特集 見積もり精度を 上げるコツ 誰もが悩む工数見積もり。 ブレを生む大きな要因は、 プロジェクトに潜むリスクだ。 リスク込みの見積もり精度向上に 特集 役立つツール・資料を紹介する。 (西村 崇 tanishim@nikkeibp.co.jp ) 2 見積もり精度を上げるコツ プロジェクトマネジャーやリーダー て見積もらざるを得ない(図1) 。見積 に見積もっているため、リスクを見落 の頭を悩ます代表的なものの一つに、 もり精度を上げるには、工数を変動さ としがちである。 開発規模を基にした工数見積もりがあ せるリスクと、そのリスクによる工数 リスクの見落としを防いで見積もり る。正確に見積もるには、開発規模だ の増減率の見極めが大切だ。だが実際 精度を上げるコツは、実際のプロジェ けでなく、さまざまなリスクを考慮し には、ITエンジニア個人の経験を頼り クトで洗い出されたリスクを参考にす ること。そのリスクの見落とし防止に 大丈夫かな 開発規模を基に工数を見積もる際の課題 規模 情報処理推進機構 ソフトウェア・エン ジニアリング・センター(IPA SEC) 工数 リスク の「CoBRA法に基づく見積り支援ツー IT エンジニア リスクを見落とさずに 見積もることが難しい 役立つツールや資料が登場している。 個人の経験 に依存 見積もり精度を上げるコツ 実プロジェクトでのリスクを参考にすることでリスクの見落としを防ぐ ル」 (2010年3月提供開始)と、日本情報 システム・ユーザー協会(JUAS)が提 供する「生産性環境変数」 (2007年5月 公開)である。前者は、見積もる上で 必要な基礎データとして、プロジェクト におけるリスクの一覧と工数の増加率 解決に役立つツールや資料 工数の増減率がまとめられた表である。 「CoBRA 法に基づく 見積り支援ツール」 「生産性環境変数」 個人の経験に頼っての見積もりで精 あらかじめ用意されたリスクや工数の増 加率の基礎データを使って、見積もり ができるツール システム利用企業 20 社の情報システム 担当者の評価を基にリスクと工数の増減 率をまとめた表 度向上を図るのには限界がある。IPA 提供:日本情報システム・ユーザー協会 (JUAS) ネット上に公開されており、無料で利 提供:情報処理推進機構 ソフトウェア・ エンジニアリング・センター(IPA SEC) 1 見積もりでの課題と解決に役立つツールや資料 図 50 が提供されている。後者は、リスクと NIKKEI SYSTEMS 2010.9 のツールもJUASの資料もインター 用できる。検討してみる価値はあるだ ろう。本特集では、この二つについて 特徴や使い方を紹介する。 <写真:Getty Images > CoBRA 法 CoBRA法に基づく見積り支援ツール 工数が変動する要因を含めた見積もり計算式(見積もりモデル)を作る手法 チームの生産性を考慮 作成する見積もり計算式 工数= × 規模 ×(1+ COi) IPAが提供するのは、 「CoBRA法に α:生産性 ΣCOi:変動要因(工数が増えるリスク)それぞれの工数に対する影響度 (工数の増加率)を足し合わせたもの 基づく見 積り支 援ツール」という。 Webブラウザーで利用するWeb版と、 PCにダウンロードして利用するExcel版 A プロジ ェクト A プロジ ェ A プロジ ェ ク トクト 報告書 報告書 報告書 IT エンジニア 注1 の2種類がある。IPAのサイト でユー ザー登録をすると無料で利用できる。 プロジェクトの特性を踏まえて リスクの工数の増加率を設定 基本的には、これから開発するシス プロジェクト 数件の実績 工数や規模の実績値で 生産性の算出に利用 リスクごとのレベルを入力すれば、工 IPA SEC が提供する基礎データ(イメージ) 数が導き出される。工数にはプロジェ (1)リスクの一覧 2 (2)レベルの評価基準 見積もり精度を上げるコツ クトチームの生産性が考慮されるが、 特集 テムの規模と、プロジェクトに応じた そのために過去の実績をツールに入力 する必要がある。 発生確率 2007年からCoBRA法を基にした見 (3)工数の 増加率 積もりを開発現場で実施している NTTデータ セキスイシステムズの相 崎泰氏(システム開発統括部 システム 表の出所:先進的見積り手法実証と普及展開の調査報告書 (IPA、2008 年 9月) 開発グループ 課長)は「新規開発か 追加開発かのいずれかに絞って利用す るようになる」と、 経験を基に語る(相 特徴1 工数を導き出すうえで必要に なるリスク一覧などの基礎データが提供 されている 崎 氏 ら はIPAの ツール を 使 わ ず に CoBRA法を利用してきた。その実績 を53ページの別掲記事に示す) 。 特徴 2 見積もりに必要な計算機能が 備わっている リスクを4段階評価して見積もる CoBRA 法に基づく見積り支援 ツール(Web版)の設定画面 ツールのベースとなるCoBRA(Cost Assessment)法とは、規模から工数 10 20 30 40 50 60 70 80 90(%) 工数の増加率 「レベル 0」はゼロ IPA SEC が提供する「CoBRA 法に基づく見積り支援ツール」 (Web 版) ると、より納得感ある見積もりができ Estimation, Benchmarking, and Risk 「レベル 1」「レベル 2」「レベル 3」 図 見積もる前の準備作業を効率化 2 CoBRA法の概要とIPAの見積り支援ツールの特徴 を見積もる方法を示したもので、図2 上のような計算式を利用する。ドイツ ただCoBRA法は計算式を提供して 基礎データとして提供されるのは、 の公的研究機関である「フラウンホー いるにすぎず、この式を用いて精度の (1)リスク一覧、 (2)リスクごとのレ ファー協会 実験的ソフトウェア工学 高い工数を導き出すにはさまざまな基 ベルを判断する評価基準(レベル0〜 研究所」 が1997年に開発した。特徴は、 礎データが必要になる。そうした基礎 レベル3の4段階ある) 、 (3)最も工数 リスクを4段階のレベルで評価し、各 データ(図2中央)と、CoBRA法に基 レベルの工数の増加率を三角分布でと づいた計算を行うツールをIPAが提供 らえて見積もりに反映させることだ。 している(図2下) 。 注1)IPAのサイト http://sec.ipa.go.jp/上の「CoBRA法に基づく見積 り支援ツール」と書かれたアイコンからツール専用のサ イトに移動できる。 NIKKEI SYSTEMS 2010.9 51
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