この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった 2014 年 3 月 31 日以前に発行されたものです。詳細は www.strategyand.pwc.com. で ご確認ください。 リーダーシップは コンタクト型 スポーツである リーダー育成における「フォローアップ」の重要性 著者:マーシャル・ゴールドスミス、ハワード・モーガン 監訳:加藤 瑞樹 リーダー育成の要 素は、①どのようなリーダーを目指すか あるべきリーダー像や育成対象者の議論を急ぐ必要がある。 (あるべきリーダー像)、②誰を育てるか(育成対象者)、③どの 本稿では、他者を通じてリーダーシップ育成を図ることの重 ように育てるか(育成手法)、の 3つである。 要性が述べられている。ボクシングやアメリカンフットボール 日本でも多くの企業が育成手法にアドレスし、その経営資源 の ように体 が 触 れ 合 う 接 触 型 の 競 技 を 米 国 で はContact を人事・人材プログラムへと投じてきた。根底には「プログラム Sportsと呼ぶが、筆者は同僚に接して成長することをそれに がよければ人は育つはず」との考え方があり、 「よいプログラム 例えている。その上で、育成の本質は研修ではなく、その後の にはお金をかけることが必要だ」とも考えられてきた。 行動にこそあり、同僚を鏡のように使いながら継続的に成長 しかし昨今、数多の企業・あらゆる階層で次世代リーダーの することが重要であるとしている。 人材不足 が 叫 ばれる中、従 来 型 の人材 育成 手 法 が 奏 功して オフサイト研修やエグゼクティブ研修など、その時は大変に きたか、あるいは将来も有効かどうか、その検証が必要である 意 味 が あ るように 感じら れる 研 修 は、企 業 にとって便 利 な ことに企業は気づき始めている。 ツールだ。受験生が参考書を買い込んだだけで成績が上がっ 今後競争環境はますますグローバル化し、社員の国籍も多様 た気になるのにも似ているかもしれない。しかし、勉強しない 化する。必 然 的に、あるべきリーダー 像 がこれまでとは変 容 と成 績は上がらないし、実 践しないとリーダーシップは向上 して行く。すなわち、閉じた世界で「あ・うん」型で通じていた しない。研 修 機 会を持ち 続けているのに社 員の成 長 実 感 が ものから、開かれた世界で明確かつ複雑型のリーダーシップを ない企 業 の方は、本 稿 が 視 点を 変 えてみる契 機になるか も 示すように 求めら れていく。育成 手 法をあ れこれする前に、 しれない。 12 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 6 2 0 1 1 Wi n t e r 特集 ◎ 勝ち続ける組織 マーシャル・ゴールドスミス (marshall@marshallgoldsmith.com) ハワード・モーガン (howard@howardmorgan.com) 加藤 瑞樹(かとう みずき) (mizuki.kato@booz.com) リーダーシップ・コーチングのネットワー 世界有数のエグゼクティブ・コーチが数多 ブーズ・アンド・カンパニー 東 京オフィス ク、マーシャル・ゴールド スミ ス・パート く参 加 する50 のヴァイス・プレジデント。金融セクター、 ナーズの創業者。70 名を超える大企業の 戦略的なチェンジマネジメントのツール トランスポーテーションセクターのリー 最 高 経営 責 任 者(CEO)および 経営 陣 の として、エグゼクティブ・コーチングを専 ダー。金 融、商 社、航 空、鉄 道、医 療、公 的 コ ー チングを 手 が け、リー ダーシップと 門 に 手 が ける。共 編 著 に「The コーチングに関して数多くの著書がある。 Practice of Leadership Coaching: 50 業務・組織の構造改革、人材評価・人材育 Top Executive Coaches Reveal Their 成 支 援、人事制度 策 定 等のプロジェクト (2004 年、ジョン・ワイリー&サ Secrets」 を手がける。 Top Coachesの 創 業 者。 Art and 機関等に対し、企業再生、新規事業戦略、 ンズ)がある。 