積雪層の物理特性を複合的に 計測できるデジタルスノーゾンデ

積雪層の物理特性を複合的に
計測できるデジタルスノーゾンデ
国立研究開発法人
防災科学技術研究所雪氷防災研究センター
主任研究員 山口 悟
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<背景>
雪国では、直接定な雪崩事故だけではなく雪崩の危険性による生活道路の規制などが多発し、
冬期の市民生活の安全・快適な生活が脅かされている。
⇒雪崩発生予測のため、道路の規制解除のための安全性の確認のためには
正確な観測が不可欠
表層雪崩の発生斜面(岩手県八幡平)
雪崩の発生!
○印地点の積雪断面
表層雪崩の発生には積雪中
に存在する弱層が関与!
*表層雪崩*
斜面の積雪の上層
のみ崩落
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<背景>
表層雪崩発生現場の積雪
弱層検知は雪崩発生予測の強力なツール
弱層(スカスカの層
が存在する)
国道48号関山峠2015年
透過光による観察→光は
弱層検知の一手段
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<背景>
弱層の形成1:降る雪(結晶)自身により形成
12.5 mm
雪雲の到来!
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<背景>
弱層の形成2:変質する過程で形成
黄色の雪質が弱層になる
スケールは全て同一
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<従来技術とその問題点>
従来の積雪層構造の記録法
雪穴を掘って積雪の断面構造を観測(100年以上変わっていない!)
測定に主観が入り、
専門的な知識が必要
*
・雪温
積雪深2メートルでは
・雪質
約2時間かかる!
・粒径
・密度
多点で行うのには限界!
・硬度
・ラム硬度
・含水率
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<従来技術とその問題点>
ラムゾンデのみ雪面から測定可能
しかし深さの分解能は不満足→薄い弱層は検知不可
*データは手動でノートに記載して、その後解析して整理する必要がある
(現場ですぐに結果がわからない!!)
弱層が検知できても、
その種類(特性)までは
わからない
雪面からコーンを打ち込み
貫入抵抗の鉛直分布を測定
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<新技術の
<新技術の特徴>
デジタルスノーゾンデ(DSS)開発のコンセプト
雪氷災害(特に雪崩)の被害軽減に必要な客観的なデータを簡易に
多点で取得する
そのためには….
そのためには
• 積雪情報を取得する
→積雪の量だけでなく質(内部の層構造)の情報が必要である
• 積雪状況は時間経過や場所によって変化する
→素早く測定し記録する必要がある
• データの客観性を保証する
→誰が測定しても同じ結果を得る必要がある
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<デジタルスノーゾンデの開発>
初代DSS(シングルセンサー)の試作
2本の光ファイバーに
より積雪層の雪粒子
からの反射率(受光強
度/照射強度)を測定
する
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初代DSSにより雪質を判読可能
薄い弱層の検知が可能→どんな弱層かまでは不明
ざらめ雪
しまり雪
・しまり雪では高い反射率
・ざらめ雪では低い反射率
・反射率の小さい層(→)に弱層の可能性がある
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マルチセンサー搭載ゾンデの試作
3つの物理的性質を一度に測定することで積
雪内部の層構造を把握
・光学的性質:雪粒の大きさや形
・力学的性質:積雪層の硬さ
・電気的性質:積雪層のぬれ具合
弱層の特徴を把握するために必要な情報をすべて網羅
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DSSデータの客観的解析にむけた
従来の積雪断面観測との比較
反射率
貫入抵抗力
電気伝導度
雪 面
超軟雪
薄い弱層も
検知(乾雪)!
乾雪
硬雪
軟雪
湿雪
地 面
*弱層
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日本雪氷学会平田賞受賞とAAAPの紹介記事
「積雪用ゾンデの開発とそれによる積雪内部構造の研究 」
平田賞(1995)
(米国雪崩専門家協会)
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一回の操作で直ちに3つの鉛直分布
反射率
貫入抵抗力
電気伝導度
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<従来技術
<従来技術の比較>
技術の比較>
1.測定に必要な時間
DSS:
10分程度
<<
従来の方法(断面観測)
数時間
手軽に多点での観測が可能
2. 取得可能
取得可能なデータ
可能なデータ
DSS:
弱層の特性を知るのに必要な
3要素すべて
>>
従来の方法(ラムゾンデ) :
1要素のみ
(弱層の特性を知るには不十分)
より正確な弱層の情報取得が可能
3. 分解能
分解能
DSS:
数ミリレベル
>>
従来の方法(ラムゾンデ) :
数cm
薄い弱層まで検知が可能
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<実用化にむけた課題>
現用DSSの雪崩発生予測への課題
ケーブル
構 成
操作部
表示・記録部
コーン
ロッド
**** 課 題 ****
1.大きく重い(20kg)>携帯に不便
2.通信機能が無い >データ共有が不可能
3.弱層を検出して雪崩発生の危険度を判断する
>専門家しか判断できない
ソフトがない
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<企業への期待>
企業への期待>
DSSのVer.2に向けて
現在の仕様は15年以上前のまま。最新の技術導入による解決策を企業に期待
小型軽量化
誰でも何処でもデータを取得
通信機能の付加
いち早くデータを共有
システム化
現場のデータに基づいた
確実性の高い判断が可能
データの解析アルゴリズムは研究者が開発。
それを実際に実装する際の知識を企業に期待
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<想定される用途>
関東甲信の大雪により多数の雪崩が発生!
無積雪地域でも雪崩が発生→全国的な発生予測システムが必要
2014年2月の関東甲信地方の大雪により,
全国で1週間に68件もの雪崩災害が発生
(和泉,2014).
しかも雪崩災害は毎年数10件発生.
雪崩発生箇所は全国に及んだ(中村ら,2014)
国道48号関山峠の大雪崩
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<想定される用途>
雪崩情報発信におけるDSSの役割
• 雪崩発生現場における積雪層構造のデータ
が最も信頼性が高い
• このデータを誰にでも容易に得ることができ
るのがDSS
• DSSのデータ解読により雪崩発生危険度情報
の信頼度が高まる
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<想定される用途>
DSSによる雪崩情報システムの確立
現場の情報からいち早く発生危険度を知るシステムが必要
雪崩発生現場
情報の共有化
気象データの推移
自動気象観測
DSSデータの取得
道路管理センター
逐次モデル計算
DSSはモデル
計算を補い,
現状把握の精
度を高める →
現状把握・将来予測
と行動指令
DSSデータ
雪崩専門家
発生危険度情報のアルゴリズム開発
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お問い合わせ先
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
総務部研究支援グループ研究支援チーム
TEL 029-863-7523
FAX 029-863-7825
e-mail chizai_riyou@bosai.go.jp
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