マクロ投資の重要性 - ホーム • ウエスタン・アセット

ゴードン S. ブラウン
グローバル・ポートフォリオ共同統括責任者
マクロ投資の重要性
要約
 複数年におよぶ実質ゼロ金利、
流 動 性の注 入、各種Q Eを実
施したことで、あらゆる資産ク
ラスのボラティリティの抑制に
成功した世界の主要中央銀行
であるが、ここに来てその政策
スタンスは乖離しつつあるよう
に見える。
 主要中央銀行はそれぞれ岐路
に差しかかりつつあるとみら
れ、金融政策は世界的な金融
危機以降初めて大きく乖離し
そうにある。この政策乖離の規
模とペースは世界のイールドカ
ーブの水準と形状、主要通貨、そ
して市場のボラティリティの全
体的な水準に大きな影響を与
える可能性が高い。
アクティブ運用におけるマクロ戦略
世界の主要中央銀行は重大な岐路に差しかかっている可能性があり、米連邦準備制度
理事会(FRB)と特に欧州中央銀行(ECB)と日銀(BoJ)といった他の先進国中央銀行と
の間で、金融政策の違いは今後数年間で更に進むとみられる。そこで当レポートでは、債
券ポートフォリオの将来のリターンおよびリスク管理におけるマクロ投資の重要性につい
て、改めて考察する。
当社の最高投資責任者(CIO)のケネス・リーチが市場コメント(2013年1月発行)1で言及
したように、金利が激しく変動した1970年代にマクロ投資は重要な役割を果たした 。1970
年代に流行したものと言えば(必ずしも懐かしいわけではないが)ディスコ音楽、裾が広
がったベルボトム型パンツ、パーマヘアが真っ先に思い浮かぶだろうが、当時ABBA(アバ)
の音楽に熱狂していた人たちにほとんど気づかれることなく、ある動きが始まっていた。
債券のアクティブ運用である。
1970年代の音楽やファッションとは対照的に、米国コア債券の運用は大胆さに欠け、
マ
ネージャーは通常デュレーション・リスクの取り方を厳しく制限されていた。ベンチマーク
のデュレーションの±1年に制限されていることが多く、このようにアクティブ・デュレーシ
ョンを厳しく制限する傾向は、世界的な金融危機が起きた最近まで続いていた。その理由
は、債券利回りが大幅に変動した、1970年代、1980年代には400ベーシスポイント(bp)の
金利変動は珍しいことではなかったが、逆方向にポジションを取っていた場合、それまで
積み上げた利益が一気に吹っ飛んでしまう可能性もあったからだ。そのため、この変動の
激しい時期のリスク管理とリターン創出の手段として、金利、イールドカーブ、コンベクシテ
ィ戦略が重視された。従って当時、大手債券運用会社のシニアクラスの運用担当者に、
マク
ロ戦略のスキルが求められたのは偶然ではなかったのである。
 社債スプレッドのボラティリ
ティが危機前のトレンドに近
づく一方、国債のボラティリテ
ィは上昇する可能性があると
結論付けても無理はないだろ
う。投資適格社債のリスクプレ
ミアムは将来、足元のファンダ
メンタルズにより連動するはず
である。なぜなら、保守的なバ
ランスシート管理と規制からの
圧力が重なり、企業のバランス
これに対して、債券の運用指針では社債エクスポージャーに対する制約は非常に緩かった
シートのレバレッジ拡大余地が
狭まるからだ。同時に、異例の (むしろ多くの場合、制約はなかった)。これは、投資適格社債のリターンのボラティリティ
金融緩和政策の出口戦略を巡
が著しく低く、スプレッドは長期にわたり非常にタイトな範囲に留まっていたことを反映し
る不透明感、そして世界の中央
ている2 。スプレッドのボラティリティは通常、リスクとリターンにあまり影響を与えないため、
銀行の金融政策の乖離により、
社債のアロケーションでは、スプレッド・ボラティリティ・リスクの管理よりも、ボトムアッ
債券投資家はボラティリティの
上昇に直面する可能性がある。 プのクレジット分析で個別銘柄のリスクを取り、
リターンを向上させることが重視された。
 こうした状況を背景に、債券ポ
ートフォリオにマクロ戦略(併
投資適格社債において、デュレーションをアウトライトで1年間保有する場合と、スプレッド・
せて、ファンダメンタルな価値
デュレーションを1年間保有する場合のリスクを比較し、
図表1に示した。金融危機発生ま
に基づく厳選されたリスク資
での30年間では、金利リスクがスプレッド・デュレーション・リスクを上回り、10倍を優に超
産への配分、並びに厳密な調
査に基づくボトムアップの銘柄
える時期もあった。こうした環境が、
マクロ戦略を中心に個別企業ごとの厳格な調査を組み
選択)を導入できるかどうかが、 合わせる投資手法を後押しした。
言い換えると、
マクロ環境を的確に読み取る能力がリター
このボラティリティを乗り切り、