リーダーシップは、もはやリーダーのためだけのものでは リーダーシップ育成に多くの経営資源が投入される中、トッ な い。トップ 企 業 は、最 高 の 業 績 を 維 持 するため には、リー プマネジメントが「どのアプローチが効果的か、どのように行 ダー育成に全社的に取り組むべきであると理 解しつつある。 えばよいか」と疑問に思うのは当然かつ必要なことである。 理 解 するのは 簡単でも、その 実現は容 易ではない。トップ マ 筆 者 が 大 手 企 業 8 社 のリー ダーシップ 育 成 プ ログラムを ネジメントから始め、全ての社員にリーダーシップを伝授する 調 査したところ、彼らは達 成 すべき目標 を掲げ、リー ダーに 方法を考えなければならない。ハーバード・ビジネススクール とり望ましい行動を特定し、実際の行動をそれに近づけさせ 元 教 授のジョン・P・コッターがかつて論じたように、社 会 全 ることでパフォーマンス向上を図っていた。一方、その手法は、 体で「 1億 人のニューリーダーを生み出さなくてはならない」 社 内 資 源 活 用・社 外 資 源 活 用、短 期 的・長 期 的、座 学・OJT のである。 など、様々に異なっていた。8 社とも、プログラムの最後に育成 組 織論の専門家、ポール・ハーシーとケネス・ブランチャー 対象者の満足度を評価するだけでなく、リーダーシップに長期 ドは、リー ダーシップ を「他 者と共に、また他 者を 通じ、目的 的なパフォーマンス向上が見られたかを評価していた。その を 達 成 すること」と 定 義した。多くの 企 業 がリー ダーシップ 評価は、対象者自身ではなく事前に選定された同僚によるもの 育 成 の 取り組 み を 強 化しており、目に 見 える成 果 を 上 げ て であった。 い る。リ ー ダ ー シ ップ 育 成 のトップ 企 業 20 社 を 調 査 し た 長 期 的な向上を実現するための中 核的要 素として明 確に Leading the Way: Three Truths from the Top Compa- なったものは、育成対象者が同僚との間で行う継続的な対話 nies for Leaders( ジョン・ワイリー&サンズ、2004 年)の中 とフォローアップである。自身のリーダーシップ向上に関する で、マーク・エフロンとロバート・ガンドシーは、リーダーシップ 優先順位について同僚と対話し、定期的にフォローアップした 育 成 に 秀 で た 企 業 は長 期 的 に 高 い 利 益 率 を 上 げる傾 向 が 対象者については、目立った成果が確認された。そうした対話 あると論じている。 やフォローアップが ない ケースでは、偶 然 を 辛うじて上回る リーダーシップ 育成には、専門家の数だけ多種多様なアプ 程 度の成 果しか上 がらなかった。こうした傾 向は、コーチの ローチがあるように思われる。近年、人気を集めているツール 有無や、コーチが社内か社外かによらず、同様に認められた。 は、エグゼクティブ・コーチングだ。人材コンサルティング会社 また、研 修プログラムが 5 日間でも1日だけでも、或いは研 修 の ヘ イグル ープ が 20 02 年 に150 社を 調 査したところ、そ の に参加しなかった場合でも同様であった。 半 数 がエグゼクティブ・コー チングの 利 用を 強 化し、初めて 筆 者はこれらの 結 果を基に、 「 リーダー育成とは同 僚との 利用した企業も16 %に達したという。 コンタクト型スポーツである」と結論付けたい。 しかし、 「エグゼクティブ・コーチング」でさえ、定義は幅広い。 デス・ディアラブとスチュアート・クレイナーは、多くのコーチ 8 つのアプローチ ング関連の書籍を調査し、行動変革コーチング、個人の生産性 に 関 するコ ー チン グ、エ ネ ル ギ ー・コ ー チン グ に 分 類した 調査対象とした上述の 8 社は、過去16 年間の顧客から抽出 「My Coach and I」 (「strategy+business 」誌 2003 年 夏 号、 した。いずれも大 企業だが、業 種や直面する競 争環 境は様々 参照)。 であった。 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 6 2 0 1 1 Wi n t e r 13 各社ともニーズに合わせ、リーダーシップ育成手法をカスタ マイズしていた。