開発コス
ト合計の情報を入手し、コストベースでの進捗率を計算しました。また、マネジメントへのヒアリングを行い、評価日
までに解決された技術的課題、今後解決すべき課題を把握しました。これらを総合的に判断して、最終的な進捗率を決
定しました。(別表 E 参照)(39)
競業避止義務に関する契約
■
例えば、非取得企業の元幹部が企業結合取引後に独立して、取得企業と同じ業務を行う場合があります。競業避止義務
の公正価値は、取得企業がそうした競争から守られることに由来しています。そのような競合状態になれば、取得資産
の価値は著しく侵食される可能性があります。評価日現在、非取得企業の元幹部 3 人との間で、3 年間の競業避止義務
に関する契約が結ばれています。[当実務指針の範囲外のテーマなので、当無形資産の公正価値の計算方法については割
愛](40)
商標/商号
■
対象会社の社名は市場で知名度があり、取得企業は今後も当社名を利用し続ける意向です。エンド・ユーザーの認知度お
よび商標/商号は、その他の無形資産とは別の資産として価値が生まれる場合があります。
■
商標とは、文字、単語、シンボル、デザイン、またはそれらの組み合わせからなるもので、ある企業が自社の製品を特
定し、競合のものと区別するために用いられます。商標権を維持していくにあたって、以前から自社製品に商標を継続
的に利用しているという事実が重要となります。
■
商号には、法律上の商標だけでなく、その呈示方法(presentation)
・イメージも含まれます。[当実務指針の範囲外の
テーマなので、当無形資産の公正価値の計算方法については割愛](41)
顧客リスト
■
2001 年 12 月 31 日現在、対象会社の顧客アカウントの数は、約 100 件にのぼります。当事業において顧客アカウ
ントは非常に重要な資産です。一度購入した経験のある顧客は、再びその会社の製品を購入する傾向があり、対象会社
にさらなる売上をもたらす可能性が高いからです。同レベルの顧客基盤を開拓するためには、マーケティング活動・ト
レーニング・初期費用の負担などが必要ですが、当資産があれば、取得企業はそのような負担の重複を避けることがで
きます。[当実務指針の範囲外のテーマなので、当無形資産の公正価値の計算方法については割愛](42)
価値評価の概要
■
評価対象資産は、当報告書の冒頭で定義した公正価値に基づいて評価されています。(43)
■
対象会社の過年度の財務分析、事業および評価対象資産の概要については、当報告書で別途呈示しています。対象会社
の業績予測を分析し、対象会社・取得企業のマネジメントと共に直近および予想キャッシュ・フローについて議論しまし
た。その結果、それらは価値計算にあたって合理的なものであると判断しました。(44)
15/20
■
各無形資産の公正価値を算定するにあたっては、特に次のような要因を考慮しました:
(k) 各無形資産の範囲、特徴、および効用
(l)
無形資産によってもたらされる売上の内容、またはコスト削減の内容
(m) 各無形資産の機能的陳腐化または経済的陳腐化の内容と発生時期
(n) 各無形資産に投資をする場合の相対的なリスク、および不確実性(45)
■
取得した開発中の技術については、AICPA の実務指針に従い、当初の目的以外の使用方法が存在するか否かを検討し
ました。対象会社の研究開発プロセスは、明確な特徴のある新しい製品を実現することに特化しています。それらの技
術については、現行プロジェクトが設定した目的以外に、別の使用方法は無いものと判断しました。(46)
■
無形資産の公正価値の算定にあたっては、次の 3 つのアプローチを検討しました。
(o) マーケット・アプローチ
(p) インカム・アプローチ
(q) コスト・アプローチ(47)
■
マーケット・アプローチは、類似する資産に支払われた直近の市場価格を把握し、評価対象資産に特有の状況を反映さ
せるための調整を行って、最終的な評価額とする方法です。一般的に、無形資産は市場を通じてではなく企業結合取引
を通じて売買されるため、当アプローチは採用しないこととしました。(48)
■
インカム・アプローチでは、資産の所有がもたらす将来の経済的便益の現在価値に基づいて、公正価値が計算されます。
当アプローチで最も重要なのは、評価対象資産にかかる潜在的な収益力(earnings potential)、および収益獲得にか
