vietnam legal update ベトナム最新法律情報 2013年8月 労働者派遣に関する新規制 本号では、近時制定された労働者派遣業に関する規制についてご紹介します。労働者 派遣に関しては、日本でも厚生労働省の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研 究会」が8月20日に報告書を公表し、メディア等で活発な議論がされているところです。 ベトナムでは、本年5月に施行された新労働法により、労働者派遣に該当する概念が初 めて法律に規定されました。これにより、それまでは適法性が明確でなかった労働者 派遣を一般企業が活用できる可能性が広がることが期待されました。 しかし、新労働法では、労働者派遣を利用できる業種や、ライセンスの詳細な条件に ついては規定がされていなかったため、実際上労働者派遣がどれほど使える制度にな るかは、施行細則が公布されるまで分かりませんでした。本年5月1日の新労働法の施 行までに整備される予定であった施行細則は、結局5月1日に間に合わず、労働派遣に 関する法令第55号(以下「法令55号」)が公布されたのは2013年5月22日でした。 新労働法により、これまで法的な位置付けが明確でなかった労働者派遣制度が明確 に認められた点については評価されているものの、7月15日から施行された法令55号の 内容は、以下に述べるように、全体的に派遣労働者の権利確保及び派遣先企業の労 働者の雇用確保を重視した内容になっている上、実務界で需要の多い一般製造業の 製造ラインでの派遣労働者の受入を認められていません。派遣業者の設立にも、最低 資本金や預託金の払込義務が課され、参入は容易ではなく、進出日系企業にとっては 必ずしも期待した内容とはなっていないように見受けられます。 労働者派遣の定義 ベトナムの労働法における労働者派遣とは、認可を受けた派遣元(以下「派遣業者」) により雇用された労働者(以下「派遣労働者」)が、派遣業者との労働関係を維持した まま、派遣先(以下「派遣先企業」)の監督の下、派遣先企業で労働を行うことをいい ます。 新労働法では、派遣業者と派遣先企業は労働者派遣に関する契約を書面で締結しな ければならないこと、派遣労働者は、同種の業務を行う派遣先企業の労働者と同等の 給与を受け取る権利を有することなどが定められています。 派遣業者の設立 新労働法により、派遣業者は労働者派遣業を行うためにライセンスを取得するこ とが要求されています。法令55号では、このライセンスを取得するための要件とし て、以下を規定しています。 (i) 20億VND(約1000万円)以上の金額を銀行に預託していること。 (ii) 20億VND以上の資本金を有すること。この最低資本金は、企業が労働者派遣 業を行う期間中、常に維持している必要があります。 (iii) 会 社の本社を置く場所については、2年以上の期間の賃貸借契約を締結して いること。 (iv) 会 社の代表者は、①権利能力を有し、②労働者派遣業について3年以上の 経験を有し、かつ③過去3年間において、労働者派遣業のライセンスの取消 を受けた会社の代表者や、労働者派遣業のライセンスの申請に当たって繰 り返し偽造した文書を提出していたものでないこと。 なお、法令55号では、外国投資家がベトナムの企業と合弁会社を設立する場合 には、上記に加え、以下の条件も充足しなければならないとしています。 (1) 外国投資家は、労働者派遣事業を行っている会社であって、資本金及び総 資産が100億VND(約5000万円)以上であること。 (2) 労働者派遣業務に関して、5年以上の経験を有していること。 (3) 当 該企業及びその出資者が自国及び関連する国の法律に違反していない旨 を証する母国の権限ある機関による証明書を取得していること。 法令55号では、外国投資家が単独で派遣業者を設立することを明確に禁止はし ていませんが、上記の条文の規定の仕方からすると、外国投資家のこの分野へ の参入は、ベトナム企業との合弁形態でしかできない可能性もあるものと思われ ます。 この点に関して、2003年に締結された日越投資協定では、日本の投資家に対し て、投資前段階を含む内国民待遇、すなわち会社設立手続に関するベトナム企業 と同等の待遇が約束されています。その例外分野は同協定の附属書Ⅰ及びⅡに規 定された分野に限られていますが、そこには労働者派遣業務については規定され ていません。したがって、上記のように、労働者派遣業を行おうとする日本企業に 対してベトナム企業より厳しい要件を課すこと、及びベトナム企業との合弁形態で のみ参入を認めることは、日越投資協定に違反する可能性もあり、何らかの調整 が望まれます。 労働者派遣業のライセンスは、労働傷病兵社会省(以下「MOLISA」)により発行さ れます。ライセンスの当初の有効期間は最長36ヶ月で、2回まで延長することが可 能です。延長の期間は1回につき24ヶ月を越えてはならず、かつ延長前のライセン スの有効期間を越えることはできません。 