深海に眠る資源を開拓する アイデアと戦略 独立行政法人海洋研究開発機構 海底資源研究開発センター 上席研究員 深海・地殻内生物圏研究分野 分野長 高井研 なぜ海底熱水鉱床を探す必要があるのか レアアースを含むレアメタルは21世 紀の技術と産業のカギとなる資源 ・2006年ごろから世界最大の資源 保有国、中国が輸出規制を開始 ・2010年の尖閣問題以降、たびた び輸出規制を強める ・資源ナショナリズムの激化 レアアースを含むレアメタルの国内 賦存資源の確保や開発は急務 日本は世界最大の消費国 なぜ海底熱水鉱床を探す必要があるのか もし我が国にレアメタルや金、銀、銅資源が眠って いるなら、まずその資源量を正確に知る必要がある 事実、我が国にレアメタルや金、銀、銅資源が伊 豆・小笠原弧や沖縄トラフの海底熱水活動域眠って いる 国家的賦存資源量把握のため海底熱水鉱床を探す必 要がある なぜ海底熱水鉱床を探す必要があるのか 海底金属・エネルギー資源の研究開発の現状 • 人知れず眠っている海底金属・エネルギー資源を探す (高コスト) • 国家的なプロジェクトとして、巨額の開発資金を投資し て、なるべくひっそりと、しかしできるだけ巨大な資源 量を探す (高コスト) • 見つけたらなるべく採算性が採れる寸前まで国が後押し (高コスト+高リスク) • いけそうなら大手民間の尻を叩いて護送船団方式で開発 (低リスク+低ゲイン) • とにかく大掛かりで、なかなかゴールは見えない (不透明性+イライラ) 海底資源バブルで浮かれる海底資源ムラ の住人 2014年6月21日週刊東洋経済 海底資源バブルで浮かれる海底資源ムラの 住人 ちきゅうによる沖縄熱水掘削 統合深海掘削計画IODP 331次航海 科学掘削の成果 沖縄熱水海底下に巨大な熱水湖を発見 劇的ビフォー アフター 科学掘削の成果 世界初、海底下で今生成されている‘黒鉱’の採取に成功 科学掘削の成果 世界初、人工熱水噴出孔の設置に成功 人工熱水噴出孔チムニーの急成長 Hole position 11m Natural vent NT10-17 (2011年9月20日) 5ヶ月後 8m 6m KR12-02 (2012年1月27日) Broken 6ヶ月後 KY11-02 Leg3 (2011年2月16日) NT11-16 (2011年8月31日) 急速成長人工熱水噴出孔黒鉱チムニー 発明、そして新機軸研究開発へのヒント 掘削前に海底下熱水循環を予想し、掘削により見事にそ の予想が正しいことを証明 海底下に眠る鉱床形成ポテンシャルの高い海底下熱水を 掘削して人工熱水噴出孔の創成に成功 人工熱水噴出孔には巨大な黒鉱チムニーが高速で生成さ れる 人工熱水噴出孔が比較的長期にわたって継続・維持でき る可能性 もしかして海底黒鉱チムニーって繰り返し養殖できるか も? 高校社会科地理教科書 「獲る漁業から育てる漁業へ」 育てる漁業: 遠洋漁業や日本近海からの漁獲量が減少する中、 獲る漁業から育てる漁業へと漁業が変わってきて いる。育てる漁業は主に養殖業と栽培業業の2つ があり、まだい、ほたて貝、かきなどの中高級魚を 育てることが多い。 「採る海底資源から育てる海底資源へ」 革新的黒鉱養殖&回収革新的技術の発明 採鉱コスト+環境負荷=激減 世界中に展開=可能 想定される開発例 現在の試算 1つの海底熱水域に対して20個の持続的繰り返し海底熱水金属資源現場養殖・回収 システム、日本近海の有望な20箇所の海底熱水に展開。計400個 1年間に1個の海底熱水金属資源現場養殖・回収システムに10t(1.5mの立方体)の 硫化金属鉱物を成長させることができると仮定した場合、一年間に4000t程度の海 底熱水金属資源回収が可能 急速成長チムニーの平均的な黒鉱鉱物存在量から計算して、 亜鉛や鉛、銅、バリウムは年間1000t近く 銀・アンチモンは数t以上 ビスマス・ガリウムは800kg以上 タリウム・テルル・金は40kg以上 現時点での金属単体の取引価格に照らし合わせた場合、 列記した金属だけでも1年当たり○○億円以上 10年稼働したとしても○○○億円以上 採算が計算できる発明、かつ国家的資源確保に大きく貢献する発明の可能性 2030年高校社会科地理教科書 2010年中学校社会科地理教科書 養殖業による水産物出荷高 2030年中学校社会科地理教科書 黒鉱養殖業による金属出荷高 2020年東京オリンピック に向けた野望 東京オリンピックといえば お・も・て・な・し オリンピックといえば 2016年 