日本教育工学会 第19 回全国大会 チャットにおける発言の受け取り方に関する研究 Research on the factors for receiving personality from online chat-log. 平野宏奈 1 柳沢昌義 2 赤堀侃司 3 Hirona HIRANO Masayoshi YANAGISAWA Kanji AKAHORI hirano@ak.cradle.titech.ac.jp my@toyoeiwa.ac.jp akahori@ak.cradle.titech.ac.jp 1 3 東京工業大学大学院社会理工学研究科 2 東洋英和女学院大学人間科学部 1 Dept . o f Hu ma n Sy ste m Sc ien ce , G rad ua te S chool o f De ci sio n Scie n ces a nd Te ch nol ogy, 2 Fa c ul ty o f H u m a n S ci e nce s , Toy o e i w a Uni v e r si ty Tokyo In st itu te of Te ch nology <あらまし> 本研究はチャットで交わされた会話のみで相手の同定が可能かどうかを明らかにすることが目 的である。同定が可能ならば会話のどの部分から判断したかを明らかにすることである。結果よ り、チャットの会話からの同定は可能であると考えられ、同定には大きく 3 種類の要因が考えら れる。1 つ目は固有の言い回しによる個人的局所同定要因、2 つ目には発話進行の論旨や展開方 法による大局的同定要因である。3 つ目にはネット経験や文字の打ち方等の個人的全体同定要因 である。また、判断の着目点で正解率が高い人は大局的要因によって人物を判断しており、正解 率の低い人は口調や語尾に着目点を置く局所的要因によって判断していることがわかった。 <キーワード>チャット、コミュニケーション、パーソナリティ、情報倫理 1. はじめに 近年、出会い系サイトがらみの事件や犯罪が数 多く見受けられる。その原因は、ネット上での会 話は文字情報のみであり、顔の見えないチャット やメールなどの情報のやりとりには個人のパーソ ナリティは表出されにくいからであるといわれて いる。本研究では、チャットに焦点を当て、個人 のパーソナリティがどのように文字に表れそれを 見ている他者がそれを見抜けるかを実験によって 明らかにする。 筆者らは実験においてチャットでは発言の中に 多くその人の癖が入りやすく、発言の要所にその 人のパーソナリティを特定する要因があること、 またその癖が発言の中に多くなればなるほどさら に人物判断が容易になるのであることを明らかに した。 2. 実験 2.1 目的 平野ら(2002)での実験では同定の回答を 2 回にわ けたことからコメントを忘れてしまったことが考えられた。 本研究ではリアルタイムで相手を同定できるチャット ツールを作成した。また、平野ら(2003)では被験者 が女性のみであったため、本実験では被験者を男性 のみにした。会話をした相手の同定が可能であるの かを調べる。また、会話ログの分析により、チャッ ト相手の同定に利用される要因を見つけ出すこと である。さらに、平野ら(2002)の実験では、演技 の指示があいまいであったため、あらかじめ明確 なプロフィールを渡し、それに沿った演技をして もらう。 2.2 方法 図1に実験の手順を示す。大学生(男子)8 人 を 2 群に分け、30 分間のチャットを行わせた。あ らかじめ 2 群とも、明確なプロフィールを渡し、 それを読む時間を 15 分与えた。ハンドルネーム (HN)及びチャットのテーマは実験者が用意し、 同定に関してはリアルタイムで同定可能なチャッ トツールを用いた。(図 2)判定課題はチャット中、 チャット終了後と 2 回行った。チャットツールに は会話をした他の 3 人の実名が表記してあり、ど のハンドルネームが誰であったのかを一つ一つの 発言に対して回答する。この判定課題の正答数の 合計を被正答数と呼ぶ。被正答数が高いほどその 人がネット上で本人であると同定されやすいこと を意味する。 実験手順の説明 プロフィールのインプット チャット 15 分 チャットツールにおいて チャットをした人達の本 名が書いてある ので、 その名前に対応する人 物を 3 人の中から同定 する。 30 分 書ききれなかったコメントを記入 図1.実験の手順 2.3 被験者とプロフィール 被験者は 22 歳から 33 歳までの大学学部生・大 学院生の男性 8 名である。 2 群(4 人)の群をつくり、 群ごとにチャットをしてもらった。また、全員に あらかじめ明確なプロフィールを渡しそのプロフ ィールに沿った演技をしながらチャットをさせた。 