預託金 上記のように、労働者派遣業者は、その事業期間中20億VNDを商業 銀行に預託しなければなりません。この預託金は、派遣労働者の賃 金の支払いや、派遣業者に契約違反があった場合の派遣労働者へ の損害賠償の支払いの原資を確保するためのものです。 預託金が派遣業者に返却されるのは、以下の場合に限られます。 •MOLISAが労働者派遣業のライセンスを発行しない、又は再発 行を認めないことを決定して通知した場合 •MOLISAが労働者派遣業のライセンスを取り消した場合 労働派遣ができる業種及び目的 労働法では、労働者派遣が認められるのは、政府が定める特定の業 種に限られるとしています。法令55号は、これを受けて、以下の17の 業種を労働者派遣が認められる業種として規定しています。 1 翻訳、通訳、速記者 2 秘書、総務支援 3 受付 4 ツアーガイド 5 営業支援 6 プロジェクト支援 7 製造システムのプログラミング 8 通信・テレビ設備の製造又は設置の技術者 9 建設用機械や製造用電気系統の運転、テスト、修理の技術者 また、これらの業種であっても常に労働者派遣が認められるわけで はなく、労働者派遣が認められるのは以下の目的の場合に限られる としています。 •特定の期間において、急遽労働力の需要が増加した場合に、そ の一時的不足を賄うため •産休、労働災害、職業病、公的な義務の履行、勤務時間の短縮 などによる労働者の代替のため •技術の専門レベルが高い労働者を採用する必要があるため なお、労働者派遣の期間は、最長1年間とされています。日本で は、26業種について、同じ業務での派遣受入期間を最長3年間として いる現状の規制を緩和し、派遣される人を代えれば同じ業種でも3 年を超えて派遣を受け入れることができるようにするという改革が 議論されています。ベトナムでは、法令55号の文言からすると、この1 年間の上限は人単位で課されるものであり、派遣労働者を交代すれ ば、同一の業種について引き続き労働者派遣を受け入れることは可 能であると思われます。 労働派遣が認められない場合 法令55号では、労働者派遣が認められない場合として、以下の場合 を挙げています。 •派遣先企業において労働紛争やストライキが発生している場 合 •派遣業者と派遣先企業の間で、労働災害や職業病が発生した 場合の責任や賠償義務について合意がされていない場合 10 ビルや工場の清掃 •整理解雇した労働者の代替として派遣労働者を利用する場合 11 資料編集 •MOLISAや保健省が公布したリストに定められた生活条件が 非常に過酷な地域で勤務するための労働者派遣(但し、当該 地域に既に3年以上住んだことがある労働者を除く)、及び MOLISAや保健省が公布したリストに定められた重労働・有毒・ 危険な業務に従事する場合 12 警備員、ボディーガード 13 コールセンターのオペレーター 14 経理税務補助 15 自動車修理、テストの技術者 16 工業デザイン、インテリアデザイン 17 運転手 連絡先 長島・大野・常松法律事務所 www.noandt.com アレンズ法律事務所 www.allens.com.au www.vietnamlaws.com ホーチミン事務所 Suite 605, Saigon Tower 29 Le Duan Boulevard, District 1 Ho Chi Minh City, Vietnam T +84 8 3822 1717 F +84 8 3822 1818 ロバート・フィッシュ Robert.Fish@allens.com.au ハノイ事務所 Suite 401, Hanoi Towers 49 Hai Ba Trung Hanoi, Vietnam T +84 4 39360990 F +84 4 39360984 ビル・マゲネス Bill.Magennis@allens.com.au 中川幹久 Motohisa.Nakagawa@allens.com.au 澤山啓伍 Keigo.Sawayama@allens.com.au Allens Pte Ltd is incorporated in Singapore with limited liability, company reg no. 198803349H. Our associated firm Allens is an independent partnership operating in alliance with Linklaters LLP. 〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3-12 紀尾井町ビル T +81 3 3288 7000 F +81 3 5213 7800 小西真機 masaki_konishi@noandt.com 高井伸太郎 s_takai@noandt.com © Allens 17266
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