ン創出の決め手となり、
クレジッ
ト調査で追加キャリーの獲得が可能になるということだ。
アルファを創出し、全体的なポ
ートフォリオ・リスクを管理する
1. ケネス・リーチ「市場コメントペーパー」(2013年1月発行)
カギを握ると考えられる。
2. 1984年∼1999年の米投資適格社債の四半期ベースの超過リターンの絶対値(プラスまたはマイナス)
は平均約60bp、それに対して同期間の米国債の四半期リターンは平均約300bpだった。
© Western Asset Management Company 2015. 当資料の著作権は、
ウエスタン・アセット・マネジメント株式会社およびその関連会社(以下「ウエスタ
ン・アセット」
という)に帰属するものであり、
ウエスタン・アセットの顧客、その投資コンサルタント及びその他の当社が意図した受取人のみを対象として
作成されたものです。第三者への提供はお断りいたします。当資料の内容は、秘密情報及び専有情報としてお取り扱い下さい。無断で当資料のコピーを
作成することや転載することを禁じます。
マクロ投資の重要性
図表1
金利デュレーションとスプレッドデュレーションの比較
レシオ
22
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
出所:バークレイズ、
ウエスタン・アセット 2014年12月31日現在 *一年間の超過スプレッド・デュレーションを複数年保有する場合の、対バークレイズ総合インデックスのトラッキングエラー。
マクロ戦略の導入
世界的な金融危機発生により、
マクロのボラティリティがクレジット・スプレッドのボラティ
リティを上回る状況は見事に逆転した。深刻な世界景気の後退や、世界の金融インフラを
崩壊させかねない大規模なシステミックリスクへの対応に市場が苦しむ中、数十年にわたり
かなり鈍い動きを見せてきた資産クラスが突然大幅なデフォルトリスクを織り込み始めた
のである。この逆転の規模は図表2を見ると明らかである。社債の超過リターンのボラティリ
ティがいかに長い間低い水準にあったのか、米国債の激しい変動と比較するとよくわかる。
図表2
米国投資適格社債の対米国債の超過リターン
15
米国投資適格社債の超過リターン
パーセント(%)
10
米国債
5
0
-5
-10
-15
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
出所:バークレイズ 2015年3月31日現在
世界の主な中央銀行が異例の金融緩和に加えて量的緩和(QE)による大規模なバランス
シート拡大を実施すると、クレジット・スプレッドはようやく普通の状態に戻り、かつての
ような低水準となった。複数年におよぶ実質ゼロ金利、流動性の注入、各種QEを実施し
たことで、あらゆる資産クラスのボラティリティの抑制に成功した世界の主要中央銀行で
あるが、ここに来てその政策スタンスは各国でばらつきが目立つようになってきた。図表
3に示したように、2014年初め以降、市場の2016年末までの短期金利の予想は大きく乖
離している。米国では、FRBの姿勢は明らかで、米国景気が回復する中、FRBは現在、利上
げを徐々に開始するのが適切だと考えており、今年後半にこのプロセスを開始する可能性
が高いことを示唆している。
ウエスタン・アセット
2
2015年6月
マクロ投資の重要性
一方、日銀のバランスシートは依然として急速なペースで拡大しており、2015年末までにバ
ランスシートの規模は2倍(資産購入プログラム開始以降)になると予想されている。同様
に、ECBは当面超緩和的な金融政策を維持し、バランスシートの規模を2012年の水準まで
戻すと約束している。このように、主要中央銀行はそれぞれ岐路に差しかかりつつあると
みられ、金融政策は世界的な金融危機以降初めて大きく乖離しそうにある。この政策の違
いの規模とペースは世界のイールドカーブの水準と形状、主要通貨、そして市場のボラティ
リティの全体的な水準に大きな影響を与える可能性が高い。現在の地政学リスクの状況
や世界経済の下振れリスクを巡る継続的な懸念も、不透明感を強める材料となりそうだ。
図表3
2016年12月の予想政策金利
パーセント(%)
3.00
2.50
FRB
2.00
ECB
1.50
1.00
0.50
BoJ
0.00
-0.50
Mar 13
Jun 13
Sep 13
Dec 13
Mar 14
Jun 14
Sep 14
Dec 14
Mar 15
出所:ブルームバーグ 2015年5月31日現在 注:オーバーナイト・インデックス・スワップの1ヶ月物フォワードレート
上記の分析から、社債スプレッドのボラティリティが危機前のトレンドに近づく一方、国