8 社のうち 5 社は対 象者を有 望者層に絞り、 それぞれ73∼354人がプログラムに参加していた。残り3 社は イスを適宜求める • プ ログ ラム 開 始 後 3 ∼ 15 カ月後、そ の 進 捗 状 況 に 関 する 簡易調査に、同僚に回答してもらう 中 間 層 以 上 の ほ ぼ 全てのマネジャー を 対 象とし、対 象 者 は 1,528∼6,748人に上った。国外の参加者に関しては各社でばら 育成対象者は、3 ∼16 人の同僚から簡易調査の回答を受け つ きが あり、2 社では受 講 者 が ほぼ 全 員 米 国 人であった が、 取った。同僚は、対象者のリーダーシップが全体として向上また 米国人 以 外 の対 象者がほぼ半 数に達した企業も1社あった。 は低下したかについて評価した。さらに、対象者と一緒に実施 残り5 社では、国外の参加者レベルはまちまちだった。 したフォローアップのレベルについても評価した。回収された 座学型を採用した企業では、対象者は社外のプログラムに 簡易調査は、育成 対 象者 11,480 人 分で 合計 86,000 件に上っ 参加し、各社で求められる特性、それが重要である理由、ある た。このような大規模なデータベースにより、やり方の異なる べきモデルに近づく方法を教わっていた。対照的に、社外研修 8 つのリーダーシップ 育成プログラムにおける共 通 点と相違 を行わず、パーソナル・コーチとの継続的なコーチングを利用 点を探ることが可能となった。 する企 業もあった。そ の 他に、社 外 研 修とコーチングを 併用 対 象 企 業 のうち 3 社 からは 論 文や 資 料で の 社名公 表につ する企業もあった。 いて許可を得た ため、本 稿 でも社名を掲載している。残りの 一方 で 各 社のプ ログラムには、共 通 点もあった。それぞ れ 企業は非公表を希望したが、業種と事業内容は説明可能であ 相当の時間をかけ、自社ビジネスの発展に伴いリーダーが直 る。また、うち 2 社は社名を伏 せることを条 件に、結果 の 公 表 面するであろう固 有の 課 題 を検 討していた。また、あ る べき を許可してくれた。調査対象企業は以下のとおりである。 リーダーの 行動様 式を定 義し、トップ マネジメントの承 認を 得ていた。それが企業のビジョンや 価値観に合 致すると確認 • 航 空 宇 宙 関 連 企 業 : 中 間 層 から CEO に 至 る1,528 人 が 「 同僚の目から見た した 上で、360 度 評価プロセスを構築し、 2日半のトレーニングに参加。各参加者は、自身の 360 度評価 自らの行動」と「あるべき行動」とがどの程度合致したか把握 につき社外コンサルタントと対面形式でのレビューを行った できるようにしていた。8 社はいずれも、育成 対 象者に以下の 上で、同僚とのフォローアップを確 実に実 施 するよう、3 回以 ことを指示した。 上のリマインダーを受け取った。 • 金 融 サービ ス 企 業 : GE キ ャピタル 社で は、選 抜 さ れ た • 社内ないし社 外 のコンサルタントとともに、360 度評価結 果をレビューする マネジャー 178 人が 5 日間の研 修に参加。各参加者には社内 から人事に関するパーソナル・コーチが割り当てられ、継続的 • 改善すべき領域を1∼3 つ特定する に(対面または電話で)マンツーマンのセッションを実施した。 • 重要な数名の同僚と、その領域における改善点を議論する • 電機メーカー : 上 級レベル のマネジャー 25 8 人 が、社 外 • 当該 領域において、どうすればリーダーシップを向上させ コー チから対 面 式 のコー チング を 受 講。社 外 の 研 修 プ ログ られるか、同僚に広く意見を求める ラムには 参 加 せ ず。コ ー チング 技 術を 習 得した社 内コ ー チ • その後のフォローアップとして、同僚に改善のためのアドバ が それぞ れ 割り振ら れ、3 ∼ 4 カ月ごとに 受 講 者 のフォロ ー 14 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 6 2 0 1 1 Wi n t e r 特集 ◎ 勝ち続ける組織 リーダーシップ育成には関係性が重要だ。 「コーチングする側と受ける側」 それも、 ではなく、 「リーダーと同僚」 という関係性が重要である。 