かるリスクについて分析することです。将来のネット・キャッシュ・フローを、市場に基づくリターン・レートで現在価
値に割り引くことで、価値計算を行います。
■
実施した分析に基づき、価値計算に用いた将来キャッシュ・フローによって、合理的に信頼性のある公正価値の見積もり
ができるものと判断しました。当報告書では、既存技術・開発中の技術・競業避止義務・商標/商号の評価にあたって当
アプローチを採用しました。
■
顧客リストの評価については、当資産に直接帰属するキャッシュ・フローの金額を把握することができないため、当アプ
ローチは採用しないこととしました。(49)
■
コスト・アプローチは、無形資産の評価に用いる場合、当該資産を再び複製または再調達する場合にかかるコストを把
握し、機能的・経済的陳腐化を考慮するために減価償却費を差し引いて、最終的な公正価値を導く方法です。仮に、評
価対象資産を容易に再調達・再複製できる場合には、当アプローチを用いた算定結果を評価額の上限とみなすことがで
きます。類似資産の複製コストを超える金額を払ってまで、既存の資産を購入しようとする投資家はいないと思われる
からです。当報告書では、顧客リストの評価にあたって当アプローチを採用しました。(50)
16/20
(資料 5-2.6)【評価報告書の例:インカム・アプローチ】
既存技術、および開発中の技術の評価
■
既存技術、および開発中の技術の公正価値は、関連製品の販売からもたらされるキャッシュ・フローを現在価値に割り引
いて見積もります。(51)
■
コスト削減効果・定期的に発生する収益・販売による収入といった将来の経済的便益を前提に、現在の資産価値が成り
立っている。インカム・アプローチにおける割引キャッシュ・フロー法は、その評価手法から明らかなように、こうした
考え方に立脚するものです。(伝統的アプローチと呼ばれる手法の下では、)市場が要求するリターン・投資に内在する
リスクを反映した割引率を用いて、将来のネット・キャッシュ・フローを現在価値に割り引くことで、評価額の算定が行
われます。(52)
■
評価にあたってマネジメントから我々評価人に対し、(a)既存技術を採用している製品の売上高、および(b)開発中
の技術を採用することとなっている製品の売上高の予測が示されました。当該予測の内容は、その合理性が検討された
後、評価モデルに織り込まれています。また、(a)と(b)に対応する、売上原価・販売費・一般管理費などの営業費
用の予測についても、マネジメントからの提供を受けました。当該費用予測は、対象会社の過年度の費用水準および同
業他社等のコスト構造と比較し、合理的なものと判断されました。(53)
■
また、それぞれの開発中の技術に関し、今後研究開発終了までに生じると思われる費用の見積もりが示されました。評
価日までに発生した研究開発費とこれらの費用を合計し、同様の製品開発にかかった費用との比較検証が行われました。
マネジメントによるこれらの費用の見積もりは合理的なものと判断され、評価モデルには追加の営業費用として反映さ
れています。(54)
既存技術
■
既存技術は、製品 PT の現行版からなります。当製品は、2002 年度いっぱいの販売後にソフトウェア A に置き換わる
予定です。2002 年度の売上高は 9 百万ドルと予想されており、これは 2001 年度売上高に予想された成長率をかけ、
2002 年の終盤にソフトウェア A がリリースされるのに合わせて下方修正されたものです。費用については、対象会
社の過年度実績と市場参加者のデータを踏まえて見積もられています。(55)
■
既存技術はまた、ソフトウェア A および D の開発に活用される予定です。既存技術の貢献は 2006 年度まで続くもの
と想定されています。つまり、既存技術の残存耐用年数は 5 年と見込まれています。開発中の技術に関する予測営業利
益の計算にあたって、これらは、既存技術へのロイヤリティ(貢献資産チャージ)の支払いという形で織り込まれてい
ます。(56)
■
ロイヤリティ(貢献資産チャージ)の金額を適切に見積もるために、これらの技術のマージンの分析を行いました。
「The
Encyclopedia of Patent Practice and Invention Management」に掲載された記事で、著者の Albert S. Davis, Jr.