伊豆小笠原熱水域=東京都に 黒鉱養殖棚10個設置 2017-2020年 金600g、銀60 kg、銅6t回収 東京産の金銀銅でメダル100枚 足りない分は菱刈金山から援助 東京オリンピックから始まる 「黄金の国ジパング」 「エルドラド・トキオ」伝説妄想 実用化に向けた課題 • まだアイデア段階 • どのくらいの期間維持可能で、どのくらいの 量を養殖できるか、どんな金属がどのくらい の収率で確保できそうか、どれくらいのコス トがかかるか、を現場実験を通じて明らかに する必要がある • 今後、パイロット黒鉱養殖井戸と装置を開発 し、黒鉱養殖実験を行う • 環境影響評価も合わせて行う 深海熱水発電の発見 熱水内外で800 mV程度の起電力 チムニーの電気抵抗は10Ω/cm以下 高さ1mのチムニー1本のナマの発電量= >100 W ちゃんとした電池系を導入すればその 10-100倍の発電量が期待 世界初のチムニー発電 「深海熱水発電」の証明 深海熱水発電の実験室検証 10 mW/cm2 人工熱水噴出孔発電 人工熱水噴出孔発電妄想 翼よ、あれがパリの灯だ! チャールズ・オーガスタス・リンドバーグ(Charles Augustus Lindbergh) 1927年5月20日、リンドバーグはスピリットオブセ ントルイス号でニューヨークのルーズベルト飛行場 を飛び立ち、5月21日、パリのル・ブルジェ空港に 着陸、大西洋単独無着陸飛行に初めて成功した。 また、パリ上空で「翼よ、あれがパリの灯だ!」と叫 んだとされるが、この台詞は後世の脚色であり、リ ンドバーグはその時自分がパリに着いたことも分ら なかったという。 「翼よ、あれが深海の灯だ!」 2012年10月26日、山本正浩を始めとする JAMSTECチームはハイパードルフィンで沖縄 トラフの伊平屋北フィールドの人工熱水に着 底し、白金チタン電極を熱水と海水にかざし、 深海熱水発電による暗黒の深海ライトアップ に初めて成功した。 「翼よ、あれが深海の灯だ!」 深海熱水燃料電池の長所・短所 短所 深海熱水燃料電池の実験室データに基づく皮算用 =95W/m2 実測値=0.5W/m2 長所 腐食しない 硫化金属沈殿物が電極となる 熱水噴出が続く限り発電する 深海熱水燃料電池の長所・短所を生かした深 海熱水発電事業 熱素子発電(温度差発電) 実測値=100W/m2 (0.5W/m2) 長所:発電量大きい 短所:鉱物付着により発電効率が急激に低下 深海熱水地熱発電 実測なし 長所:発電量大きい 短所:深海熱水用の小規模システムの開発 実用化に向けた課題 • まだアイデア段階 • どのくらいの期間維持可能で、どのくらいの 発電量を見込めるか、どのような用途があり 得るか、現場実験を通じた検証が必要 • 今後、パイロット黒鉱養殖井戸と発電装置を 開発し、黒鉱養殖実験と平行して発電実験を 行う • 環境影響評価も合わせて行う 企業への期待 • 人工熱水噴出孔や装置の設置はJAMSTECが行う • 科学的な研究開発はJAMSTECが行う • 企業には人工熱水噴出孔をテストベッドとして提 供し、実際の養殖装置や発電やその他の開発に利 用してほしい • 国家的な巨大資金をバックにした開発ではなく、 優れたアイデアとベンチャー魂を持ったあらゆる 人が海底金属・エネルギー資源の利活用を目指す ことができるシステムを構築したい 本技術に関する知的財産権 (黒鉱養殖) • 発明の名称 :海底熱水鉱物資源の回収方法及び 回収システム • 公開番号:特開2013-163902 • 公開日:2013年8月22日 • 出願人:海洋研究開発機構 • 発明者:高井 研、猿橋 具和、宮崎 淳一、 澤田 郁郎、渋谷 岳造、川口 慎介、 石橋 純一郎、野崎 達生、柏原 輝彦、 中村 謙太郎、鈴木 勝彦 本技術に関する知的財産権 (深海熱水発電) • • • • • 発明の名称 :発電システム 公開番号:特開2013-207846 公開日:2013年10月7日 出願人:海洋研究開発機構/東京大学 発明者:山本 正浩、高井 研、猿橋 具和、 澤田 郁郎、宮崎 淳一、澁谷 岳造、 中村 謙太郎、橋本 和仁、中村 龍平 お問い合わせ先 海洋研究開発機構 事業推進部 産学連携課 課長 笠谷 岳郎 TEL 046-867-9230 FAX 046-867-9195 e-mail sanren@jamstec.go.jp
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