アップ を行った。 いた。8 社 全て で共 通していたのは、育成 対 象者 がどの 程 度 • 総 合 サービ ス 企 業 : 中 間 層 から CEO まで 6,748 人 が、社 頻繁に同僚との討議やフォローアップを実施していたかを測 外コーチからマンツーマンのフィードバックを受けた。研 修 定し、同僚へ の簡易調査に基づくリーダーシップ向上 度とそ プ ロ グ ラム は 2 日 半で、15 カ月 以 上 の 間 隔 を お いて 2 度 実 れとを比 較した 点である。5 社(航 空宇宙、GEキャピタル、電 施。コー チによる正 式 なフォローアップ は ないが、それぞ れ 機、総合サービス、メディア)は、リーダーシップ 向 上 度を−3 自身でのフォローアップ を行った。 から+3 の7 段階評価で、フォローアップの程度を「行わなかっ • メディア企 業 : CEO を 含 む 3 5 4 人の マ ネジャーが 1日 の た」から「一貫して行った」の 5 段階評価で判定した上で、それ プ ロ グ ラム の 中 で、マ ン ツ ーマ ン のコ ー チングとフィード ぞれをプロットして比較評価した。 バッ ク を 受 け た。社 外 コ ー チ が 3 ∼ 4 カ 月 ご と に フ ォ ロ ー 残りの 3 社は、やや異なる指 標を用いた。通信企業は、リー アップのコーチングを実 施した。 ダーシップ向上度を「向上率」で評価し、それとフォローアップ • 通信企業 : CEO を 含 む 281 人 が 1日の 研 修 を 受 講。各 参 の 程 度を比 較した。ジョンソン・エンド・ジョンソンとアジレ 加 者 に 社 外コ ー チ が つ き、継 続 的 に マ ン ツ ーマ ン の セッ ント・テクノロジーでは、リーダーシップ向上 度の評価は上述 ションを実 施した。 5 社の7段階評価を用いたが、フォローアップについては、単純 • 製 薬/ヘルスケア企業 : ジョンソン・エンド・ジョンソン に「行った」 「 行わなかった」で評価した。 では、CEO を 含 むエグゼクティブとマネジャー 2,0 6 0 人 が 上 述 の 通り、本 稿 の「フォローアップ」は、育成 対 象者 が 同 1日半 の 研 修を 受 講。3 6 0 度 評 価 の 初め のフィードバックを 僚に対し、継続的に改善点について意 見を求めることを指し 社 外コン サル タントと(ほぼ全 員 が 電 話で)レビューした 上 ている。アジレント・テクノロジーとジョンソン・エンド・ジョ で、同 僚とのフォロ ーアップ を 行 うよう、各 参 加 者 は 3 回 以 ンソンでは、それを「行った」参加 者 の方が、 「 行わなかった」 上のリマインダーを受け取った。 参加 者よりもリーダーシップ 向 上 度 がかなり高かった。フォ • ハイテク機 器メーカー : アジレント・テクノロジーで は、 「 一貫して行った」や ローアップを 5 段階で評価した 5 社では、 選抜されたマネジャー 73人が、その他の研修プログラムから 「頻 繁 に行った」参 加 者 の 方 が、 「 ほと んど行わな かった」や も 独 立した コ ー チング を 1 年 間 に 渡り受 講した。コ ー チ は 「行わなかった」参加者よりも、リーダーシップ向上 度が 確 実 対 象者とのマンツーマンのセッションを、対面または電話で に上回った。 継 続 的に実 施した。 次ページの図表1は、フォローアップを 5 段階で評価した 5 社 の結果である。各社のプログラム内容はそれぞれに異なって パーソナルな接触 いたが、フォローアップとリーダーシップ 向上 度との間には、 強い相関関係があることが分かる。 これらの 研 修を対 象とした調 査 から導かれる包 括的な 結 この調査から明らかになるのは、リーダーシップは「関係性」 論は、パーソナルな 接 触 が 極 めて重 要である、というもので であるということだ。それも、コーチングする側と受ける側と ある。 いう形ではなく、リーダーと同僚という関係性が重要である。 