2.4 チャットツール 平野ら(2002)においての実験ではチャット終了 後に質問紙を渡し回答をする手順であり、個々の 発言に対するコメントを忘れてしまう可能性があ った。そこでチャット中においてリアルタイムに 個々の発話に対して、同定のための「気づき」を 書き込むことができる機能をもったチャットツー - 203 - 2003 年10 月11 日09:30 ∼ 12:10 209 会場 1a−209−6 (局所的要因)で人を判断している例が見受けられる。 以下はその例である。 ルを作成した。以下は作成したツールの画面であ る。図 2 に HN が B から見た画面を示す。 同定ボタン 表1 判断要因の例 「機械のことは良くわかんないよ」 正解率が高い被験者 わ ざ と ら し い 発 言 正解率が低い被験者 …わかんないよというところ 同定した理由を書き込むコメント欄 「たいへんだ∼」 正解率が高い被験者 正解率が低い被験者 同定の確信度(5段階) 発言用テキストボックス 図 2 チャットツールの画面 図 2 の左側に発言のログがリアルタイムに表示 され、右側には 3 人の本名が表示される。被験者 は一つ一つのログが誰の発言であるのかを推測し、 同時に右側に「その理由」と「確信度」を記入す る。 3 結果 3.1 実験結果 正解率の平均は 0.7 であったことから、実験に おいて同定はほぼ可能であったと考えられる。ロ グへのコメントに関するデータを分析した結果、 同定には大きく以下の3つの要因があることがわ かった。 ①個人的局所同定要因 被験者の話し方、発話の語調、癖、特有の言い 回しなどによる局所的要因。話し方であれば「∼ じゃん」のような語調、語彙の選択「もう〆です かね?」の「〆」、「そうだよね!!!」のような 記号等の利用等が挙げられる。 ②個人的全体同定要因 その人の知識量やモラル(ネット上では匿名性 が高いということもあり、モラルが問われること が考えられる)を含めたその人の中にある根本的 で全体的な雰囲気という要因。画像の解像度とい うような特別な知識や、「>○○さん」での>の使 い方(ネットの経験) ③大局的同定要因 発話進行の論旨の展開方法や会話の流れ全体に 影響を与える要因。「話を元に戻しましょう」「話 を続けてください」等の発言が含まれる。 3.2 判断の際の着目点 正解率の高い人と低い人の判断の仕方の違いを 示す。例えば誰か一人が発言したとする。そのとき正 解率が高い人は、相手が演技をしながら話していると 意識しているので個々の言葉よりもその発言の内容 (全体・大局的要因)に着目し、発言の意図を考える 傾向がある。一方正解率の低い人は、その口調のみ おとぼけ発言・なんとなく 「∼」から 「機械のことは良くわかんないよ」という発言に 対し、正解率が高い被験者は発言を全体から捉え、 相手が演技をしていることを前提に捉えている。 しかし正解率が低い被験者は口調に注目している ことがわかる。また「たいへんだ∼」という発言 に対しても正解率が高い被験者は「なんとなく」、 「おとぼけ発言」とコメントをしているが、低い 人は「∼」という部分のみに着目してしまってい る。その記号をよく使う人は誰であるかを考えて しまい、その結果判断を間違ってしまっていると 考えられる。つまり正解率が高い人は個人的全体 同定要因、大局的要因によって人を判断する傾向 が多く見られ、正解率が低い人は個人的局所的要 因によって人を判断していると考えられる。 4.結論 本研究より、チャットの会話から人物を特定す ることは男女ともに可能であると考えられる。し かし単に語調からといった局所的要因からでは判 断ミスを起こすため、その人自体の持っている専 門知識、経験、趣味などの大局的要因に着目し発 言内容から人物を特定していることがわかった。 また、相手のプロフィールを知っている場合、同 定はより可能になりやすいことが考えられる。 参考文献 池田謙一(1997)『ネットワーキングコミュニティ』 東京大学出版 Howard Rheingold(会津泉訳) (1995)『バーチャル コミュニティ』三田出版会 松尾太加志(2000)『コミュニケーションの心理学』 ナカニシヤ出版 Patricia Wallace(川浦康至、貝塚泉訳)(2001)『イ ンターネットの心理学』NTT 出版 平野宏奈、柳沢昌義 (2002) : 仮想コミュニケー ションにおけるパーソナリティの表出に関する研 究 , 日 本 教 育 工 学 会 第 18 回 全 国 大 会 論 文 集 pp.525-526 平野宏奈、柳沢昌義、赤堀侃司 (2003) : チャッ トにおけるパーソナリティを特定する要因の研究, 日本認知科学会 20 回大会発表論文集 pp248-24 - 204 -
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