債のボラティリティは上昇する可能性があると結論付けても無理はないだろう。投資適
格社債のリスクプレミアムは将来、足元のファンダメンタルズにより連動するはずである。
なぜなら、保守的なバランスシート管理と規制からの圧力が重なり、企業のバランスシー
トのレバレッジ拡大余地が狭まるからだ。同時に、世界の中央銀行の金融政策の違いに
より、債券投資家はボラティリティの上昇に直面する可能性がある。図表1の右端にある
直近の棒をみてわかるように、クレジットスプレッド・ボラティリティに対するマクロ・ボ
ラティリティは既に上昇し始めている。
更に、社債のリスクプレミアムが低下する中、社債のリターンは国債のリスクプレミアムと
の相関性は高くなり、債券投資家が直面する非対称的なリスクは一段と高まるだろう(図
表4)。
ウエスタン・アセット
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マクロ投資の重要性
図表4
米国社債と米国国債の比較
100
1.0
0.9
90
米国社債と米国国債の
トータル・リターンの
相関(左軸)
0.8
70
60
0.6
0.5
50
社債のスプレッド(右軸)
0.4
40
0.3
30
0.2
20
0.1
10
パーセント(%)
0.7
80
0
0
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
出所:メリルリンチ、
ウエスタン・アセット 2015年5月31日現在
こうした状況を背景に、債券ポートフォリオにマクロ戦略(併せて、ファンダメンタルな価値
に基づく厳選されたリスク資産への配分、並びに厳密な調査に基づくボトムアップの銘柄
選択)を導入できるかどうかが、このボラティリティを乗り切り、アルファを創出し、全体的
なポートフォリオ・リスクを管理するカギを握ると考えられる。
要因分析におけるマクロ戦略の貢献度
当社はソブリン戦略、債券総合型、
マルチセクター戦略そして絶対収益型といった、それぞ
れに特化した戦略にマクロ投資のアプローチをうまく取り入れてきた。
下記の図表5は、当
社のグローバル総合戦略の対ベンチマーク相対リターンの要因分析の推移を、3年および
5年の期間にわたり示し、さらにそれぞれの要因の目標値と比較したものである。
図表5
寄与度分析
グローバル・コア・フル コンポジット
3年
5年
デュレーション(年)
イールドカーブ(bps)
国別配分(%)
通貨配分(%)
セクター配分(%)
銘柄選択・その他(%)
合計
37
87
60
23
58
-3
262
20
141
38
7
61
-9
258
戦略的トップダウン
による付加価値
ボトムアップ・リサーチに
よる付加価値
分散がきいたアルファの源泉
グローバル・コア・フル コンポジット
デュレーション/イールドカーブ
70%
国別配分
30%
セクター配分
銘柄選択
通貨配分
目標収益
寄与度
35%
70%
15%
20%
20%
30%
10%
過去3年(年率)
79%
21%
47%
23%
9%
22%
-1%
過去5年(年率)
79%
21%
62%
15%
2%
24%
-3%
2015年5月31日現在。 要因分析の結果は計算方法や要因分析モデルにより異なます。戦略毎のセクターの性質や投資家の意思決定プロセス、 運用スタイル、運用アプローチなどをより適切に反映するため計算方法や分析手法、分析モデルが異なる場合があります。ウエスタン・アセット の要因分析はトップダウンの要因分解アプローチを用いていますが、銘柄選択はセクターのベータ効果、ベンチマークのプライス差異、その他の システマティックな要素などと完全には分解されずに分析されます。またセクターや戦略がパフォーマンスに及ぼす効果は変化することがありま
す。上記データは四捨五入の関係上合計値が一致しない場合があります。上記はグローバル・コア・フルコンポジットの補足資料としてご提供して
います。巻末のパフォーマンス・ディスクロージャーをご参照ください。
ウエスタン・アセット
4
2015年6月
マクロ投資の重要性
この表から明らかなように、グローバル・ポートフォリオで採用したマクロ戦略はアウトパフ
ォームし、さまざまな収益の源泉を通じて超過リターン全体の50%以上を生み出している。
またアルファ創出に加え、
マクロ戦略は特にクレジット・スプレッドの大幅な拡大局面でポ
ートフォリオ・ボラティリティの全体的な水準を抑えるという重要な役割を果たしている。
それを実際に示すため、図表6で、当社のグローバル総合戦略における米国債カーブに対
するポジショニングの推移と、当社の投資適格社債のアクティブ・エクスポージャーの推移