5 社は同じ指 標 を用い、3 社はそれと多 少異 なる指 標 を用 調査対象となったリーダーのほとんどは、知的労働環境で Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 6 2 0 1 1 Wi n t e r 15 図表1 : フォローアップの影響 フォローアップの程度 (5段階評価) 一貫して行った 頻繁に行った ときどき行った 少し行った 行わなかった 大きく かなり わずかに 低下 低下 低下 変化が見られない わずかに 向上 かなり 向上 大きく 向上 リーダーシップの向上度(7段階評価) 働いている。ピーター・ドラッカーの言葉を借りれば、彼らの 彼らは成長しているとは認識されないだけである。 企業が取り扱う製品やサービスの価値は、問題の定義や解決 のため の 情 報を 加 工し創 造 することで 高 めら れて い る。ド 聞くことと受け止めること ラッカーは知 識 労 働 者 のリー ダーシップについて、 「過 去 の リーダーはどう伝えるべきか知っている人間である。これから 我々の調査はある意味で、ホーソン実験の結果を裏付けて のリーダーはどう聞くべきか知っている人間である」と述べて いる。シカゴ郊外にあるウェスタン・エレクトリックのホーソン いる。我々の調査では、常に他者に意 見を求めるリーダーは、 工場で働く労働者を対象に、ハーバード大学のエルトン・メイ そ のリーダーシップ を向 上させることに成 功してい る。そう ヨー教授が 80 年近く前に実施したこの有名な実験では、外形 しないリーダーが 悪 いリーダーというわけでは ない。ただ、 的な職場環境の変化よりも、自分の仕事に対する上司の関心 16 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 6 2 0 1 1 Wi n t e r 特集 ◎ 勝ち続ける組織 や関与を認識することで生 産性は向上するとされた。我々の フォローアップが重 要という基 本的なもの以 外にも、我々 調査では、同僚を巻き込んだ方が、リーダーシップは向上する の 調 査 からは 複 数の 結 論 が 導かれる。第 二の 結 論 は、 「 フォ 傾向が見られた。同僚に意 見を求め、成 長したかどうか常 に ローアップの程度とリーダーシップの向上度との間に見られる フォロ ーするリー ダー は 、周 囲 からはやる 気 が あ るとみな 相関は、国籍を問わず当てはまる」という点である。 される。フィードバックに対して反 応のないリーダーは、やる グローバ ル 化の 進 展と共に、多くのエグゼクティブが上司 気がないと見られるようだ。 と社員の文化的相違という問題に取り組み始めている。世界 従 来 のリーダーシップ 育成は、研 修プログラムや人前 での 各 国 の 有 望 なリー ダー層を 対 象とした 最 近 の 調 査 では、グ スピー チ、オフサイトミーティング などの「イベント」形式 に ローバルなリーダーには、異文化間の相互理解が重要である よって行われてきた。しかし今回の調査によれば、真のリーダー ことが明らかになっている。 シップ育成は、ミーティング中のひらめきや自己変革によって 我々の調査でもこの点に注目している。今回の調査対象の ではなく、時間をかけた「プロセス」にあることが分かる。 1万人 近く(簡 易 調 査 全 サ ン プル の 約 12 % に 該 当)が 米 国 運 動がわかりやすい例だ。部屋の中に不健 康な人 がいて、 以 外 の勤務者だったが、フォローアップが重 要であることは 運 動 の重 要 性を 説くスピーチを 聞 いてい るとしよう。次に、 米国内外で同様であり、また研修方式でもコーチング方式で 運 動の 仕方を説明するビデオを見て、少しくらいやってみる も同じであった。 かもしれない。しかしこの人が1年後には依然として不健康な ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、欧 州、南米、北 米の 参 ままなのはなぜだろうか。 加者のスコアにほとんど差はなかった。最も改善が顕著だっ 運 動 の 本 質 は、運 動 につ いての 理 論 を 理 解 することで は たのはアジアだったが、同社はその理由について、文化的差異 なく、実 際 に 運 動 することだ。アーノルド・シュワルツェネッ ではなく、アジアのマネジメント層の努力のたまものであると ガーに言 わせ れば「私 が 運 動しているところを見ても、あな 結論付けた。ここでも、意欲的で接触の多いリーダーと、その たの筋肉はつかない」ということだが、リーダーシップ育成も リー ダーシップ 向 上との間には 相 関が あることが 裏付けら 同じである。 