氏は次のように述べています。
「当事者の交渉によって合意に至ったケース、裁判所により損害賠償として課せられたケースの双方について、多くの
17/20
事例を分析すれば、(この範囲の外に多くの例外があるものの、)25%~33.3%のロイヤリティ・レートがおおまかな
平均であることが分かる。」(57)
■
期待されるマージン、開発中の技術に採用される基礎技術の割合を考慮した結果、観察されたレートの範囲のうち最も
上の値が合理的なものと思われます。よって、33%のロイヤリティ・レートを選択しました。
■
次に、当レート(33%)を用いて計算されたロイヤリティについて、既存技術を活用している開発中の技術にかかるキ
ャッシュ・フローから控除し、実効税率による税金を差し引き、現在価値への割引計算を行いました。
■
当ロイヤリティの価値が既存技術の価値に加算され、その結果既存技術の評価額には、開発中の技術に内在する基礎技
術の貢献分が反映されていることになります。(既存技術の評価の計算過程については、別表 C を参照)(58)
開発中の技術
ソフトウェア A
■
ソフトウェア A は製品 PT の次にリリースされるもので、その時期は 2002 年の終盤と予定されています。新しい技
術プラットフォームですが、一部、既存技術の貢献に依存しています。
■
売上高は、2002 年度は 4 百万ドル、2004 年度のピーク時に 40 百万ドルまで伸び、新たなバージョン・競合製品
が当技術にとって代わると見込まれる 2006 年度には、20 百万ドルまで減少するものと予想されています。
■
費用の予測については、対象会社の過年度実績と市場参加者のデータを踏まえています。
■
開発費用・開発期間・技術の難易度をベースに当プロジェクトの進捗状況を判断すると、評価日現在、当技術は 90%
程度完了しています。(ソフトウェア A の評価の計算過程については、別表 D-1 を参照)(60)
ソフトウェア B
■
ソフトウェア B は、ウェブ上での出版作業をサポートするための新しい技術です。そのため、既存技術・基礎技術に依
存することのない、新しい収益源となります。
■
2002 年度に製品がリリースされ、売上高は 2002 年度終盤の 1.5 百万ドルから、2004 年度のピーク時に 3 百万ド
ルまで増加し、新製品・新技術が当技術にとって代わると見込まれる 2005 年度には、1.5 百万ドルまで減少するもの
と予想されています。
■
開発費用・開発期間・技術の難易度をベースに当プロジェクトの進捗状況を判断すると、評価日現在、当技術は 70%
程度完了しています。(ソフトウェア B の評価の計算過程については、別表 D-2 を参照)(61)
ソフトウェア C
■
ソフトウェア C は、セールス活動を管理しその生産性を高めるための新しい技術です。そのため、既存技術・基礎技術
に依存することのない、新しい収益源となります。
■
売上高は 2003 年度の 2.5 百万ドルから、2005 年度のピーク時に 5 百万ドルまで増加し、新製品・新技術が当技術
にとって代わると見込まれる 2007 年度には、2.5 百万ドルまで減少するものと予想されています。
■
開発費用・開発期間・技術の難易度をベースに当プロジェクトの進捗状況を判断すると、評価日現在、当技術は 50%
程度完了しています。
■
2002 年終盤にリリースされる予定のソフトウェア A・B とは対照的に、当ソフトは 2003 年までリリースされない
予定です。(ソフトウェア C の評価の計算過程については、別表 D-3 を参照)(62)
18/20
ソフトウェア D
■
ソフトウェア D は、ウェブ上で作動し既存製品 PT にアドオンされる、資産管理業務をサポートするためのモジュール
です。そのため、当ソフトは既存技術の貢献に依存しています。
■
売上高は、2003 年度の 75 万ドルから、2005 年度のピーク時に 3 百万ドルまで増加し、2006 年度には、1.5 百
万ドルまで減少するものと予想されています。
■
開発がかなり進められているものの、開発費用・開発期間・技術の難易度をベースに当プロジェクトの進捗状況を判断
すると、評価日現在、当技術は 30%程度しか完了していません。
■
当製品は、2003 年終盤になってからリリースされる予定です。
(ソフトウェア D の評価の計算過程については、別表
D-4 を参照)(63)
実効税率および貢献資産チャージ
■
インカム・アプローチの対象となる無形資産それぞれに帰属する営業利益を予測し、当利益に対し業界(または市場参
加者)に適用される 38%の実効税率を適用しています。
■
評価対象資産がキャッシュ・フローを生むのに別途必要な有形・無形資産について、公正リターンを計算し、開発中の技
術に帰属する純利益から控除しています。その対象には、有形固定資産・人的資産・商標/商号・顧客リスト・運転資本
が含まれます。
■