を比較した。当社は、米国経済のファンダメンタルズおよびFRBの政策予想に関する自らの
見解との一貫性を維持することに加え、30年物米国債をオーバーウエイトすることで、分
散効果を得られ、社債に圧力がかかる局面では投資適格社債のオーバーウエイトに安定
性を付与できると以前から考えてきた。当社は2011年、更に2012年にもこの関係を活用し、
適正価値より過小評価されているとみなした、流動性の低い保有社債を売却する代わり
に、30年物米国債のデュレーションを大幅に増やした。その後バリュエーションの改善に
伴い、クレジットのオーバーウエイトを縮小したが、米国イールドカーブのアルファ創出
戦略はそのまま継続した。そうした取引の直近の例としては、2014年初めにポートフォリ
オに構築した30年物米国債のロング・ポジション(当時のコンセンサスに反する取引)が
挙げられるが、このイールドカーブ・フラット化取引はポートフォリオに利益をもたらした。
図表6
米国投資適格社債の金融セクタースプレッド対30年物米国債のデュレーション
米投資適格社債金融セクタースプレッド(左軸)
30年物米国債デュレーション(右軸) 5
4
250
3
200
2
150
1
100
0
50
-1
0
-2
Dec 10 Mar 11 Jun 11 Sep 11 Dec 11 Mar 12 Jun 12 Sep 12 Dec 12 Mar 13 Jun 13 Sep 13 Dec 13 Mar 14 Jun 14 Sep 14 Dec 14 Mar 15
パーセント(%)
年
ベーシス・ポイント
300
5 分散化:
スプレッド拡大
4.5
4
分散化:
スプレッド拡大
アルファ創出戦略:
成長見通し
3.5
3
2.5
2
Dec 10 Mar 11 Jun 11 Sep 11 Dec 11 Mar 12 Jun 12 Sep 12 Dec 12 Mar 13 Jun 13 Sep 13 Dec 13 Mar 14 Jun 14 Sep 14 Dec 14 Mar 15
出所:ブルームバーグ、
メリルリンチ、
ウエスタン・アセット 2015年5月31日現在
マクロ戦略の更なる重要性
当社は複数戦略を重視する運用スタイルをとっており、
マクロ・ポジションに、リスク管
理の枠組み内でのアクティブ・セクター・ローテーションと銘柄選択を組み合わせている。
今後も、アルファの創出やポートフォリオ内のボラティリティ管理において、
マクロ戦略が
ますます重要な役割を果たす機会が増えると当社は考えている。グローバルに展開する
各拠点の運用チームが、
マクロ経済調査に基づき、さまざまなアイデアを提供することで、
経験豊富なグローバル・ポートフォリオ・チームは有益な投資機会を数多く見出すことが
できるだろう。
ウエスタン・アセット
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パフォーマンス・ディスクロージャー
2014年12月31日現在
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概要:ウエスタン・アセットのグローバル・コア・フルディスクレッション(米ドルヘッジ有)は、長期的なバリュー重視の投資哲学に基づく、チームによ
るアクティブ運用の投資アプローチを採用した戦略です。分散された戦略と債券市場のあらゆるセクターを活用して、リスクを最小限に抑えながら付
加価値を追求します。世界中の全主要債券市場および通貨を投資対象にポートフォリオを構築します。国・地域配分および通貨配分、セクターローテ
ーション、デュレーションおよびイールドカーブ管理、銘柄選択により収益の増大を狙います。さまざまな市場やセクターへの広範な分散、デュレーシ
ョン管理、通貨エクスポージャーの積極的なヘッジによりポートフォリオのリスク管理を行います。
運用目標:リスクをベンチマーク水準に維持しつつ、市場サイクルを通じて、年率で150ベーシス・ポイント以上の対ベンチマーク超過収益の獲得を
目指します。
ベンチマーク:バークレイズ・グローバル総合ボンド・インデックス
基本通貨:米ドル ¦ コンポジット最低運用資産規模:500万ドル(2014年6月1日以前は2,500万ドル、2007年4月1日以前は500万ドル)
料率: 1億ドル以下の部分:年率0.40%(税抜き)、1億ドル超の部分:年率0.20%(税抜き)。
上記は、一社で最低運用金額以上の個別契約を締結される投資家向けの標準的な報酬体系です。
検証期間:当コンポジットは2001年4月1日から2013年12月31日の期間で検証済みです。
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