れた。 エグゼクティブ・コ ー チ は 多くの点 でパーソナル・トレ ー リーダーは自身の置かれた環境で接する人々から学ぶもの ナーに似ている。トレーナーの役目は、トレーニングをする人 であり、異文化環境では特にそうだ。実際、ノースカロライナ州 がすでに自覚していることを、 “ 思い出させる”ことだ。優れた グリーンズボロにあるThe Center for Creative Leadership パーソナル・トレーナーは、理論より実践にはるかに多くの時 の 研 究 で は、異 文化 環 境 で 成 功 するリー ダーには「フィード 間を割く。同じことがリーダーシップ 育成にも言える。ほとん バックを求めること」と「周囲の人間から学ぶこと」の両方が重 どのリーダーは、先 駆者の同じような 本や同じようなスピー 要であるとしている。優れたリーダーシップ 育成プログラム チを聞いており、何をすべきかをすでに知っている。我々の調 を持つ 企 業は、フォローアップや それに関連する討議を数多 査 の 第 一 の 結 論 は、次 の 点 に あ る。す な わち、 「 リー ダー に く行うことを推奨し、彼らがうまく環境に適応するように働き とっての重 要な課 題は、リーダーシップについて理 解するこ かけている。文化的違いは数あれど、 「 フィードバックを 無 視 とではなく、すでに理解していることを実践することである」。 されるのが心 地よい」と考える国はどこにもない。 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 6 2 0 1 1 Wi n t e r 17 内と外 的余裕ができたときの追加的業務ではなかった。また、コーチ ングを受ける側は、最も信 頼できると思うコーチを選 択する リーダーと同僚との関係だけでなく、リーダーとコーチの ことが できた。さらに、社内コーチはそれぞ れ 所属の異 なる 関係も重要である。調査に基づく第三の発見は、 「 社内コーチ・ 部署の対象者にコーチングを提供し、コーチングは育成目的 社外コーチのいずれでも効果がある」ことである。 であり、評価目的ではないことを保証した。これらの徹底的な コーチングが有効になり得る理由の一つは、それが動機と 工 夫により、社内コーチに対 する高い満 足 度と、コーチング なり、リーダーが同僚に目を向けることにある。例えばアジレ による高い成果が得られたのである。 ント・テクノロジーでは、コーチがリーダーにフォローアップ 社内であれ、社 外であれ、コーチとリーダーとの 接 触 手段 を行った回数と、リーダーが同僚とフォローアップを行った回 は大きな阻害要因ではないことも確認されている。第四の発 数に強い相関関係があることが確認された。 見は、 「電話によるフィードバックやコーチングは、対面で行う 一方で、コーチは必ずしも社内の人間でなくてもよい。それ 場合と遜色ない」という点である。 はコーチのあり方が最も対照的な 2 社を比較すると明らかで フィードバックやコーチングはパーソナルな活動であるため、 ある。アジレント・テクノロジーが社外コーチだけを活用した 電話より直に会ったほうがいいと考えがちだが、本調査はこの のに対し、GEキャピタルは社内コーチのみを活用した。その 仮説を裏付けてはいない。ジョンソン・エンド・ジョンソンは 結果、両社ともに、リーダーシップのパフォーマンスは長 期的 ほぼ すべてのフィードバックを 電 話で行っていた が、すべて に大きく向上したのである。 対面で行っていた航 空宇宙関連 企業とほぼ同程 度の効果が 社内資 源の方がより簡易に活用できることからすれば、企 得られていた。 業はこの調 査 結果を社内コーチの正 当化に使うかもしれな さらに、社 外コーチだけを 活用していた 企 業 でも、電 話と い。た だ、社 内コーチ活 用に際しては、少なくとも 3 つ の重 要 対面式のコーチングにほとんど差がなかったことが確認され な要素を考慮すべきである。時間、信頼性、情報の秘匿性だ。 ている。それらの企業は、コーチとのマンツーマンのセッショ 多くの企業では、社内コーチは、対象者との継続的なコミュ ンを 2 回 以 上 実 施 するよう求めており、直 接 会うコーチもい ニケーションのための時間を必要十 分には与えられないし、 れば、ほとんど電 話を 使うコーチもいたが、その 優 劣を 示す トレーニングを積んだリーダーシップ 育成の専門家としては データは得られなかった。 