貢献資産のチャージ・レートを設定するにあたっては、AICPA の実務指針 5.3.64 に呈示される参考値を使用しました。
要求リターンは、運転資本については 10%、有形固定資産については 12.9%とし、人的資産およびその他の無形資産
には 19%を適用しました。(64)
割引率
■
既存技術の評価に用いる割引率は 19%としました。
■
割引率の決定にあたっては、既存技術は完成した技術であること、1999 年から市場に投入されていることの双方を考
慮しました。また、評価日現在における、対象会社の同業他社の WACC(16.5%)を参考にしました。[当実務指針の
範囲外のテーマなので、WACC の計算過程についての記述は割愛]
■
取得価額(50 百万ドル)と理論上の企業価値(別表 B 参照)とを比較すると、割引率 19%の場合に双方が近似する
ことから、対象会社の事情を反映し、将来キャッシュ・フローのほとんどが開発中の技術に依存している状況をより良く
反映した割引率は、19%であると思われます。そのため、現行技術の割引率については 19%を用いることにしました。
■
開発中の技術については、投資に見合ったリスクを反映させるため、WACC に一定のプレミアムを上乗せしました。
(65)
■
未完成の技術は、近い将来のビジネスの見通しのみならず、中期的な見通しに対して影響を与えるものであり、一定の
不確実性をもたらします。将来製品をリリースするために、絶えず新しい技術を開発するのがビジネスであり、未完成
の技術が必ずしも利益をもたらすとは限りません。そのため、未完成の技術に対する合理的な期待リターンの値は、
WACC より高くなるものと想定されます。(66)
■
未完成技術の相対的なリスク/リターンを見積もるため、既に完了した作業と、プロジェクト完了に向けてこれから必要
な作業との比較による分析を行いました。一般的に、開発の初期段階になるほど、開発プロジェクトが成功しないリス
ク、想定された売上・利益が生じなくなるリスクが高まります。そして、開発プロジェクトの完了が近づくにつれ、こ
19/20
うしたリスクも低くなります。以下の表は、この関係を示し、未完成の技術に適用する割引率をまとめたものです。
(67)
製品
進捗率
既存技術の割引率 適用する
に対するプレミアム 割引率
製品 PT
100%
―
19%
ソフトウェア A
90%
3%
22%
ソフトウェア B
70%
12%
31%
ソフトウェア C
50%
21%
40%
ソフトウェア D
30%
31%
50%
資産の償却にかかる節税効果
■
インカム・アプローチを用いた評価額に対し、最終的には、資産の償却にかかる理論上の節税効果額を別途加算する必
要があります。(68)
■
企業結合取引のスキームが株式譲渡だった場合、一般的に、取得資産の税務基準額に変動はありません。つまり、無形
資産の税務基準額は、対象会社の金額をそのまま引き継ぐことになります。これまでの実務慣行からは、取得した無形
資産について税務上は償却が認められず、資産の償却にかかる節税効果を資産の取得者が享受できないため、このよう
な節税効果を無形資産の評価に織り込んではならない、との結論が導かれるものと思われます。(69)
■
しかしながら評価の目的が、米国の会計基準で定める公正価値の見積もりである場合には、仮に取得者にとって無形資
産の償却が税務上認められていない場合(すなわち、資産譲渡取引ではなく、非課税の企業結合取引である場合)であ
っても、無形資産(仕掛中の研究開発関連資産を含む)にかかる節税効果額の価値を含めて評価する必要があります。
■
SFAS No.109(Accounting for Income Taxes)は、税効果をネットして(net-of-tax)計上するアプローチを禁
じており、取得資産・引受負債を「総額(gross)」の公正価値で計上するよう求めています。
■
AICPA 実務指針 5.3.102 に従い、無形資産の公正価値は、それらの償却から得られる節税効果の価値を含むものとな
ります。それぞれの節税効果額は別表 F に呈示され、評価額に加算されています。(70)
結論
■
以上の調査・分析、評価アプローチ、評価手法に基づき、2002 年 1 月 21 日現在、対象会社の評価対象無形資産の公
正価値は合計で$18,493,600 となりました。(内訳は以下のとおり)(71)
既存技術
6,398,100
開発中の技術
7,892,100
競業避止義務
1,849,200
商標/商号
顧客リスト
合計
546,200
1,808,000
18,493,600
ZECOO PARTNERS News Letter (VAL-004)
発行
〒102-0082
東京都千代田区一番町 13-3
03-3234-8883 info@zecoop.com 担当 稲留
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