信頼されない場合もあるだろう。また、特に複数の役割を担う 最 近では E メール やイントラネット、インターネット、携 帯 コーチの場合、コーチとしての職責と、評価者としての職責と 電 話を組み合わせたやり方もあるが、フォローアップ自体は の間で、利害の衝突が生じることもある。これらが当てはまる さほどコストのかかるものではない。社内コーチなら電話で ようであれば、社外コーチのほうが望ましいだろう。 フォローアップが可能であり、最新システムを使えば、定 期的 しかし、社内コーチがこのような障害を克服できる場合も なリマインダーを 送り、継 続 的にコンタクトすることが で き ある。GEキャピタルでは、社内コーチを活用していたが、コー る。どのような手法であれ、フォローアップはリーダーシップ チには十 分な活動時間が与えられていた。コーチングは会社 育成に必要不可欠である。数多くの企業が「プログラム・オブ・ にとっての重要な 職 責の一つであると考えられており、時間 ザ・イヤー」の 獲 得 を 目 指して何百 万ドル も 投じて い るが、 18 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 6 2 0 1 1 Wi n t e r 特集 ◎ 勝ち続ける組織 継続的に同僚と接触することは非常に有効であり、 それには形式ばったプログラムは不要である。 フォローアップ活動にはいくらも投資していないのが実態で ことだけであった。 ある。 同僚に接し、話を聞いて学び、継 続 的な自己育成を続ける 企 業 は、リー ダーシップ 育 成 プ ログ ラムに 対 する 社 員 の ことは、リーダー自身にも企 業にも 利 益を 生む。リーダーは 満 足 度 だけで なく、プ ログラムの 効 果 測 定 を 実 施 すべきで 同僚との 接 触を 通じ、自己 変 革へ の意 欲と、より良く成 長し ある。我々の調 査 結 果によれば、3 ∼15カ月後に効 果 測 定 が ようとする志を他者に示すのである。このプロセスには時間 あ ることを 知って い ると、参 加 者 の 意 欲 は 向 上すること が もお金も必要ない。重要なのは、接することである。 分 かって い る。効 果 測 定 は 育 成 対 象 者 にやる 気 を 出さ せ、 Reprint Number: 04307 長期的な成果に寄与する。 従来の効果測定は参加者の満足度に基づくものが多いが、 それはあまり妥当ではない。今回の調査 対 象 企 業でも、多く の参加者はプログラム終了段階でかなり満足しており、前出 の航 空宇宙関連 企業とジョンソン・エンド・ジョンソンでは、 3,500人を超える参加者の満足 度は、5 段階評価で平均 4.7 に 達した。参加者はプログラムをおおいに気に入ったようだが、 それは 必ずしもプログラムを使いこなした、あるいはそれに よって成長したということを意味しているわけではない。 学び方を学ぶ さらに重 要なのは、大 規 模 でフォーマルなトレーニング・ プログラム 形式ではなくとも、継 続的に同僚と接することは とても有 効であるということだ。アジレント・テクノロジーで は、トレーニング形式によるコーチングではなかったが、極め て 良 い 成 果 を 挙 げ て い た。特 別 な コ ー チ が つ か なくとも、 リーダーは同 僚 たちから幅 広いコーチングを受けられるの だ。行動 変 革のカギは、周りの人 から「学び 方を学ぶ」ことに にあり、彼らから得たアドバイスをもとに行 動を 変 えること に あ る。前 出 の 航 空 宇 宙 関 連 企 業 と 通 信 企 業 の 場 合、何ら コーチをつけず長期的で有益な効果を得たが、彼らが行った ことは、とても簡単で効率的なトレーニングを行った後、フォ ローアップの必要性を喚 起するリマインダーを定 期的に送る Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 6 2 0 1 1 Wi n t e r 19
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